35 決着

 砕け散ったリビングアーマー先輩が、ボス部屋の床に散らばる。

 私は冷や汗をかきながらそれを見つめ……そして、安堵していた。


『……これでも、ダメじゃったか』


 ダメじゃない。

 大ダメージだ。

 確かに、爺の最後の魔法は、リビングアーマー先輩を破壊した。

 体の前でクロスして盾にした、リビングアーマー先輩の両腕・・を粉々に粉砕した。

 しかも、胴体にも大量の罅が入ってるし。

 でも、逆に言えばそれだけで済んだ。

 完全破壊は免れた。


 実は、あの魔法を食らう直前、もっと言えば熱血色物の最後の一撃を受けた時から、私は貯金していたDPを大放出し、リビングアーマー先輩の修復に充てていたのだ。

 初めて残機が仕事したよ。

 それでも回復速度よりもダメージが上回り、結果はこの有り様だけど。


 ちなみに、今のリビングアーマー先輩は、こんな状態だ。


ーーー


 リビングアーマー Lvーー


 HP 1451/30600


ーーー


 HPが、全快時の20分の1以下。

 本当に危なかった。

 すぐにDPを使って、更なる修復を開始する。

 胴体の罅がみるみる直っていった。


『回復までするのか。悪夢のようじゃな』


 胴体は直ったけど、腕は完全に砕けちゃったから、今すぐ修復しきるのは無理か。

 盾と合わせて、最後の侵入者を片付けてから、ゆっくり直そう。

 その最後の侵入者である爺は、全てのMPを出しきり、もはや真装すら維持できずに立ち尽くしていた。


『お主の勝ちじゃ。殺せ』 


 言われずとも。

 私はトラップを作動させる。


『……すまんのう。帰れなくなった』


 正確に放たれた一本の矢が、最後に何か言っていた爺の額を打ち抜いた。

 爺のHPが0になって倒れ、DPと経験値が入ってくる。


「終わったー……」


 いつにない激戦だった。

 ダンジョンの全てを駆使し、ボス部屋ではスキルLvの上がってきた並列思考と演算能力のスキルをフルで使って、いくつものトラップを同時に操り、最後はリビングアーマー先輩を破損寸前まで酷使して、やっと勝てた。

 危なかった。

 そして、頭使いすぎたせいで、めっちゃ疲れた。


 疲れた私は、諸々の処理を後に回し、とりあえずソファーに沈み込んだのだった。






 ◆◆◆






 ソファーに寝転びながらメニューを操作し、とりあえずリビングアーマー先輩を完全回復させる。

 もちろん、新しいオリハルコンの盾も作っておいた。

 剣は……後でいいや。


 それが終わったら少し休み、体力が回復してから今回の戦果確認。


 まず、今回最大の戦果は、なんと言ってもゴブリンロードが討伐され、それによってダンジョン内に侵入者が一人もいなくなった事だと思う。

 これは快挙だ。

 やっと、寝首をかかれる心配をせずに眠れる。

 やったー!


 まあ、ゴブリンどもがいなくなったせいで、奴らからの家賃は回収できなくなるけど、そんな事は些細な問題である。

 収入に関しては、下がるどころか逆に上がってるしね。


 何せ、今回の戦いにおいて、私はLv的に格上の相手を、これでもかと殺しまくった。

 直接手を下したのは、モンスター達と討伐隊だけど。

 なんにしても、それで凄まじい経験値が入ってきた訳だ。


 私のLvは、一気に26から52に上がった。

 二倍だよ!

 二倍!

 凄い!

 そして、それによって、私のMPが5万を突破。

 もう化け物とか、そんなレベルじゃないわ。

 神じゃん。


 で、ステータスの詳細は、こんな感じ。


ーーー


 ダンジョンマスター Lv52

 名前 ホンジョウ・マモリ


 HP 460/460

 MP 500/50400


 攻撃 301

 防御 300

 魔力 12000

 魔耐 466

 速度 313


 ユニークスキル


 『大魔導』


 スキル


 『MP自動回復:Lv35』『並列思考:Lv15』『演算能力:Lv15』『統率:Lv5』


 称号


 『勇者』『異世界人』『誤転移』


ーーー


 MP程じゃないけど、魔力も凄い。

 そろそろ、本格的に魔法の習得法探した方がいいと思える数値だ。

 何せ、今回一番の強敵だった爺を超えてるんだもの。

 まあ、あくまでも真装抜きでの話だけどね。

 ちなみに、MPが500しか残ってないのは、例によって全額ダンジョンコアにぶち込んだからです。

 あと、統率のスキルはいつの間にか習得してた。

 最近は結構な数のモンスターに指示して動かしてたから、それで熟練度が溜まったんだと思う。


 そして、手に入ったDPも凄い。

 使えない死体とか装備とかを還元した分も入れて、なんと約30万DPだ。

 リビングアーマー先輩の修理代とか、ゾンビの経費とかを差し引いてこれだよ?

 やっぱり、侵入者皆殺しの効率は凄まじかった。

 貯めて、貯めて、貯めて、一気に下ろした貯金みたいだ。

 まあ、侵入者を貯めるなんて危ない事は二度としたくないけど。

 平穏が一番。

 それに、30万DPって言っても、これからの収入六日分でしかないし。

 ……そう考えると、改めて大魔導先輩が凄まじい。

 今さらだけどね。


 で、次に手に入ったのが、侵入者の装備だ。

 殆どは爺と熱血色物にゾンビとしてぶつけた時に破壊されちゃったけど、壊れなかった物もある。

 あの俊足野郎が持ってた『ミスリルソード』ってやつだ。

 不死身ゾンビが持ってた『ミスリルスピア』の剣バージョン。

 俊足野郎が死んだ後に他の侵入者によって回収され、その侵入者は分断した後にゴブリンゾンビとかで潰したから、結果として私が入手する事になった。

 そのまま侵入者ゾンビに持たせて爺に氷漬けにされたんだけど、さすがミスリルと言うべきか、普通に無事だった。

 これは、熱血色物に熔かされた剣の代わりとして使おう。


 そして、戦力的には最大の収穫となったのが、例によって死体。

 特に、ゴブリンロード、熱血色物、爺の死体は破格の価値がある。

 早速、DPを使って熱血色物と爺をゾンビ化。

 これだけで、かなりの戦力になるだろう。

 侵入者の死体を使う不快感には、もう慣れた。


 とりあえず、これにて戦果確認は終了。


 あと、やる事と言えば、氷漬けにされた不死身ゾンビの救出とか、減ったゴーレムの補充とか、道を塞いでる氷の撤去とかだけど。

 不死身ゾンビ救出はロックゴーレム達がやってるし、ゴーレムの補充は、今回壊されたゴーレムの残骸を素材として使うように、全自動システムの設定を少し変更するだけでいい。

 氷は……後でいいや。

 ダンジョンのルールで、自分からは絶対に塞げないダンジョンの入り口を塞いでくれたんだし、しばらくはこのままに……いや、ダメだわ。

 やっぱり討伐隊の痕跡は跡形もなく消しとこう。


 とりあえず、ゴブリンゾンビを派遣して、火魔法で氷を溶かしてもらった。

 これでよし。

 討伐隊なんて私は知りません。

 ここでは何もありませんでした。

 そういう事にしておく。


 さて、これでもうやる事はない。

 細々とした考えなきゃいけない事はあるけど、今すぐにやらないといけない事はもうない。

 という訳で、疲れたから寝る!

 お風呂入ってから寝る!

 お休みなさい。

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