97 戦争準備完了

「なっ……!?」

「こ、こんな事が……!?」

「あ、あぁ……」


 そんなに時間もかからない内に護衛どもが全滅し、議員どもは絶望の表情を浮かべた。

 中には、国を守る者の矜持的な何かなのか、毅然とした態度を取り続けてる大物もいるけど。

 老犬議長とか。


 ちなみに、護衛は全員殺した上でゾンビにしておいた。

 最初は調教しようかとも思ったんだけど、やっぱり経験値を優先したくなって殺した。

 調教だと、経験値を回収し損ねる恐れがあるし。

 それはさすがに勿体な過ぎる。

 結果として、私のLvがまた少し上がったから結果オーライ。

 代わりに、重要な戦力の殆どが思考能力を持たないゾンビになっちゃったけど、まあ、問題ない。

 前線で指揮を執る奴は一人いれば充分だ。


 さて、護衛の次は議員どもだ。

 というか、本来なら本命はこっちで、護衛はおまけの筈だったのに。

 なんか、護衛だけでお腹一杯ってくらいに儲かってしまった。

 まあ、だからと言って議員どもへの手を緩めるつもりもないけど。


 私は、護衛どもとの戦いで破損しなかったロックゴーレム達に指示を送る。

 そして、一人ずつ議員どもを殴り飛ばす作業を開始した。


「待っ……!?」

「グギャ!?」

「ぎゃあああああああ!?」

「ひぃいいいいい!?」


 鑑定で見たところ、こいつらに戦闘能力はない。

 Lvも低いし、スキルも非戦闘系のものばかり。

 だから、ウチのダンジョンで最弱の雑兵であるロックゴーレム達にすら為す術もなくやられて、悲鳴を上げたり、逃げ惑ったりしながら、ボコボコにされていく。

 むしろ、殺さないように手加減する方が大変だよ。


 でも、そんな作業も割とサクサク進み、残りは老犬議長だけとなった。

 

「魔物め……!」


 その最後の標的である老犬議長は、牙を剥き出しにしてロックゴーレム達を睨んだ。

 正直、流れ作業でボコられていく議員どもには、上に立つ者としての威厳を微塵も感じなかったけど、こいつは違う。

 こんな状況にあっても、他の奴にはない凄みを感じる。

 さすが議長。


 でも、凄みがあっても強さがなければ意味はない。

 老犬議長もまた、ロックゴーレムの拳を食らって吹き飛んだ。

 

「ぐっ……! 殺すなら殺せ! だが、ここで私達を殺そうとも意味はない。私達の代わりなど我が国にはいくらでもいる。

 アワルディア共和国は、この程度で揺らぐ弱き国ではないと知れ!」


 確かに。

 議員なんてシステムを導入してるなら、王政と違って代わりのリーダーくらい、すぐに出てきそうではある。


 でも、思い知るのはそっちの方だ。


 私には、国を揺るがせるくらいの力があるのだと思い知れ。

 とりあえず、まだ余裕がありそうな老犬議長をロックゴーレムによる集団リンチで更にボコボコにする。

 血反吐を吐き、牙が折れ、立つ力もなくなった辺りでリンチをやめ、老犬議長の前に、否、議員ども全員の前に調教ゾンビを立たせる。


 さあ、地獄の始まりだ。

 国を支えるお前らが、国を滅ぼす害虫となれ。


「《テイム》」


 そうして、調教ゾンビの放つ絶対服従のスキルが、議員どもに降り注いだ。






 ◆◆◆






 そうして、議員どもを支配下に置いた後、転送機能で全員を元居た部屋へと戻した。

 これで、表面上は何事もなく会議が終わったように見せ掛けられる筈。

 

