82 冒険者生活
冒険者としての活動を始めてから一ヶ月くらいが経過した。
その間、働き過ぎず、休み過ぎず、何件かの討伐依頼をこなし、必要もないのに武器屋や薬屋に足を運んだりして。
まあ、要するに普通の冒険者っぽい事をして街に溶け込む努力をした。
その甲斐あって、最近ではそこそこ強い新入りみたいな感じで、街やギルドに受け入れられてきた。
少なくとも、初日にチャラ男と揉めた件のマイナスイメージくらいは払拭できたと思う。
あと、あんまり面倒事に関わりたくないので、盗賊の一件はギルドに報告しなかった。
ちなみに、このロールプレイには、リーフの知識が大いに役立ったのは言うまでもない。
盗賊の一件以来、前にも増して忠誠心が上がった(ような気がする)リーフの使い勝手はとても良い。
やっぱり、あの復讐劇をやらせたのは正解だった。
首都に向かわせてた先生ゾンビ一行も何事もなく帰って来たし、今のところ全てが順調である。
そんな感じで、仮初めの平和が続いている今日この頃。
でも、多分もうそろそろ事態が動くと思う。
ウルフェウス王国の王都跡地から進軍してくる魔王軍によって、もうすぐこの仮初めの平和は崩れる筈だ。
それをこの街の人間も少しは察知してるのか、最近、街中で不穏な噂を聞くようになってきた。
ウルフェウス王国に向かった冒険者が戻って来ないとか、来る筈の商人が来ないとか、そんな話だ。
勘の良い冒険者なんかは、既に何があったのか薄々感づいてる。
多分、国の上層部とかはもう知ってるんじゃないかな。
ウルフェウス王国崩壊の情報を。
だったら、そろそろ対策の一つや二つ立ててもおかしくない。
せいぜい、冒険者という立場から、その対策を見極めさせてもらおう。
そんな事を考えながら、今日もまた冒険者ギルドへと赴く。
しかし、今日はどこかギルドの雰囲気が違った。
「……なんだか、皆さんピリピリしてますね」
「そうだね」
リーフの言う通り、冒険者どもがなんかピリピリしてる。
最近は不穏な噂のせいで常時ピリピリしてたけど、今日はいつにも増してだ。
これは、いよいよ何か動きがあったのだろうか。
それを確かめるべく、事情を知ってそうな冒険者の一人に話しかける。
こういう時の為に冒険者になったんだから、嫌でも会話はしないといけない。
「ミーシャさん」
「お、ラビちゃんじゃにゃい。おはよ~」
「おはようございます。それで、これはどうかしたんですか?」
話しかけたのは、前にも会った猫耳。
こいつは会う度に気安く絡んでくるので、ウザイけど話しかける難易度が低いのだ。
それに、高位の冒険者なら、他のモブ冒険者よりは色々と知ってそうだし。
ちなみに、猫耳の冒険者ランクはA級らしい。
「にゃんかね~、ギルドからの緊急の依頼が発令されたんだよ。
依頼内容は、国境砦での魔物退治と周辺捜査。
C級以上は強制召集みたいにゃ事言ってたから、かにゃりの大事だね、これは」
「なるほど」
国境砦への高位冒険者の派遣か。
まあ、無難と言えば無難な対応かな。
ドラゴンが先陣切って突っ込んで来たら、一瞬で壊滅すると思うけど。
この街の冒険者を鑑定してみた感じだと、あの化け物に対抗できる戦力はいなかった。
S級冒険者が一人いたけど、そいつですら熱血ゾンビより弱い。
それじゃ、あのドラゴンの相手は務まらない。
そうなると、この街の命運は他からの増援次第か。
「ありゃ、その反応、あんまり驚いてないにゃ~」
「ええ、まあ、予想はできた事ですから」
「お、情報収集はしっかりやってるみたいだにゃ~。偉い偉い」
そう言って、猫耳がオートマタの頭を撫でてきた。
ブチ殺すぞ。
ぞんざいに振り払っておいた。
「相変わらずつれにゃ~い。でも、そこが可愛い!
まあ、それはともかく、依頼受けるにゃら準備は早くした方がいいにゃ。
明日、砦行きの馬車が来るって話だからにゃん」
「わかりました」
そこまで確認できれば、もう猫耳に用はない。
さっさと受付に行って緊急依頼の受注手続きを済ませ、冒険者ギルドを後にした。
開戦の時は近い。
気を引き締めないとね。
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