18 真装使い観察日記
私がモニターで監視する中、侵入者の一団は洞窟内を徘徊するゴブリンを斬り捨てながら先に進み、遂にゴブリンチャンピオン率いる本隊と接触した。
とりあえず、無事激突してくれたようで何より。
あいつらは第一階層に住んでるんだから、侵入者達が歩を進めればぶつかる可能性が高いと踏んではいたけど、
かなり低い確率ながら、ゴブリンどもと遭遇せずに第二階層への入り口を見つける可能性もあるにはあったから、本当に一安心だ。
精々、盛大に潰し合ってくれ。
吼えるゴブリンチャンピオンを見て、侵入者どもは一瞬、呆然とした感じで動きを止めた。
真装使いの男でさえもだ。
どうやら、よっぽど予想外だったらしい。
しかし、戦場で呆然とするなんて、案外こいつは強くないのだろうか?
私がそんな淡い期待を抱いている内に、開戦。
先陣を切るように、ゴブリンチャンピオンが鉄の棍棒を振り回しながら、真装使いの男に突撃していく。
それを見て我に返ったのか、真装使いの男は、咄嗟に手にした槍を盾にして棍棒を防ぐ。
しかし、ステータスの差によって、思いっきり吹き飛ばされて岩壁に叩きつけられた。
まあ、ゴブリンチャンピオンの攻撃力は、約1300。
対して、真装使いの男の攻撃力は、約500。
正面からぶつかれば、こうなるのは当然だ。
ちなみに、真装は武装って話だから、最初は今ゴブリンチャンピオンの攻撃を防いだ槍が真装なんじゃないかと疑ったんだけど、
鑑定した結果、全然違った。
あの槍は『ミスリルスピア』って名前で、その名の通り穂先がファンタジー金属であるミスリルで出来てる高性能な槍だったけど、逆に言えばそれだけ。
特別な効果はなかった。
でも、今の一撃で折れない辺り、柄の部分もかなり上等な素材使ってそう。
まあ、長すぎて洞窟の中では使いにくそうだとも思うけど。
『ゴハッ!?』
あ。
岩壁に叩きつけられた真装使いの男が、思いっきり吐血した。
鑑定してみれば、HPが半分くらいに減ってる。
意外と弱い。
そして、ゴブリンチャンピオンが強い。
でも、ここまでの実力差があるなら、そろそろ真装を使ってくるだろう。
そうなれば、勝負はまだわからない。
それどころか、この戦力差がひっくり返る可能性すら、大いにある。
そして、私の予想は当たった。
真装使いの男が、ミスリルスピアを手放して虚空に手を翳す。
『立ち上がれ━━『アキレウス』!』
男がそんな言葉を口にした瞬間、━━その手の中にシンプルな形状の槍が現れた。
何それ!?
斬◯刀か!
卍◯でもするのか!?
そんな冗談はともかくとして。
あの槍からは、凄い力強さを感じる。
間違いない。
あれが真装だ。
そんな確信じみた事を考えながら、私はその槍を鑑定した。
ーーー
真装『アキレウス』 耐久値10000
効果 全ステータス×2
専用効果『
真装のスキルによって顕現した力。
本来の持ち主以外が使う事はできない。
ーーー
持ち主のHPを急速に回復させ続ける。
ーーー
その鑑定結果に戦慄しながら、改めて真装使いの男のステータスを鑑定し直すと、説明通り全てのステータスが二倍になり、
しかも、半分にまで減った筈のHPが一瞬にして全快していた。
チートだ。
まごう事なきチートだ。
ヤバイ。
真装の性能が予想以上だった。
不死身の化け物とか、どうやって倒せと?
なんにしても、これで勝負は決した。
真装によるステータス倍加により、男の攻撃力はゴブリンチャンピオンと渡り合えるレベルにまで上昇している。
しかも、攻撃力以外のステータスでは軒並み上回った。
おまけに、今のあの男は不死身だ。
ゴブリンチャンピオンに勝ち目はない。
どれだけ頑張っても、いたずらに勝負を長引かせるだけ。
だが、その時間を無駄にはしない。
今の内に、不死身対策を考えなくては!