 そして、会議が終わった後は早速行動に移る。


 まず、調教した老犬議長、並びに、今回の会議に出席した全ての議員の命令において、今すぐに集められるだけの兵士を集めた。

 目的は当然、こいつらを神道達へとぶつける事。

 でも、その目的を馬鹿正直に伝えて兵士が動く訳がないので、老犬議長に適当な建前を考えさせた。

 その結果……


「我が国の誇る兵士の諸君。急な召集にもかかわらず、よくぞ集まってくれた」


 数日をかけて集めた兵士どもの前で、老犬議長が演説を行う。


「では早速、此度の目的を話そう。

 今回、諸君に集まってもらったのは、魔王軍によって占領されてしまった、ウルフェウス王国との国境砦を奪還する為である!」

『!?』


 その台詞を聞いて、集まった兵士どもが困惑して、ざわめき出す。

 それはそうだろう。

 そんな話は寝耳に水だし、国境砦が占領されるなんて一大事をいきなり伝えられて驚かない訳がない。

 まあ、全部嘘なんだけど。


「現在、国境砦は魔王の尖兵によって支配されている。

 だが、此度の敵は魔物にあるまじき知略を用い、表面上は何事もないように見せかけているのだ。

 全ては我らを欺き、来るべき時に一斉に牙を剥く為に」


 老犬議長が演説を続ける。

 兵士どもは、なんとか動揺を静めて老犬議長の話に聞き入る。


「その忌まわしき魔王の尖兵の名は、シンドウ・ユウマとその一味!

 そう! 勇者の名を騙っていた男だ!

 本物の勇者様を殺してすり替わり、その名を使って我が国を陥れようとした許されざる者!

 それが此度の敵である!」

『!?』


 今度こそ、兵士どもが思いっきり動揺した。

 聞いた話によると、勇者は女神が遣わした人類の希望として名高いらしい。

 それが既に殺され、魔物とすり変わっているなんていきなり言われても、信じられる訳がない。

 

 でも、


「静まれ!」


 老犬議長の放ったその一言で、兵士どもが動きを止める。

 そう。

 この話をしているのは、カリスマに溢れた老犬議長だ。

 その姿には、確かに人の上に立つ者としての威厳があった。

 その言葉には、有無を言わせぬ謎の迫力と説得力があった。

 本来なら立派なリーダーとして国を治める為の能力。

 それが国を破滅へと導くんだから、皮肉な話だ。


「諸君が驚くのも無理はない。私とて、国境砦の現場指揮官であったシー・サブマリーンから、確かな情報として話されるまでは信じられなかった。

 だが、これは紛れもない真実なのである!

 このまま放置すれば、勇者の名を騙る魔物の手によって、我が国は滅びの道を辿るだろう!

 故に! そうなる前に奴を討ち果たす必要があるのだ!

 どうか! どうか協力してほしい!」


 そう言いながら、老犬議長が頭を下げる。

 国のトップが兵士風情に頭を下げるというのは、インパクト絶大だった。

 多くの兵士どもが、これで使命感を覚えた筈だ。

 少なくとも、これで士気はそれなりに上がった筈。


「此度の戦場には私も赴く! 兵士達よ! 私と共に、勇者様の名を騙る神敵を討ち果たそう!」

『おおおおおおおお!』


 老犬議長が拳を天に向かって突き上げる。

 続いて、多くの兵士どもが、同じく拳を突き上げながら雄叫びを上げた。

 その中には、ここ数日で調教しておいたサクラが結構交ざってる訳だけど、それを差し引いても凄い熱気だ。

 これなら、充分な活躍が見込めそう。



 そうして、準備を整えた軍勢は、勇者の名を騙る不届き者である神道を討伐する為に、首都を旅立った。

 その道中、タイミングを見計らって魔王軍にも連絡を取り、作戦の開始を伝えておく。

 これで、戦争の準備は完了だ。


 さて、守るべき人間に剣を向けられた勇者様は、どんな顔をするのだろうか?


 できれば、混乱の中で、ろくな抵抗もできずに死んでほしい。

 私がそんな事を願っている間に、人間と魔物の軍勢は、国境砦を目掛けて進軍を続けるのだった。

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