52 これからどうしよう?
「あの……ご主人様?」
魔王旋風の強烈な威力にやられて、しばらくベッドで放心していた私は、そんな声を聞いて、面倒な気持ちでモニターを見た。
オートマタの近くを映したモニターには、私以上に困惑しているリーフの姿が。
ああ、そういえば居たね。
結局、何の役にも立たなかった奴隷が。
どうやら、私が放心してたせいで、オートマタもしばらく止まってたから、我慢できずに声をかけたらしい。
正直、助かった。
このままだと、カオスちゃん人形を放置したまま寝ちゃいそうだったから。
私は、オートマタを再起動させる。
「あの、さっきの人って、本当の本当に魔王、様だったんですか?」
「質問は受け付けない」
とりあえず、そう言ってリーフを黙らせ、第一階層の隅に小部屋を一つ造った。
その部屋の内装を弄りながら、オートマタにカオスちゃん人形を持たせて新しい部屋まで歩かせる。
カオスちゃん人形は侵入者扱いだから、転送機能で送れないのだ。
そんなオートマタの後を、リーフが慌てて追いかけて来た。
しかし、暗闇で何も見えず、思いっきり迷った末に、仕方なく明かりのあるさっきまで居た場所に戻って行った。
何してんだろ?
そんなリーフは放置して、新しい部屋にオートマタを入れる。
歩きながら内装を整えたおかげで、その部屋は黒を基調とした豪華な部屋になっている。
デザインは、なんとなく玉座の間みたいにした。
魔王の化身を置くんだから、こんな感じでいいだろう。
そして、部屋の奥の方にある、人形のサイズに合わせて造った小さな玉座にカオスちゃん人形を乗せた。
「ほほう! 中々に趣味の良い部屋ではないか!」
「光栄です」
カオスちゃん人形が急に喋り出したけど、気にしない事にする。
魔王旋風は去ったのだ。
誰が何と言おうと去ったのだ。
そして、この部屋にカオスちゃん人形だけを放置するのは、なんかアレだったので、さっきの魔王を参考にして、私も新たなるオートマタを作成。
二頭身でデフォルメされたデザインの、喋るマモリちゃん人形だ。
これなら、魔王が何か急に連絡を送ってきても、ノータイムで返信できる。
不興を買わない為には、こういうところにも気を使うべきだろう。
ちなみに、マモリちゃん人形のお値段は、性能を極限まで削ったせいか200DPで済んだ。
その後、この部屋に繋がる道を動く壁で塞ぎ、侵入不可能な壁の中の部屋にした。
この部屋には万が一にも侵入者に発見される訳にはいかないんだから、当然の措置だ。
第二階層以降にこの部屋を造らなかった理由は簡単。
人形とはいえ、侵入者を聖域の奥には入れたくない。
ちなみに、破壊不能の壁で侵入者を閉じ込めるとか、完全に攻略不能になる事はダンジョンの機能的にできないので、この壁は内側からなら破壊できるようになってしまっている。
……この壁が破壊されるような事態にはなってほしくないなぁ。
それすなわち、魔王との戦争開始のゴングなのだから。
来るかもしれない未来に恐怖しつつ、魔王との通信部屋にマモリちゃん人形だけを残して、オートマタはリーフの所に転送。
「わ!?」
驚くリーフを無視して、今回使った机や椅子、照明なんかを回収して、倉庫にぶち込んでおく。
もちろん、ちゃんと鑑定して、呪いとかが仕掛けられてない事は確認済みだ。
「真っ暗に!?」
あと残ってるのは、何かと煩いリーフだけか。
もちろん、こいつを居住スペースに入れる気はないから、第一階層で寝てもらう。
まあ、風邪でもひかれて使えなくなっても困るし、布団くらいは出してやるけど。
早速、DPで布団を出し、暗闇でオロオロするリーフの手を掴んで布団に押し倒した。
そして、命令。
「今日はそこで寝て」
「ええ!?」
「命令。布団を出してあげただけ、ありがたいと思って」
「は、はい」
そして、私ももう寝る。
起きてからあんまり時間は経ってないけど、魔王の対応で疲れ果てたせいで、滅茶苦茶眠い。
というか、元々寝てる最中に叩き起こされたようなもんだから、尚の事眠い。
では、お休みなさい。
◆◆◆
明けて翌日。
疲れを吹き飛ばすようにガッツリと寝た私は、お風呂に入って、顔を洗って、ご飯を食べて。
日課を一通り済ませて眠気が飛んだところで、魔王との通信部屋をモニターで見た。
そこには、沈黙するカオスちゃん人形とマモリちゃん人形の姿が。
ああ……やっぱり昨日のあれは夢じゃなかったのか。
正直、夢であってほしかった。
「はぁ……」
憂鬱全開のため息が出るけど、いつまでも現実逃避してる訳にはいかない。
魔王の不興を買ったら殺されるかもしれないんだ。
それを避ける為には、とりあえず仕事して媚びを売るしかない。
直接話してみた感じ、あの魔王は使える部下を簡単に切り捨てたりはしないタイプだと感じた。
魔王を性的な意味で狙っていたというゴブリンロードが生かされてた時点で、その可能性は高い。
というか、そう思わないとやってられない。
それを踏まえた上で、これからどうしよう?
