36 外の世界に目を向けよう(貴様、正気か!?)
「外の世界の事が知りたい」
そんな、トチ狂った事を口走ってしまった私は、至って正気である。
トチ狂ってるのに正気とはこれ如何に?
まあ、いいや。
そう考えたのも、いい加減、このままじゃ情報不足もいいところだと思ったからだ。
私はこのダンジョンにおいて、最低でも二人の重要人物を殺害してしまっている。
くっ殺ゾンビと、ゴブリンゾンビ。
もとい、くっ殺王女と、魔王軍幹部だ。
王女の方は私が殺した訳じゃないけど、そんな事言っても誰も信じてくれないだろうし、そもそも私に人前で話す度胸なんてない。
まあ、私の人間恐怖症の話はさておき。
問題は、こんな重要人物を殺してしまった以上、もしかしなくても私ってば、人間の国と魔王軍を二つとも敵に回してしまったんじゃないかと、そんな恐ろしい可能性に思い当たってしまったのだよ。
まあ、それは、あくまで最悪の可能性の話だけどね。
討伐隊やゴブリンロードも含めて、ここがダンジョンだという事を知った奴らは、例外なく殺してある。
最初の3人組も、中年ゾンビも、不死身ゾンビの一味も、ゴブリン軍団も全部だ。
皆殺しである。
これなら、情報が外に漏れる事はない。
唯一、一回だけあの俊足野郎を逃がしちゃった事があるけど、
あれはゴブリンロードにやられて逃げ帰っただけだから、あの時の事を誰かに報告してたとしても、ダンジョンの情報までは漏れてない筈。
でも、魔王軍の方はちょっと事情が違う。
ゴブリンロードの部下だったゴブリンどもは、頻繁にダンジョンの外へと出ていた。
まあ、それは狩りに行ってたんだけど。
だけど、その中の一匹でも、狩りのついでに魔王軍の他の部隊に報告に行ってないとは限らない。
ゴブリンどもは、ゴブリンロード以外、人の言葉を話さなかったけど、案外モンスター同士なら鳴き声で意思疎通できるのかもしれないし。
で、ゴブリンどもは人間どもと違って、ここがダンジョンだとは知らないまでも、ここがただの洞窟じゃない事は知ってた。
第二階層以降に踏み込んだ奴を殺す何かがあるとは知ってた。
なら、魔王軍の調査部隊的なものが来てもおかしくはない。
それに、人間どもの方だって、討伐隊も王女も不帰となれば、また調査部隊の一つでも送って来るだろう。
いや、その場合、ゴブリンロード討伐に失敗したと判断して、新しい討伐隊が送られて来る可能性の方が高いか。
……ヤバイな。
こうして考えてみると、全然脅威は去ってないじゃないか。
ま、まあ、でも、ゴブリンどもがいなくなった今、このダンジョンもようやく当初の予定通り、無害なただの洞窟を装う事ができてる訳だし。
他の奴がいた痕跡を消せば、こんなただの洞窟を調査される事はないだろう。
きっとそうだ。
そうに違いない。
そうだと言ってくれ。
もしダメだった時は、もう一度ジェノサイドパーティーを開催する事を決意し、話を本題に戻す。
すなわち、外の世界云々の事だ。
こんな状況になってしまった以上、やっぱり外の世界で、ここがどんな風に扱われてるのかとかは最低限知っておきたい。
というか、知らないといけないと思う。
あとは、魔王って結局何なのかとか、魔法の使い方とか、真装の習得方法とか、知りたい事は山程ある。
魔王軍の動向も調べねば。
「……って言っても、私が外に出るつもりはないけどね」
そんなつもりは毛頭ない。
私がその情報を知りたいと思ったのは、この聖域を守る為だ。
そして、聖域を守る理由は、私が心置きなく引きこもる為だ。
引きこもりを続ける為に外に出るなんて、本末転倒もいいところである。
という訳で、お使い用のモンスターを造る事にした。
「調査用ドローンとかないかなー」
そんな事を思いながら、メニューのモンスター一覧を見ていく。
ドローンとか都合の良いやつがなかったら、人間に紛れて情報収集ができる人型のモンスターを造るつもり。
意思のあるモンスターは裏切りそうで怖いから、できるだけ造りたくないんだけど、背に腹は変えられない。
と思ってたんだけど、事態は私の想像よりも深刻だった。
「人型のモンスターがいない……だと……!?」
そう、人型のモンスターがいなかったのだ。
正確には、完全に人型で、人間に紛れても違和感のないモンスターがいない。
近いところで、半人半蜘蛛のアラクネとか、下半身が蛇のラミアとかがせいぜい。
ヴァンパイアとか、高位のアンデットモンスターはいけるんじゃないかと思ったけど、
メニューで画像を見たら、牙が予想以上に長くて人外にしか見えなかったり、肌が青白い通り越して完全なる青だったりしたからアウト。
リッチはミイラだし。
キョンシーは惜しかったけど、ゾンビと同じで知性がないし。
グールは腐ってるし。
ハイゾンビが一番マシってどういう事だ?
そのハイゾンビだって知性がないし。
知性がなければ、諜報活動なんてできない。
この方向じゃダメだ。
という事で、次は人型じゃなくて、人に化けられるモンスターを探してみた。
結果はダメ。
一番可能性を感じた九尾の狐は惜しかったんだけど、フワフワの尻尾がどうしても残るから却下。
この世界に猫耳の獣人とかがいればセーフかもしれないけど、今のところそういうのは見てないから、私にはセーフなのかアウトなのかの判断が下せない。
そして、もしアウトだったら、私は役立たずの同居人を抱える事になる。
それは嫌だ。
どうしても他にいなかったら、再検討しよう。
その後も「そうじゃないんだ!」とか「ここまで期待させておいて!?」とか「え!? 高っ!?」とか叫びながらモンスター一覧を見続ける事一時間。
私は、当初考えていたのとは違う、でも凄まじく可能性を感じるモンスターを見つけていた。
機械人形、オートマタという無生物系モンスターを。
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