11 熟練冒険者

 ボルドーの街で長く冒険者をやっている俺は、目をかけていた新人のパーティーが近くにあるマーヤ村へゴブリン退治に行ったきり帰って来ないという話を聞き、なんとなく嫌な予感がして、急いで現地へとやって来た。

 こういう時、身軽に動けるのがソロの冒険者の良いところだな。


 マーヤ村は、俺が長年拠点にしているボルドーの街から、歩いて半日もしない場所にある。

 だからこそ、ゴブリン退治程度なら日帰りで済ませられる筈なのだ。

 とはいえ、あいつらが街を出てから一日半程度。

 何かあったと決めつけるのは早計だろう。

 あいつらの性格を考えれば、ゴブリン退治くらい早く終わらせようと、ろくな準備も索敵もせずに挑みそうなものだが、

 案外、アデル辺りの忠告を受け入れて慎重にやっているのかもしれない。

 ……いや、あまり想像できない光景だが。

 特に、キース辺りは我慢ができなそうだ。


 だが、そうでなかった場合。

 俺の嫌な予感が当たっていた場合……あいつらは、既に死んでいる可能性すらある。

 冒険者というのはそういうものだ。

 いつなんどき死んでもおかしくはない。


 あいつらは新人にしては骨があった。

 ゴブリン相手に負けるとは考えにくいが、それも状況による。

 ゴブリンの中に上位種でもいれば、普通に敗北もあり得るだろう。

 一匹くらいならどうにかなるかもしれないが、複数の上位種に囲まれればひとたまりもない。

 もしくは、依頼中にゴブリン以外の強敵と遭遇したのかもしれない。


 まあ、全ては仮定の話だ。

 この予感が外れてくれる事を祈ろう。

 もし当たっていれば……遺品くらいは回収してやる。


 俺は、そんな思いでマーヤ村を訪れ、あいつらの足取りを聞いた。

 そうしたら案の定、あいつらは依頼の確認を行った後、直で森に入って行ったらしい。

 つまり、既に丸一日以上、森から出てきていないという事だ。

 嫌な予感が現実味を帯びてくる。


 その後、俺もまた森に入り、あいつらの足取りを探す。

 そうしている内に、人の足跡を見つけた。

 丁度三人分だ。

 ほぼ間違いなく、あいつらのものだろう。


 足跡を辿って行くと、洞窟の入り口らしき場所に着いた。

 足跡は、この洞窟の中へと続いている。

 しかも、ここにはゴブリンのものと思われる小さな足跡も残されていた。

 一際大きい足跡は、おそらく上位種のホブゴブリンのものだろう。

 あいつらだと、一対一では荷が重い相手だ。

 もし、この洞窟の中でゴブリンにやられたのだとすれば、あいつらはもう……。

 唯一生きている可能性があるのは女であるアデルだけだが、その場合は死ぬよりも辛い目に遭っているだろうな。

 ゴブリンが人間の女にする事と言えば、悲惨の一言に尽きる。

 もしそうなっているのなら、一刻も早く助けなければ。


 腰の道具袋から松明を取り出し、火を付ける。

 それを盾を装備したままの左手に持ちながら、洞窟の中を探索した。

 この道具袋は収納の魔法が籠められた魔道具だ。

 その中には、見た目以上の物を入れておける。

 高位の冒険者でなければ手が出ないくらいには高価だが、これに助けられた事は多い。


 そうして、アデルの生存を信じながら洞窟の中をしばらく進んだ時、遂にそいつらと遭遇した。


「やはり、ゴブリンか!」

『ギィ!』


 不快な声を上げながら突撃してくるゴブリンども。

 数は普通のゴブリンが十匹。

 ホブゴブリンが一匹。

 なるほど、確かにこの数なら、あいつらが負けてもおかしくはない。

 普通のゴブリンを肉壁にしてホブゴブリンが暴れれば、駆け出しの新人にはキツイだろう。


「ハァ!」

「ギッ!?」


 だが、俺にとっては脅威でもなんでもない。

 腰に差した黒鉄の剣を抜き放ち、ゴブリンを一匹ずつ叩き斬っていく。


「ギィイイイイイイイイ!」


 続いて、ホブゴブリンが巨体に見合ったデカイ棍棒を振り回してくるが、左手に装備した黒鉄の盾で受け流す。

 松明を持ったままなのがハンデになっているが、そんな事は関係ない程に、俺とこのゴブリンどもの間には実力差がある。

 ホブゴブリンも、パワーだけは大したもんだが、技術がまるで伴っていない。

 まあ、ゴブリンに技術なんて言っても仕方ないが、そんな力任せの攻撃にやられる俺ではない。


「《スラッシュ》!」

「ギィッ!?」


 ホブゴブリンが棍棒を振りきったところを狙って、俺は剣術のスキルLvを上げる事で習得する事ができる技、アーツを使ってホブゴブリンの腕を切断する。

 そして、ホブゴブリンが痛みに呻いた隙を突き、その胴を薙いだ。

 上半身と下半身が分離し、その断面から大量の血が溢れ出す。


 そうしてホブゴブリンは死に、他のゴブリンどももすぐに片付けて後を追わせた。

 だが、ここにアデルはいなかった。

 ドイルとキースの死体もない。


「……他の一団がいるのか?」


 いささか釈然としない気持ちになりながらも、俺は洞窟の探索を続けた。

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