92 仕込み開始
砦へと転送したオートマタに、疑似ダンジョン領域の機能を使って、部屋の前に誰もいない事を確認させてから、部屋を出させる。
今のオートマタの格好は、ダンジョンで息絶えた兵士から剥ぎ取った装備だ。
その中に顔を完全に隠すフルフェイスの兜があったので、それも着用してる。
これなら多分、普通の兵士と見分けつかないだろうし、そこまで怪しまれずに行動できる、筈。
そうして、兵士スタイルで砦の中を練り歩く。
目的地は指揮官のいる部屋なんだけど、残念ながら場所がわからないので、とりあえずリーフが描いてくれた見取り図の中で空白になってた場所、つまり冒険者が入れない兵士専用っぽい場所を歩いてる。
手段は当然、ここら一帯の部屋をしらみ潰しに探す……なんて事はもちろんしない。
なら、どうするのか?
昔の人は良い事を言った。
わからない事は人に聞けばいいと。
「ちょっと、そこのあなた達」
「はい?」
「なんでしょう?」
私はオートマタに、そこら辺を歩いていた若い兵士二人に声を掛けさせた。
そして、そのまま無言で腹パン。
「「!?」」
まだ新米なのか、最初の侵入者三人組くらいのステータスしか持ってなかった若い兵士二人は、オートマタの抉るようなボディーブローを諸に食らってリングに沈んだ。
その二人を人目に付かない場所まで引き摺って行き、そこで先生ゾンビを召喚してダンジョンの中ボス部屋へと拉致。
オートマタは何事もなかったかのように砦の探索に戻り、若い兵士二人の相手は、新しく造った三体目のマモリちゃん人形がする。
といっても、既にかなりのダメージを受けていた二人を調教ゾンビの餌食にしてから、質問と調教を施すだけだけど。
「指揮官と勇者達のいる場所を教えて」
そう問い詰めたけど。
「し、知らない!」
という答えが返ってきた。
調教の影響下にいる奴が嘘を吐ける訳がないので、どうやらこの二人は本当に知らないらしい。
まあ、末端の兵士が知ってる情報には限りがあって当然か。
仕方ない。
仕方ないから、調教だけ済ませて、回復魔法をかけてから解放しておいた。
指揮官を調教してる内にわかった事なんだけど、調教のスキルによる支配力は私の想像を絶していた。
最初は奴隷紋と似たようなものだと思ってたんだけど、とんでもない。
このスキルの餌食になった者は、調教を通り越して、主に全てを支配される。
全て。
そう全てだ。
体も、そして心すらも。
例えば、リーフに「心から笑え」という命令をしたとする。
奴隷紋の力では心までは操れない。
だから、多分リーフは突然の命令に困惑して上手くは笑えないだろう。
実際、一度やってみたからよくわかる。
でも、これを調教スキルによる被害者にするとどうか?
答え、ちゃんと心の底から笑う。
少なくとも表面上はそう見える。
指揮官はそうだった。
部下を殺された恨みも、半殺しにされた怒りも忘れて、ただ大笑いした。
不気味にも程があった。
それと同じで、不都合な記憶を無くせと命令すれば、その通りになるし。
私に調教された事を誰にも話さず、普段通りに振る舞えと命令すれば、その通りになる。
心から私に服従を誓えと命令すれば、犬のように三回回ってワンと言わせる事すらできる。できた。
このように、このスキルの効果は調教というより洗脳に近い。
それも完璧な。
さすがは勇者のユニークスキルと言わざるを得ない。
まあ、その代わり、スキルの効果が解けた瞬間、今までの自分の異常を自覚するみたいだから、そこだけは完璧じゃないけど。
今のところ、調教ゾンビ自身が解除しない限り、スキルの効果が解ける事はないけど、他に解除方法がないとも限らない。
だからこそ、このスキルで味方にした奴を完全な手駒と認識するのは危険だ。
何かの拍子に効果が解けたら目も当てられないもの。
短期的に使って、用が済んだら殺すのが最善。
指揮官とかは、殺した後、ゾンビ直行コースかな。
そういう訳で、若い兵士二人組にも指揮官と似たような命令を下しておいた。
口止めと、普段通りに振る舞う事、私への絶対服従。
それから、作戦実行の時の役割を与えた感じだ。
その後も砦を歩き回り、拐いやすそうな奴を何人か調教していく。
そうしてる内に、指揮官の居場所を知ってる奴から情報を抜き出せたので、仕込み作業を一旦やめ、そいつに案内させて指揮官の所に行った。
辿り着いた場所は執務室。
どうも、指揮官は既に仕事に戻ってるらしい。
瀕死状態にしたのに翌日には復帰とか。
回復魔法って凄いよね。
そして、案内役の奴に一応部屋のドアをノックさせた。
「指揮官、失礼いたします」
「ああ、入ってくれ」
調教の被害者同士がそんな会話を交わした後、ドアが開けられる。
すると、そこには全身に包帯を巻いた指揮官の姿が。
さすがに、全快とはいかなかったらしい。
見たところ、戦闘もまだ無理だと思う。
HP減ったままだし。
でも、そんな指揮官以外に、部屋の中には三人の人間がいた。
妙齢の女が一人、私よりも年下に見える少女が一人。
そして、━━見覚えのある黒髪の男が一人。
そいつらを見た瞬間、私は目を見開いた。
「こ、これは勇者様!? まさかいらしていたとは! 大変失礼いたしました!」
「あの、そんなに畏まらなくても大丈夫ですから。それに、話ももう終わるところでしたし」
案内役の奴が慌てていた。
それに対して勇者と呼ばれた男は、神道は苦笑しながら返す。
まさか、こんな所で勇者一行に遭遇するとは。
さて、どうしたものかな。
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