26 舞台裏

「ふぁ!?」


 モニターで侵入者達の動向を見ていた私は、ゴブリンロードが言い放った台詞に驚愕した。

 いや、ゴブリンロードが人間の言葉を話した時点で驚いたんだけど、この衝撃は、そんなもんとは比べ物にならない。


 このゴブリン、今なんて言った?

 魔王軍幹部?

 誰が?

 ゴブリンロードが?

 嘘ついてんじゃねぇぞ、ハゲ。

 いや、ホント、誰か嘘だと言ってほしい。

 現実を受け入れられないよ。


 いや、確かに魔王軍幹部なんて大層な肩書きがあってもおかしくない化け物だけどさ!

 なんで、そんな大物が、よりにもよって私の聖域に来てんの!?

 魔王軍なら、勇者の所に行けよ!

 ああ!?

 そういえば、私も勇者だった!?

 

 OK。

 とりあえず落ち着こう。

 まずは深呼吸だ。


「す~~~~~は~~~~~~」


 よし、落ち着いた。

 落ち着いたところで、改めて考えよう。

 まず、魔王軍幹部が、なんでここにいるのかという事。

 これは、とりあえず、私を倒す為とかじゃないと思う。


 根拠はある。

 ゴブリンロードは、ウチのダンジョンに住み着いてから、一度もダンジョンを攻略しようとはしてないんだ。

 多分、前にチャンピオンが部下を第二階層以降に送ったら、帰って来なかったって報告が行ってるんだと思う。

 第一階層にいる限り、下から何かが来る事はないって話もセットで。


 というより、ゴブリンロードはここがダンジョンだって事にすら気づいてないんじゃないかと思う。

 だって、ウチのダンジョンって、第一階層だけ見れば本当にただの洞窟だし。

 それに、今のところ、ゴブリンロードの前でダンジョンらしい事は何一つやってない。

 だから、このまま静かにしてれば見逃してくれる可能性は高い、と思いたい。


 じゃあ、なんで魔王軍幹部のゴブリンロードがこんな所に来たんだって話に戻るけど、これは考えても無駄だから考えない事にする。

 そもそも、私は魔王がどういう存在なのかも知らないし。 

 知らない奴の目的なんてわかりようがない。

 インディアンが嘘つかない理由を考えるようなもんだ。

 そもそも、インディアン自体をよく知らない私が、インディアンの思考を理解できる訳がない。

 考えるだけ無駄だ。


 だから、インディアン……じゃなくて、ゴブリンロードの目的は考えない。

 考えるのは、奴がここに居座り続ける事によるリスクだ。


 まず一つ確実に思いつくのは、討伐隊が来るという事。

 私は魔王が何なのかは知らないけど、勇者の称号の説明にチラッと出てきた情報から考えて、とりあえず人類や勇者と敵対してんだろうなって事だけはわかる。

 なら、魔王軍幹部なんて奴がいる場所には、どう考えても来るだろう。

 あの化け物を倒せるレベルの人間達が。

 もしかしたら、私以外の勇者とかが来るかもしれない。

 うわぁ。

 嫌だ。


 まあ、その討伐隊がゴブリンロードだけ退治して帰ってくれるならいいんだけども。

 むしろ、あの害獣が駆除されるのならウェルカムだけれども。

 それだけのリターンがあるなら、害獣の駆除業者として、私の聖域に立ち入る許可を与えてやってもいい。


 だが、しかし。

 万が一、万が一、ゴブリンロードが第二階層以降に逃げ込んだりして、ここがダンジョンだと討伐隊にバレた場合。

 ……私、死ぬんじゃないかな。

 この世界でダンジョンがどういう扱いされてるのかはわからないけど、とりあえず放置はしてくれないと思う。

 そして、討伐隊がその情報を他の人間に伝えちゃうと、このダンジョンの存在が不特定多数に知れ渡る事に……。

 それは嫌だぁ!

 私の平穏なる引きこもりライフが失われる!


 でも、なんとかする方法は思いつかない。

 そもそも、ゴブリンロードにすら対処できないから、こんな状況になってる訳で。

 私にできる事は、どうか事態が丸く収まりますようにと祈る事と、いざという時に備えて、ひたすらダンジョンを強化しまくる事だけだ。


 そして、その為にも今回の侵入者に生きて帰られると困る。

 何故なら、ゴブリンロードが自分の事を魔王軍幹部だと宣言してしまった以上、あの二人が生きて帰れば、すぐにでもその情報が伝わって、速攻で討伐隊が来る可能性が高いからだ。

 討伐隊は、遅かれ早かれ必ず来るような気がするけど、その時期はできるだけ遅い方が良いに決まってる。

 何せ、時間があればある程、このダンジョンはDPを溜め込んで強くなれるのだから。


「頼むから死んで……!」


 私は居住スペースでゴブリンロードと侵入者の戦いを見守りながら、ひたすらに侵入者が死んでくれる事を祈った。

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