まず、ダンジョンの更なる強化は必須。
魔王が敵に回っても大丈夫なくらいに強くしないと、とても安心して眠れないよ。
無理ゲーとしか思えないけど、やるしかないでしょ。
次に、魔王から任された仕事もしないと。
これは嫌だけど、やるしかない。
仕事してるアピールは必須だ。
殺されたくないです。
まあ、私の好きにしていいっていうのが、唯一の救いかな。
魔王軍が自由な職場でよかった。
それに、考えてみれば元の世界で引きこもってた時も、パソコン越しに仕事はしてたしね。
引きこもりでも仕事はしなくちゃいけないって事だ。
今回の仕事もオートマタ越しだし、パソコン越しの仕事と大して変わらない。
私自身が危険に晒される可能性は低い。
そう思っておこう。
私の精神安定の為に。
さて、その仕事だけど。
とりあえずは、この国の首都を偵察してみるか。
魔王には国を落とせ的な事言われたし、敵の力を知るのは必要な事だろう。
敵を知り、己を知らば、百戦危うからず。
まあ、どれだけ敵と己を知っても、魔王みたいな超生物には勝てる気がしないけど。
そんな魔王と戦える十二使徒なる連中とかが、この国にいない事を祈ろう。
もしいたら、魔王に報告だけ入れて、チマチマと街とか村とかを潰せばいいや。
そんな事でも、続けてれば国が傾くだろう。
多分。
「うーん……」
と、私が考えを纏めて行動に移そうとした時、起動したオートマタのモニターから、そんな呻き声が聞こえてきた。
このダンジョンで、私以外に声を上げる奴なんて一人しかいない。
リーフだ。
なんか、苦しそうな表情でうなされてる。
悪夢でも見てるんだろうか?
「痛い……ご主人様……潰さないで……」
……なんという夢を見てんだ、こいつは。
夢にまで見るとは、ちょっと脅しすぎたかな。
「痛い……潰れる……お尻、痛い……助けて……」
ん?
お尻?
なんか、おかしな寝言が混ざり出した。
私は、潰す気はあっても掘る気はないんだが。
掘る物もないし、そんな趣味もないし。
まあ、そんな事はどうでもいいとして。
叩き起こすか。
オートマタを使って、リーフの肩を揺する。
「起きて」
「……ん」
そうして、リーフはぼんやりと目を開けた。
でも、目の焦点が合わない。
壊れ……ああ、いや、ダンジョン内は真っ暗だから、こいつには見えないんだったか。
倉庫からカンテラを転送し、オートマタに持たせて明かりをつけた。
「あ……ご主人様」
「起きた?」
「あ、はい」
「なら、行くよ」
リーフの使ってた布団を倉庫に回収し、オートマタを出口に向かって歩かせる。
リーフは、慌てて後を追いかけてきた。
「あの、ご主人様……」
「昨日の事は質問禁止。誰かに喋る事も禁止。もちろん、私の正体をバラすのも禁止。
あなたは黙って私の言う事を聞いていればいい。
そうすれば、潰さないでおいてあげる」
「……はい!」
そう言うと、リーフはちょっと嬉しそうな顔になった。
こんな事で喜ぶとは、こいつはもうダメかもわからんね。
まあ、ダメでも大事な道具だし、これからも使っていくけども。
そうして、リーフとオートマタは、ダンジョンから去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます