51 上司の話は心して聞け!

「さて、本来なら新しい幹部の誕生を祝して乾杯といきたいところなんじゃが、その前に、お主には我の目的を話しておこうと思う」

「目的、ですか?」

「そう。魔王に選ばれた者の目的じゃ。他の奴らは自分の欲望にしか興味なくて真面目に聞いてくれんからのう。

 じゃから、お主は真面目に聞いてくれると嬉しい」


 そうして魔王は語り出した。

 まるで誰かに話したくて堪らなかったかのように、結構ノリノリで喋った。


「我の目的は、太古の昔に女神によって封印された『魔神』様の復活!

 そして、魔神様の加護によって人間どもを駆逐し、魔物によって世界を支配する事じゃ!」


 魔神の復活。

 女神によって封印されたっていうのは初耳だけど、概ねリーフの言ってた、おとぎ話の通りか。

 そして魔王の目的が世界征服とは、これまた何ともテンプレートな。

 動機は……聞かなくていいや。

 興味もないし。


「魔神様は全ての魔物の生みの親であり、封印された今でも、神託によって代々の魔王を指名し、力を与えておる。

 そして、魔神様の最高傑作である魔王城を託し、その力によって封印を破る事を期待されているのじゃ!」


 ん?

 今、聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。

 魔王城が魔神の最高傑作?

 私の予想だと、魔王城はダンジョンだ。

 それが魔神の最高傑作。

 つまりダンジョンを、もっと言えばダンジョンコアを造ったのも魔神って事か。

 ……攻略法知ってそうで怖いな。

 魔王と同じく、敵に回したくない。


「魔神様の封印場所は、忌々しき女神教の総本山、エールフリート神聖国の首都!

 そこにある魔神様の封印に向かって、外から魔王の力を、内から魔神様の力をぶつける事によって、封印は解ける!

 そうすれば、魔神様の圧倒的なお力によって、抵抗を続ける人間どもは踏み潰され、魔物による混沌に支配された世界が始まるのだ!」


 熱く語る魔王。

 というか、魔神様の圧倒的な力て。

 もしかしなくても、魔神って、この魔王よりも遥かに強いんか?

 下手したら、ステータス100万とかいってるかも。

 うわぁ……本気で敵に回したくない。

 

「と、まあ、我の目的はこんな感じじゃな。

 要するに、魔神様を復活させ、そのお力で魔物の為の新世界を築くのが我の夢なのじゃ。

 抵抗する人間どもをねじ伏せ、エールフリート神聖国の首都を落とせば我の勝ち。

 そこまで進軍する前に我を討ち取れば人間どもの勝ち。

 わかりやすいじゃろう?」


 まあ、確かに。


「さて、我の目的というか、野望の話はこれで終いじゃ。

 何か質問はあるか?」

「では」


 私は、オートマタの手を挙げて質問した。

 凄まじく疑問に思ってる事を。


「魔王様が単騎で目的の国に突撃する事はできないのですか?」


 それで落とせるのなら、私が協力する必要もなくなって万々歳なんだけど。


「無理じゃな。如何に我と言えども、一人で女神教の総本山を落とす事はできん」

「ダンジョンの転送機能を使って、後から魔物の軍勢を呼べばいいのでは?」

「それも無理じゃ。女神教には女神の加護を受けた『十二使徒』という怪物どもがおってのう。

 その半数は戦場に出ておるが、残りの半数は首都の防衛に就いておる。

 転送機能でチマチマと送った軍勢くらいでは、十二使徒率いる聖騎士団と首都の防壁にあっさりと蹴散らされて終わりじゃ。

 実際にやったから間違いない。

 やるならば、全軍を以って首都を取り囲まねばならんのじゃ」


 何、その化け物軍団。

 私、そんな奴らと敵対しなきゃいけないの?

 ああ……胃が痛い。


「奴らは本当に面倒でのう。

 何人かは戦場で殺してやったんじゃが、そうすると、すぐに女神の加護が別の誰かに移り、そやつが次の十二使徒になりおるんじゃ。

 潰しても、潰しても、際限なく湧いてきよる。

 やってられんわ」


 化け物な上にスペアが大量にいるとか。

 何、その悪夢。

 というか、そんなの相手によく魔王軍は戦えてるな。

 ああ、魔王軍も化け物揃いって事か。

 納得。


「他に質問はあるかの?」

「では、私は具体的に何をすればいいのでしょうか?」

「そうじゃのう……基本的に、魔王軍は連携とか考えず、個々が好き勝手に暴れておる。

 故に、お主も好きにやってよいぞ。

 強いて言えば、適当に国の一つでも落としてくれると助かる」

「わかりました」


 国って、適当にやって落とせるものなんだろうかと思ったけど、口には出さない。

 せっかく自由行動を許可されたんだ。

 余計な口は挟むまい。


「他には何かあるか?」

「いえ、特には」

「そうか。ならば、我はそろそろ魔王城に戻るとするかのう。

 あまり戦場を離れすぎると、他の連中が十二使徒に全滅させられかねん」


 どんだけですか、十二使徒。

 戦慄する私の前で、魔王はピョンと跳ねて椅子から立ち上がり、メニューを出した。

 転送機能を使うつもりなんだろう。

 でも、その途中で何か思い出したように手が止まった。

 早く帰ってほしい。


「ああ、そうじゃ。我に何か伝えたい事があったら、これを使うがよい。

 お主を参考にして、今思いついた事じゃ」


 そう言う魔王の前で、テーブルの上に魔法陣が広がり、その中からある物が出てきた。

 二頭身くらいの、魔王をデフォルメしたようなデザインをした人形だ。

 鑑定してみたら、オートマタって出た。

 マジかい。


「これを置いて行くから、何かあったらこの人形に話しかけよ。

 ついでに、我が何か伝えたい時にも使うから、丁重に保管するように」


 その声は、魔王ではなくオートマタの口から聞こえてきた。

 もう使いこなしていらっしゃる。


「ふっふっふ。名付けて、喋るカオスちゃん人形と言ったところかのう。

 中々に会心の出来よ。

 では、さらばじゃ、マモリよ!」


 そうして、魔王はバッとマントを翻し、唐突その場から消えた。

 後に残されたのは、カオスちゃん人形とやらだけ。

 ……とりあえず、嵐のようにやって来た第一次魔王旋風が、一先ずは過ぎ去った。


「はぁー……怖かったー……」


 そして、居住スペースで一人、私は大きく息を吐き出したのだった。

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