とある勇者の不安

「ケンジ! こいつのステータスは!?」

「オーガLv20! 平均ステ1000くらいで魔法はなし! 特殊なスキルもないです!」

「よし、上出来だ! ユウマ、キョウシロウ、ダイチを中心に近接戦闘!

 後衛組はアヤカに合わせて遠距離攻撃!

 アカネは、いざという時の為に《テレポート》の準備だ!

 できるな!」

『はい!』


 現在、俺達はレベル上げの為に、アイヴィさん率いる騎士団の皆さんに引率されて、お城のある王都から日帰りできる狩り場に来ていた。

 そして、この辺りで一番の大物と言われる、デカイ鬼の魔物オーガを袋叩きにしているのだ。

 まあ、俺は鑑定以外、殆ど戦力外なんだけどな!


「グォオオオオオオオオオオオオ!」


 クラスメイト達にボコボコにされてるオーガが、咆哮を上げながら棍棒を振り回して暴れる。

 しかし、その攻撃は郷田の大剣に防がれ、剣の斬撃で腕を落とされ、魔木の魔法で吹っ飛ばされて、最後には神道にあっさりとトドメを刺されて死んだ。

 経験値が入ってきて、俺のLvが上がる。

 って言っても、まだLv10にもなってないんだけどな。


「うむ。素晴らしいな。まだまだ駆け出しの冒険者にすら劣る程度のLvだと言うのに、もうオーガを倒せるようになるとは。

 さすが、勇者達だ」


 オーガっていうのは、普通、駆け出し冒険者どころか、熟練の冒険者がパーティーを組んで対処するレベルの魔物らしい。

 それを低レベルで危なげなく狩れるんだから、勇者のチートっぷりがよくわかるってもんよ。


 そんな勇者であるクラスメイト達は、美人なアイヴィさんに褒められて、大半の男子が鼻の下伸ばしながらデレデレしてた。

 女子はそうでもないけど、やっぱり褒められて悪い気はしないみたいで、笑顔の奴が殆どだ。

 そんなに喜んでないのは、俺とソラちゃん先生の二人だけ。


 俺は言わずもがな、自分と他の奴らとの戦闘力差がおもしろくないから。

 逆にソラちゃん先生は、生徒が戦いなんて危ない事やってるのが心臓に悪いんだと思う。

 戦闘中も、いつでも皆を逃がせるように気を張ってたし。


 ちなみに、ここに来ているクラスメイトは、俺を含めて10人しかいない。

 ウチのクラスは本城さんを抜いて20人だから、ちょうど半分だな。

 残りの半分は死んだ……とかじゃなくて、ユニークスキルが非戦闘系だったり、魔物の臓物とかのハードグロに耐えられなかったり、生き物を殺す感覚がダメだったりと。

 色んな理由で戦闘を辞退し、お城に残ったのだ。


 まあ、非戦闘組もLv上げ自体はやるらしいけどね。

 でも、こっちの戦闘組と違って、オーガみたいな大物狙いとかはしないらしい。

 細々と雑魚狩りをして、最低限の護身ができる程度のLvになったらやめるとの事だ。

 騎士団の人達とパーティー組んでレベル上げすれば、自分で殺さなくても経験値は入るし。


 で、俺も一応は戦闘組の一員として働けてはいる。

 戦闘力は低いけど、やっぱり鑑定は役に立つってさ。

 くそう!

 俺の鑑定だけが目当てなのね!

 いつか必ず、俺も無双してやるからなー!


 ていうか、俺の才能のなさって筋金入りな気がする。

 戦闘組は、俺以外全員漏れなく真装を会得したのに、俺だけ使えないし。

 一応、ソラちゃん先生も使えないけど、ほら、あの人はいざという時の命綱みたいなお方であって、戦闘員じゃないし。

 いや、それ言ったら、俺も戦闘員じゃないんだけど……。

 ああ!

 やめやめ!

 この考えはやめだ!


 ここは、カルパッチョ教官直伝、ポジティブシンキングでいこう!

 俺もその内、真装を使えるようになるし、チートで無双する!

 魔王軍をけちょんけちょんにしてやるんだ!

 よし!

 自己暗示完了!



 そんな調子で俺達はレベル上げを続けた。

 アイヴィさん曰く、「この調子なら、本当に近い内にお披露目ができそうだ」との事。

 それまでに、少しでも鍛えて強くなるんじゃあ!

 カルパッチョ教官!

 見ていてください!


 ……でも、そのカルパッチョ教官は帰って来ない。

 音沙汰もないし、本当に大丈夫なんだろうか。

 ちょっと心配だし不安だ。

 俺は本当に強くなれるのかって不安と合わせて、どうにもネガティブな方向に思考が行っちゃう気がする。

 それに比べて、他の連中は気楽そうでいいよなー。

 あーあー、チート勇者様は羨ましいねー。






 そんな事を考えていた、この時の俺はわかっていなかった。

 この世界は、俺達がチート無双をする為にある訳では断じてないという、あまりにも当たり前の事に。


 そして、この時の俺は知らなかった。

 異世界に来て浮かれていた俺達勇者の前に、残酷で厳しい現実という名の怪物が立ち塞がる運命の時が、すぐそこにまで迫っていたという事に。

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