99 勇者を袋叩きの刑に処す

 フェンリルが自分に向かってきた部隊の半分くらいを殺した辺りでよくやく接触に成功し、なんとか最低限の必要事項だけ伝えて、フェンリルを砦へと送り込む事に成功した。

 まあ、最低限の事しか伝えなかったというより、最低限の事だけ聞いた段階で、フェンリルが会話を終わらせて走り出しただけだけど。

 脳筋の相手って凄まじく疲れる……。


 でも、これでどうにか軌道修正はできた。

 フェンリルと戦ってた連中も、フェンリルを追って砦に攻め込んで行ったし。

 今頃、砦の中は大乱闘ス◯ッシュブ◯ザーズだと思う。

 ちょっと脱線しかけたけど、概ね予定通りの流れに戻った。


「さて、それじゃあ行こうか」


 満を持して、ゾンビ軍団を引き連れたオートマタを砦内部へと向かわせる。

 道中、思った通り兵士どもが血みどろの殺し合いを演じてたので、行きかけの駄賃に殺せるだけ殺しながら進んだ。

 ここまで来ると、もうどっちが敵の兵士で、どっちが味方の兵士なのかわからない。

 だって、どっちも装備が同じなんだもの。

 まあ、殺した中に味方の兵士がいたって構わないけどね。

 どうせ、完全な支配下にすらない、使い捨ての肉壁だし。

 多少減ったところで、欠片も惜しくはない。

 むしろ、DPと経験値になるから、摘まみ食いを推奨する。


 そうして先へ先へと進んで行った時、遂に今回のメインターゲットである神道を発見した。

 既にフェンリルとぶつかっている。

 そして、フェンリルと神道の両方にバーサーカーズが襲いかかり、大乱戦になっていた。

 フェンリルは「知ったこっちゃねー!」とばかりに千切っては投げ、千切っては投げ。

 逆に、神道は人間を殺す覚悟がないのか、防戦一方。

 うん。

 狙い通りの展開だ。


 とりあえず、神道対策にオートマタの髪の色を再度変更。

 金髪から黒髪へと戻す。

 これで、少しは神道が動揺してくれればいいけど。


「《ファイアーウォール》!」


 オートマタの髪を染め直し、さあ行くぞと思ったところで、炎の壁が神道を守った。

 術者は、あのアイヴィとかいう女か。

 そして、どうやら向こうはアイヴィとかいう女が雑魚狩り、神道が大物狙いの作戦でいくつもりらしい。

 的確な判断だと思う。

 そうなると、まずはアイヴィとかいう女を潰した方がいいかな。

 幸い、何故か既に弱ってるみたいだし、真装使いゾンビ軍団全てをぶつければ充分に勝機がある筈。


 しかし、その作戦を実行しようとした瞬間、アイヴィとかいう女が神道を刺した。


「……え?」

「なっ!?」 


 そして、刺した方も刺された方も驚いてる。

 私もちょっと驚いたけど、アイヴィとかいう女をよく見て見れば、すぐに原因がわかった。

 その体には、細い糸が絡みついている。


「わーい! 新しいお人形さんだー!」

「ぐっ……!?」


 案の定、それをやった下手人であるアラクネが、その能力で操った大量の兵士を連れて現れた。

 この現象の種と仕掛けはわかってる。

 さっき接近した時に鑑定できた、こいつの真装の専用効果だ。


ーーー


 真装『マリオネット』 耐久値5000


 効果 魔力×4

 専用効果『蜘蛛糸人形劇マリオネット


 真装のスキルによって顕現した力。

 本来の持ち主以外に使う事はできない。


ーーー


 蜘蛛糸人形劇マリオネット


 真装の糸で絡め取った相手を、意のままに操る事ができる。


ーーー


 ある意味、こっちの調教に似た効果のスキル。

 調教と違って精神面までは操れないみたいだけど、代わりに敵を戦闘不能にしなくても操れるメリットがある。

 まあ、真装を引っ込めたり千切ったりされたら支配が解けるんだろうし、そういう意味では調教の方が優れてる。

 ただ、一概に下位互換とも言えない強力な能力だ。


 そして、アラクネがアイヴィとかいう女を操った以上、当初の予定よりも完璧な勇者包囲網が完成した。


 殺すに殺せない偽勇者討伐軍。

 操られて敵の手に落ちた仲間が二人。

 他の操られてる連中と区別がつかない真装使いゾンビ軍団。

 その中に紛れ込んだ、かつての仲間。

 そして、私の顔をしたオートマタ。

 精神的な問題で神道が攻撃できない相手がこんなにいる。


 おまけに、今の神道ですら殺しうる強力な魔物が二体。

 現在の戦力でなら、考えうる限り最高の布陣。

 神道。

 ここで死ね。


「わーい! わーい!」

「ニコ! 遊んでいないで真剣にやれ!」

「それはあなたもですよ、シロさん。あまり勝手な行動はしないでくださいと言った筈ですが?」

「ぬ!?」


 気の抜けた会話に、思わず口を挟んでしまった。

 正直、一番不安なのがこいつらの存在だ。

 なんか、油断しまくって負けそうな予感がヒシヒシとする。


「勇者はここで確実に仕留めます。二人とも、気合いを入れてください」

「はーい!」

「ふん! わかっている!」


 だから、一応釘を刺しておいた。

 本当にわかってるのか不安で仕方ないけど、その不安は呑み込むしかない。

 大丈夫……だと思っておこう。


 そして、私はオートマタの剣を神道へと向け、指示を出した。


「行きなさい」


 その命令に従い、ゾンビ軍団が一斉に神道へと飛びかかる。

 それとタイミングを合わせるように、フェンリルとアラクネの操り人形達もまた突撃した。


 さあ、バトル開始だ。

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