77 猫耳の先輩冒険者
受付でのやり取りは、意外にも何事もなく終了した。
暴力沙汰を起こした以上、何かしら言われるかなと思ってたんだけど、そんな事もなく普通に冒険者カードを提示し、普通に依頼を受ける事ができた。
それどころか、冒険者どもに至っては「ヒューヒュー! やるな姉ちゃん!」とか言ってくる始末。
冒険者にとっては、あれくらいの喧嘩、日常茶飯事なのだろうか?
だとしたら、なんて野蛮な連中だ。
即刻、絶滅させるべきだよ。
そんな事を考えながら、リーフの朝ご飯の為に、冒険者ギルド内にある食堂の席につく。
前と同じように、リーフには好きな物を頼ませる。
そうして料理が運ばれてきた。
でも、それと同時に変なのも来た。
「やあやあ、新入りの人~。よければ、ご一緒させてもらっていいかにゃん?」
そう言って、勝手に対面の席に座ったのは、露出度の高い服を着た猫耳の女。
なんというか、あざとい。
語尾も含めて、あまりにも露骨にあざとい。
苦手なタイプの人間だ。
いや、私に得意なタイプの人間なんていないけど。
そんなのが何の用だろうか。
さっきのチャラ男と違って害意は感じないけど、目的が読めない。
リーフも、若干おろおろしてる。
けど、そんな私達をよそに、猫耳は勝手に話し始めた。
「いや~、さっきの見てたけど傑作だったにゃ~。
察しはついてるかもしれにゃいけど、君が懲らしめた奴はナンパがウザイ事で有名な奴だったのにゃ。
しかも、そこそこ強いB級冒険者だから、文句を言える人も少なくてにゃ~。
だから、ああやって返り討ちになってるのを見たらスッとしたのにゃ。
あたしだけじゃにゃくて、み~んにゃが」
そんな猫耳の言葉に、近くで話を聞いてた連中がウンウンと頷いていた。
なるほど。
さっきの喧嘩が問題にされない理由はわかった。
でも、こいつが私に話しかけてきた目的はわからない。
こういう時、普段なら無視するか追い払うところなんだけど、今の目的は情報収集だ。
なら、無視するのも追い払うのも悪手。
適当に話を合わせておくのが最善かな。
お喋りは嫌いだけど、仕事の一環と割り切るしかないか。
「それで、あなたは誰で、私に何の用ですか?」
私は、とりあえず聞くべき事を聞いた。
こいつの正体には察しがついてる。
けど、目的まではわからない。
だから聞いた。
「ああ、そういえば自己紹介もまだだったにゃん。
じゃあ、改めて。
あたしはミーシャ。お節介な先輩冒険者だにゃん。
君に声を掛けた理由は、純粋な興味。
よろしく頼むにゃ、将来有望な新入りちゃん。
できれば仲良くしてくれると嬉しいにゃん」
そう言って猫耳は、ニッコリと笑って手を差し出してきた。
握手だ。
私の目的を考えれば、これを拒む理由はない。
こっちもオートマタの手で、猫耳の手を握っておいた。
本体なら絶対にやらないけど。
「私はラビです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「うん。素直でよろしい。そっちのエルフの子もよろしくにゃん」
「は、はい!」
猫耳が機嫌良さそうに笑う。
私に声を掛けた理由については、まあ、理解できなくもない。
何せ、鑑定してみたところ、こいつのステータスは物理系が2000を超えてる。
真装こそ持ってないけど、それでもオートマタより強い。
さっきのチャラ男でB級なら、こいつは間違いなくA級以上。
そのくらいの実力者ともなれば、面白がって後輩に絡んできてもおかしくはないだろう。
そして、それは私にとって好都合というもの。
情報収集に来てるんだから、一人くらいは普通に話せる冒険者がいた方が良いに決まってる。
それが実力者ともなれば尚更。
正直、私は冒険者を汚物みたいに思ってるから、自分から話しかけて友好関係を築くのはキツイと思ってた。
それが向こうから来てくれるのなら、渡りに船だ。
そう、渡りに船なんだ。
私が、汚物との会話という不快感に耐えればいいだけの話なんだから。
その後、リーフが食べ終わるまで、猫耳と当たり障りのない話をして、その後はすぐに依頼をこなすべく席を立った。
そして、依頼に旅立つオートマタ達に向けて、猫耳がヒラヒラと手を振る。
「頑張ってにゃ~。あ、それと、さっきのナンパ野郎にはくれぐれも注意するのにゃ。
あいつ、ナンパ以外にも黒い噂が絶えない事で有名だから、逆恨みで何かやってくるかもしれないからにゃ」
「……わかりました。注意しておきます」
最後に、猫耳はなんともフラグっぽい台詞を吐いた。
まあ、あの程度の男が何かしたところでどうなるとも思えないけど、警戒はしておこう。
そうして、オートマタとリーフは、冒険者として最初の仕事をこなすべく、冒険者ギルドから旅立った。
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