57 戦いの準備

 とりあえず、魔王の道案内はリーフでいいか。

 今のところ、オートマタ以外で唯一、ダンジョン外でまともに動かせる駒だし。

 道案内に戦闘力はいらないから、リーフでも務まるだろう。


 という事で、私はオートマタを再起動させ、リーフに指示を出した。


「リーフ」

「は、はい!」

「これから、魔王様が幹部を連れて私のダンジョンに来る。

 地図を渡しておくから、王都まで案内して」

「ええ!?」


 まあ、驚くよね。

 それでも、やってもらう。


「命令ね」

「……はい。わかりました」

「それと、決して失礼な態度を取らない事。もし魔王様の前でそんな事やらかしたら……」


 そう言いながら、オートマタをリーフの目の前にまで近づけた。

 そして、リーフの股の間にソッと手を置き、軽く力を籠めた。


「ひゃ!?」

「潰すだけじゃ済まないから」

「は、はい!」


 リーフは涙目で真っ青になりながらも、いい返事をしてくれた。

 それでいい。

 それに、もしも失礼を働いたら、私じゃなくて、その場で魔王か幹部に殺られると思うので、気を引き締めてもらわないと困る。


 でも、まあ、鞭だけだと上手く動いてくれないかもしれないし、飴も用意しておくか。


「その代わり、ちゃんと上手くやれたらご褒美をあげる」

「え」

「だから、頑張って」


 最後にそれだけ告げて、リーフを第一階層に転送。

 目の前にある魔王との通信部屋の壁を動かして開け、マモリちゃん人形に「入って」と言わせて、中に入れた。

 これからダンジョンを出るまでは、マモリちゃん人形の指示に従ってもらう。

 ダンジョン外に出てからは、リーフの仕事だ。

 健闘を祈る。


 そして、リーフと別れたオートマタは単独行動だ。

 少しでも敵の情報を、地理とかでもいいから得る為に、王都の中を歩き回る。

 あわよくば、勇者か十二使徒の顔でも拝めれば儲けもの。

 こっちの正体を見破る手段を持った奴と出会ったらアウト。

 そんな感じかな。


 とりあえず、決戦の地になりそうな女神教の教会とやらには行ってみた。

 うん。

 デカイ。

 遠目に見える城程じゃないけど、かなりデカイ建物。

 外見は真っ白で、まさに神聖な場所って感じだ。


 リーフの話によると、女神教は世界中に支部を持つ巨大組織との事なので、この国でも相当の力を持ってるんだろう。

 最低でも、こんなにデカイ教会を建てられるくらいの力は。


 その教会の周辺をグルっと回るように歩いていると、裏口っぽい場所の敷地からコッソリと出ていく集団を見つけた。

 数は、四人か。

 全員、そこら辺の住人と変わらないような服を着ている。

 でも、教会からコッソリと出てきたって事は、只者ではないだろう。


 これは当たりを引いたかもしれない。

 そんな思いで、物陰からその四人の顔を確認した時、━━私は驚愕した。


 まず、そいつらは全員が黒髪黒目だった。

 それ自体は、別にそこまで珍しくない。

 この世界の人間は、髪の色も瞳の色もカラフルだけど、黒髪黒目がいない訳じゃない。


 でも、そいつらの顔に、私は見覚えがあった。


 この世界に来る前。 

 そして、私が引きこもりになる前に見た顔。

 四人の内三人は印象が薄いけど、最後の一人の顔はしっかりと覚えている。


 私は、オートマタを奴らから10メートル以内の距離、擬似ダンジョン領域に捉えられる距離にまで忍び寄らせ、そのステータスを鑑定した。


ーーー


 異世界人 Lv20

 名前 ソラノ・アカネ


 HP 100/100

 MP 800/800


 攻撃 42

 防御 31

 魔力 711

 魔耐 201

 速度 29


 ユニークスキル


 『空間魔法』


 スキル


 『MP自動回復:Lv30』『火魔法:Lv15』


 称号


 『勇者』『異世界人』


ーーー


 ソラノ・アカネ。

 そらのあかね。

 空野茜。

 それは、私が引きこもる直前の担任教師の名前だ。

 本当はどうか知らないけど、少なくとも表面上は良い人だったと思う。

 私へのイジメを止めようともしてたし、引きこもった私を訪ねて家に来る事も多かった。

 後者に関しては、割と怒ってるけど。


 そんな教師が、なんでこの世界に?

 そこまで考えた瞬間、私の脳裏にある推測が浮かんできた。


 私のステータスに表示されている称号『誤転移』。

 今まで、この称号の意味は、女神とやらが私を・・召喚しようとして失敗したんだと思ってた。

 でも、そうじゃなかったとしたら?

 私を召喚しようとしたのではなく、クラス全員・・・・・を召喚しようとした結果、学校にいなかった私だけ座標がズレてダンジョンコアの所に転移させられた。

 そう考えると、一応の辻褄が合ってるような気がする。


 という事は、さんざん気にしてきた私以外の勇者って、クラスメイトの連中なのか?

 私をイジメて、私を傷付けて、私を引きこもりにした連中が今、敵としてこの世界にいるのか?


「……ハッ」


 私は居住スペースの中で、嘲るように嗤った。

 ああ、そうか、そうだったのか。

 勇者はあいつらだったのか。

 あいつらは私を引きこもりに追いやっただけじゃ飽き足らず、今度は私の聖域引きこもり場所まで奪おうとしてるのか。

 このまま私が魔王軍幹部として戦えば、奴らと敵対する可能性は非常に高い。

 そして、そんな状態で私の本体の居場所がバレたら、確実に攻めて来るだろう。

 押し入って来るだろう。

 ユニークスキルという凶器を引っ提げて、まるであの時のストーカーのように、私の聖域に土足で踏み入ってくるだろう。


「そうはさせない」


 そうなる前に殺す。

 私と召喚時期が同じなら、まだそんなに強くなってはいない筈だ。

 だから殺す。

 強くなる前に殺す。

 私は今度こそ、奴らの暴力から身を守りきってみせる。


「まずは、あいつらからだ」


 そうして私は、害虫駆除を開始したのだった。

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