……とか思ってたんだけど、事態は予想外の方向に転がり出した。
まず、ゴブリンチャンピオンが予想以上に善戦する。
ゴブリンシャーマンの援護を受け、ホブゴブリンと普通のゴブリンを肉壁にして、予想外に粘る。
まあ、それはいい。
むしろ、時間を稼いでくれればくれるだけいい。
だが、ゴブリンチャンピオンの奮戦は、時間稼ぎで終わらなかったのだ。
戦いが長引く程に、真装使いの男は焦っていった。
確かに、洞窟の中で槍を満足に使えてない影響もあり、真装使いの男は、ゴブリンチャンピオンの攻撃を何度も受けている。
だが、奴は不死身。
その程度、気にする程の事ではない筈。
なのに、時間が経てば経つ程、男は尋常じゃなく焦っていった。
最初は訳がわからなくて頭上に?マークを浮かべていた私だけど、その内、ある事に気づく。
減っていたのだ。
男の、あるステータスが。
そこで私はようやく『
減っていたのは、MPのステータス。
HPが回復する度に減り、何もしなくても減る。
そう。
あの男は、決して不死身なんかじゃなかった。
回復にはMPがいる。
そして、MPが切れた時、回復する力を失った不死身の英雄は死ぬのだ。
何もしなくてもMPが減ってるのは多分、真装の仕様なんじゃないと思う。
おそらく、真装のスキルは、発動してるだけでMPを消費するんだ。
だから奴は、最初から真装を使わなかった。
デメリットなしで使えるなら、それこそ常に出しとけばいい。
そうすれば不意討ちとかで死ぬ事もない筈。
それをしなかったという事実が、真装の欠点を証明している。
これは、勝負がわからなくなってきたぞ。
男のMPはまだまだ残ってるけど、ゴブリンチャンピオンのHPにもまだ余裕がある。
肉壁こと他のゴブリン達もまだ残ってるし、数の暴力は偉大だ。
対する真装使いの男の仲間の女達は、大して役に立ってない。
ハンナとかいう剣士の女が普通のゴブリンを倒してるけど、残りの二人は怯えて震えるだけだ。
その剣士の女にしたって、普通のゴブリンは倒せてもホブゴブリン以上には歯が立たない。
本当に、なんで連れて来たんだろうか?
そうしている内に、真装使いの男が遂に
『くそ! 撤退だ! ハンナ、囮になれ!』
『はあ!? 絶対に嫌よ!』
『命令だ!』
『ぐぅ……!?』
ん?
剣士の女が急に苦しみ出した。
これが奴隷紋の効果だろうか?
なるほど。
便利そうだ。
見てて反吐が出るけど。
『そら!』
そうして剣士の女が無理矢理ゴブリンチャンピオン達の前に立たされた瞬間、男が腰のウエストポーチから何かを取り出し、床に叩きつけた。
その何かが弾けて、周囲が霧に包まれる。
煙玉か。
あんなのもあるんだ。
ボス部屋で使われても厄介だし、強風のトラップを追加しておこう。
『今だ! 逃げるぞ!』
『待てぇ! このクソ野郎ぉおお!』
剣士の女が怨嗟の声を上げ、その隙に男と残りの女2人が撤退する。
すぐに、モニターが煙幕の効果範囲外に出た3人の姿を捉える。
男は青ざめた顔で真装を解除し、女は1人が死んだ魚みたいな目をして、もう1人はグスグスと泣いていた。
『嫌ぁああああああああああああああああ!』
そして、1人取り残された剣士の女は、煙幕が晴れた直後にゴブリンチャンピオンによって取り押さえられ、この世の地獄へと堕ちて行ったのだった。
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