109 勇者VS魔王軍幹部

 勇者と魔王の激突を中心として、戦いは続く。

 私は順調に漁夫の利をかっさらい続けてるけど、その一方で主戦場にも変化が見られた。


「《フォトンブレード》!」

「くっ……!?」


 神道に魔王が少し押されている。

 あの魔王がだ。

 正直、信じられない。


 でも、よく見るとその理由がわかった。


 魔王と神道の戦闘技術はほぼ互角。

 基礎スペックでは魔王が上。

 逆に、相性では神道が有利。

 ただし、魔王との地力の差を完全に埋められる程ではない。

 総合的な強さでは、まだ魔王の方が上だ。


 では、何故に魔王が苦戦してるのか。

 その答えはただ一つ。

 味方の差としか言い様がない。


ーーー


 天使の微笑みミカエル


 対象とした味方一人のHPを急速に回復させ続ける。


ーーー


 剣の英雄ランスロット


 自身と味方の剣による攻撃力を大幅に上昇。


ーーー


 導きの魔導師オルフェウス


 自身と味方の魔法による効果を大幅に上昇。


ーーー


 鑑定に成功した十二使徒の真装の中に、こんな反則効果を持つものがあった。

 他者強化型の真装。

 それも複数。

 何人もの真装使いを殺してきたからわかるけど、このタイプの真装は実はかなりレアなのだ。

 私が今まで見てきた中では、ゴブリンゾンビ、アイヴィとかいう女、エマとかいう女。

 この3人しかいなかった。

 何ヵ国も潰してきた中でそれしか出会わなかったんだから、本当に希少なんだと思う。


 そんなのが、ここに来て新たに3人。

 しかも、それぞれの効果が重複して大変な事になってる。

 これが他者強化型の一番怖いところだ。

 おまけに、こいつらは真装の効果を抜きにしても純粋に強いときた。

 今だって、幹部の相手をしながら神道を援護してる奴がちらほらいる。

 ひとえに、連携の巧さ故だと思う。


 それに対して、魔王軍にそんな事ができる人材はいない。

 幹部の真装は、清々しいまでに全員が自己強化型。

 連携もまた、清々しい程に皆無。

 むしろ味方の足を引っ張るレベルだ。

 オーガキングの振りかぶった棍棒が、後ろにいたオークキングの脳天を強かに打ち付けた。

 もしかしたら、真装には本人の性格が出るのかもしれない。

 とりあえず、こいつらを一ヶ所に集めて戦わせるのは愚策だという事がよくわかった。

 混ぜるな危険。

 

 でも、さすがに幹部とて無能ばかりではないらしい。

 この状況を打破すべく、行動を起こした奴が二体程いた。


「うぉおおおお! 《フェンリルキック》!」

「《タートルガード》!」

「ッ!?」


 押され気味の魔王の眼前、神道の目の前にフェンリルが蹴り飛ばした人化状態の亀が割り込み、神道の攻撃を魔王の代わりに受け止めた。

 魔物殺しの聖剣が亀に叩きつけられる。

 でも、亀は真装の甲殻が少し削れたくらいのダメージで耐えきってみせた。


ーーー


 真装『ダイアモンド』 耐久値70000


 効果 防御×4 魔耐×4

 専用効果『金剛石の亀甲殻ダイアモンド


 真装のスキルによって顕現した力。

 本来の持ち主以外に使う事はできない。


ーーー


 金剛石の亀甲殻ダイアモンド


 防御、魔耐のステータスを大幅に上昇。


ーーー


 これが、鑑定に成功した亀の真装の能力。

 防御力お化けだ。

 やっぱり、私の予想通り、勇者の攻撃でもそれなりに耐えられるらしい。


「ふぉっふぉっふぉ。魔王の嬢ちゃん、ここはワシらに任せて先に行きなさいな」

「ぬ!? しかし……」

「なぁに、魔神様さえ蘇ればワシらの勝ちなんじゃろう? 幸い、時間稼ぎはワシの得意分野じゃよ。だから、安心して行きなさい」

「……すまぬ、トータス。恩に着るぞ!」


 あ、魔王が動きを変えた。

 この場を放置し、街の中心へと向けて一直線に飛んでいく。

 私としては、あんまり喜ばしくない流れだ。

 でも、邪魔するのはリスクが大きすぎる。

 静観するしかないか。


「待て!」

「行かせんよ」

「魔王様の邪魔はさせん!」

「くっ!?」


 魔王を邪魔しようとした神道を、亀とフェンリルが抑える。

 前回、私は神道との戦いを、中型犬の群れで野生の狼に挑んだみたいな話と例えた。

 そして、私はその時、勇者や魔王みたいな怪物と戦うには、最低限、怪物を止められるだけの戦力が必要だという結論を下した。


 今の状況はまさにそれだ。

 亀が人化を解除し、再び山のような巨体となって、文字通り壁の如く神道の行く手を遮る。

 その亀を盾にしながら、フェンリルが翻弄した。

 即席にしては見事な連携。

 脳筋幹部とは思えない。

 そして、他の幹部達も魔王が抜けた事で本能的な危機感を覚えたのか、目の前の十二使徒よりも神道を優先して攻撃するようになった。

 

 結果、勇者と十二使徒相手に魔王抜きでも戦えている。

 魔王を追わなきゃいけない焦りで、神道の動きが雑になってるのも大きい。

 元々、数は魔王軍が上なんだから、やってやれなくはないって事だ。


 さて、私も少しは働こうか。


 ミスリルゴーレムを壁にして、オートマタを突撃させる。

 上手く立ち回れば、十二使徒の一人くらいは抑えられるかな。


「ぐぎゃ!?」


 あ、神道がオーガキングの首はねた。

 やっぱり、そう上手くはいかないし、長くは保たなそう。

 でも、私は私にやれる事をやる。

 それだけだ。


 とりあえず、オーガキングの死体は回収しておこう。

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