30 ゴブリンロードの戦い

ーーー


 真装『ヒートナックル』 耐久値18000


 効果 全ステータス×2

 専用効果『熱き青春の拳ヒートナックル


 真装のスキルによって顕現した力。

 本来の持ち主以外に使う事はできない。


ーーー


 熱き青春の拳ヒートナックル


 自身の拳に火属性攻撃を付与。

 火属性攻撃の威力を大幅に上昇。


ーーー


 真装『ヴァナルガンド』 耐久値10000


 効果 MP×3 魔力×3

 専用効果『氷獄の魔杖ヴァナルガンド


 真装のスキルによって顕現した力。

 本来の持ち主以外に使う事はできない。


ーーー


 氷獄の魔杖ヴァナルガンド


 氷属性魔法の威力を大幅に上昇。


ーーー


 これが、鑑定に成功した、あの二人の真装の能力だ。

 説明文だけだと、アキレウスやバーバリアンに見劣りするように感じるけど、そんな事はない。

 シンプル・イズ・ベストという言葉がある。

 この二人の能力はまさにそんな感じで、単純だけど純粋な火力が高いのだ。


 ヒートナックルの方は、使い手の色物が「熱血パンチ!」とか叫んで繰り出した拳を、ゴブリンロードが余裕ぶっこいて素手で受け止めたところ、その受け止めた手が焼けるを通り越して溶解する程の攻撃力だし。

 ヴァナルガンドに至っては、専用効果なしでも、単純なステータスの増強だけで、使い手の爺の魔力が25000を超える。

 その状態で放たれる強化された氷魔法は、もはや災害だ。

 今のリビングアーマー先輩でも、まともに食らったら死にかねない。

 怖い。


 そんな化け物連中相手に、ゴブリンロードは大苦戦していた。

 既に真装は使ってるけど、それでも尚だ。


 多分、ゴブリンロードの勝ち筋としては、とりあえず討伐隊の最大戦力である爺に接近して、真っ先に殺す事なんだろうけど。

 熱血色物がステータス差を技術と根性で埋めて、立派に壁役の務めを果たしちゃってるから、上手く接近できてない。

 そこへ爺の援護射撃が炸裂し、ゴブリンロードの魔耐をぶち抜いてダメージを与えると。

 今のゴブリンロードの魔耐は、真装によるステータス強化で10000を超えてるのに、それを当たり前のように上から捩じ伏せてる爺は、ちょっと訳がわからない。

 あの爺、もしかして人類最強か何かだろうか?


 そして、『蛮族の狂宴バーバリアン』で強化された取り巻きゴブリンどもも、もう一人の真装使いである俊足野郎が翻弄し、残りの討伐隊によって順次狩られていく。

 当然、討伐隊だって無傷じゃない。

 質を兼ね備えた数の暴力によって、何回も死ぬ直前までダメージを負ってる。

 その度に誰かの回復魔法かポーションで回復し、無理矢理戦線を支えてるだけだ。


 特に、ゴブリンロードと真っ向から戦ってる熱血色物の消耗が一番激しい。

 それを随時回復してる爺のMPも、それなりに減ってきた。

 他の連中も疲れてる。

 爺の広範囲攻撃魔法で取り巻きを一気に氷漬けにできれば楽になるんだろうけど、一回それやってゴブリンロードの火魔法で解凍されたり、氷漬けにした以上に次々と増援が来てるから無理。

 地道に削っていくしかない。

 でも、このままだと、ゴブリンロードの方が先に限界迎えそうだ。


 なんにしても、決着の時はそう遠くない。

 私はその時に備え、最悪の事態を想定した作戦の準備を整えた。






 ◆◆◆






「《熱血ラッシュ》!」

「《アイスランサー》!」

「グッ……!?」


 炎使いの拳と、魔法使いの氷魔法が俺様を襲う。

 どちらもバーバリアンを盾にして防いだが、その上からでも自分がダメージを刻まれているのがわかった。

 忌々しい人間どもめ!

 この俺様に傷を付けて、楽に死ねると思うなよ!

 生きたまま四肢をもぎ取り、身動き取れない中で、あの小娘を犯し殺す様を見せつけてやる!


