119 エピローグ

 魔神との戦いから数年が経った。


 あれ以来、私の生活は平穏そのものだ。

 あの後、私は魔神を倒して得た膨大なDPで、ダンジョンを何百階層という規模の超大型ダンジョンへとリフォームした。

 おかげで、侵入者が最深部へと到達する事は完全になくなった。

 万が一辿り着けたとしても、最後の番人である完成体リビングアーマー先輩に勝てる奴がそうそういるとは思えない。

 相手が魔王や勇者でもない限り、中に私がINする必要すらないだろう。

 そして、魔王や勇者が相手でも、私がINすれば普通に勝てる。

 安泰だ。


 というか、そもそも侵入者自体が滅多に来ない。

 たまに野良の魔物が来て、雑兵ゴーレム部隊に狩られる程度。

 人間は来ない。

 だって、人間どもは魔王軍との戦争で世界の半分を失い、魔神のせいで各国のリーダーだったエールフリート神聖国を失ったせいで、復興作業にかかりきりだから。

 ダンジョンのある旧ウルフェウス王国領にまで手を伸ばすまでに、最低でもあと十年はいると思う。

 まあ、手を伸ばしてきた場合は潰すんだけど。


 でも、その心配もあんまりない。

 ダンジョンの周辺一帯、旧ウルフェウス王国全土くらいの規模に植林(植物系モンスター含む)した上で、魔王軍残党や野生の魔物を調教して放っておいた。

 そして、奴らは僅か数年で生態系を築き上げた。

 これによって、旧ウルフェウス王国領は魔の森となり、凄まじい危険地帯と化したのだ。

 そんな超危険地帯の中央にダンジョンはある。

 ここまで踏み込もうなんて輩はまずいないだろうし、いたとしても死ぬ。

 最低でも真装使いがダース単位でいないと、ダンジョンに辿り着く前に死ぬ。

 安泰。


 それでも、人間というものは侮れない。

 いつ文明が進化して、近代兵器的な何かとか、ダンジョン封じのアイテムとかを作ってくるかわからないのだから。

 魔王が十年も戦争してたくせに幼女だった事からもわかる通り、ダンジョンマスターは老いない。

 寿命というものがあるのかどうかもわからないレベルだ。

 なら、私は遥か未来の事まで考えて動く必要があるのだから。


 その為にも、いくつもの国の上層部を調教したり、定期的に複数体のオートマタとリーフを外に放ったりして、情報収集を続けてる。

 ついでに、リーフのお散歩も兼ねて。

 最近は居住スペースで室内飼いしてるリーフだけど、やっぱり私みたいな生粋の引きこもりでもない限り、たまには外で太陽の光を浴びないと健康に悪いだろうし。

 なんにせよ、これで人間どもの監視もバッチリだ。


 あと警戒に値するのは、やっぱり神だと思う。

 魔神の同類がいつまた襲来してくるかわからない。

 それに、弱ってるとはいえ女神もいる。

 まあ、女神に関しては別に敵対してる訳じゃないから大丈夫だとは思うけど。


 私は魔神と違って、世界を滅ぼすつもりなんて微塵もない。

 魔神との戦いに助太刀してきた以上、女神だってそれはわかってる筈。

 だったら、あんまり過激な事さえしなければ、わざわざ敵対はしないだろう。

 向こうだって、ろくに戦えない程弱った状態で、魔神を倒した私と戦いたいとは思わないだろうし。

 実際、この数年で女神からの干渉は一度もない。

 国を調教で傀儡にするのはギリギリかと思ったけど、今のところはそれを利用して国を滅ぼすつもりもなく、情報操作程度にしか使ってないからセーフと判定されたのかもしれない。


 なら、やっぱり最大の問題は魔神の同類。

 これに関しては対策が立てられるようなものでもないから、出たとこ勝負しかないと思う。

 せいぜい、自軍の強化を怠らない事くらいしかできる事がない。

 でも、私だって魔神を倒した経験値でめっちゃ強くなった。

 そのステータスたるや、もう神の領域に片足突っ込んでるんじゃないかと思えるレベルだ。

 そう簡単にはやられない。

 魔神に削られた戦力の補充もできたし、来るなら来いって感じだ。

 いや、来ないならそれに越した事はないんだけど。


 そんな感じで、一抹の不安を残しながらも、私は平穏な生活を手に入れた。



「あの、ご主人様……」

「何?」


 そして現在。

 私は居住スペースでリーフを抱き枕にして横になっていた。

 あの日、この手で直にリーフに触れた時から、なんとなくこの温もりが手放せない。

 エルフ特有の尖った耳をふにふにするのがマイブームだ。


「うぅ……恥ずかしいです……」


 リーフが羞恥で顔を真っ赤にする。

 そんな様子を、最近は素直に可愛いと思えるようになってきた。

 これは、心の傷が癒えてきてる証拠だろうか?

 まあ、何でもいいや。


 そんな事を考えてる内に、だんだん眠くなってきた。

 鉄壁のセキュリティで守られた自宅の中で、可愛いペットをモフり、こうして安眠を貪る。

 それはまさに、私の思い描く限り、最高に贅沢で幸せな引きこもり生活。

 これぞ、引きこもり道の極地。

 私はようやく、引きこもり道を極めたのだ。


 ここまで長かった。

 侵入者を退け、危険要素を排し、最後には神まで殺した。

 その末にようやく手に入れた幸せを、今は存分に噛み締めよう。

 そして、これからもこの生活を続けられるように頑張ろう。


「お休み、リーフ」

「は、はい。お休みなさい、ご主人様」


 決意を新たに、私は明日に備えて穏やかな眠りにつくのだった。

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