「《パワードアックス》!」

「気合い回避ぃ!」


 そんな思いで殺意を籠めて振るった斧を、炎使いはアーツでも何でもない動きで避けた。

 行動の度に一々、無駄に暑苦しい叫びを上げているのが、何ともイラつく。

 耳障りだ!


「《熱血パンチ》ィ!」

「グハッ!?」


 そして、反撃の拳が俺様の腹に突き刺さった。

 炎を纏った拳が俺様の鎧を溶かし、その内側にまで火傷を負わせる。

 咄嗟に後退して、最初に受けた左手の傷のように回復魔法で治したが、後ろに下がってしまった隙を狙われ、今度は魔法で攻撃された。


「《フロストガイア》!」

「ぬっ!?」


 その魔法は、俺様を直接狙わずに、足下の地面を凍りつかせた。

 当然、俺様の脚は凍りついて地面に固定されてしまっている。

 引き剥がす事は容易いが、確実に一瞬は動きを止められた。


 そして、この人間どもは、その一瞬を見逃すような奴らではなかった。


「カルパッチョ! 今じゃ!」

「うぉおおおお! 《超熱血ラッシュ》!」

「グォオオオオオ!?」


 盾に使ったバーバリアンが砕け散った。

 炎拳の連打が直接俺様に突き刺さり、吹き飛ばされる。

 マズイ!

 真装は砕かれても再展開できるが、それには時間がかかる。

 その間、真装なしでこの人間どもの相手をするなど不可能だ。

 しかも、


「! 急に弱くなったぞ!」


 部下達が『蛮族の狂宴バーバリアン』の力を失い、弱体化する。

 そうなれば所詮は雑魚の群れ。

 女どもや、あの小娘に産ませたばかりのLv1まで交ざっているのだ。

 奴らに勝てる道理はない。


「おのれ!」


 ならばと、俺様は奴らへの怒りを呑み込み、背を向けて逃走を開始した。

 生きてさえいれば何とかなる。

 今までもそうだった。

 人間どもに生まれた巣穴を滅ぼされた時も。

 魔王に惨敗し、不様に命乞いをして配下に加わった時も。

 俺様は必ず生き延びてきた。


 生きてさえいれば、いずれ復讐のチャンスはある。

 奴らにも、魔王にも、俺様を幹部最弱と呼んで見下してくる他の幹部どもにも。


 ああ、そうだ、逃げる時にあの小娘を連れて行ってやる!

 奴らへの怒りをあの小娘にぶつけ、群れを立て直せるだけの子を産ませてからなぶり殺してやれば、少しはこの怒りも収まるだろう。


「逃がさん! 《アブソリュートゼロ》!」

「ッ!? 《ファイアーウォール》!」


 背後から放たれた冷気の塊を、炎の壁で防ぐ。

 それでも完全には防ぎきれず、魔法を使う為に突き出した左腕が凍りつく。

 その時、チラリと部下どもの姿が目に入ったが、全員氷漬けにされていた。

 チッ!

 壁にもならんとは、あの役立たずどもめ!


「《スピードスラッシュ》!」

「グッ!?」


 その瞬間、高速で接近してきた人間が、凍りついた俺様の左腕を剣で砕いた。

 貴様!?

 この前は俺様から尻尾を巻いて逃げ出した雑魚のくせに、よくも!


「邪魔だぁ!」

「うっ……!」


 反撃に残った右腕で殴りつけてやれば、そいつは血反吐を撒き散らしながら吹き飛んで行った。

 普段であれば、あの小娘の前に引き摺って行って、小娘が子を産む様を見せつけてやるくらいするのだが、今はそんな暇もない。


 俺様は全力で逃げた。

 だが、回り込まれてしまった。

 奴らを避ける為に大きく迂回して洞窟の出口へと迎えば、その道は氷の壁で塞がっているのだ。

 炎で溶かしてやろうにも、背後からは奴らが追って来る音が聞こえ続けている。

 そんな暇はない。

 

 やむなく、洞窟の外へと逃げるのを諦め、下の階層へと降りる事にした。

 下の階層には、探索に行った部下を殺す何かがある事がわかっているから賭けではある。

 だが、上手くいけば、その何かと奴らをぶつけて足止めできるかもしれん。

 それに、氷壁のない場所であれば、普通に奴らを撒ける筈。

 俺様には、まだ弱かった時代に逃げ続けて得た隠密のスキルがある。

 その試みは、十分に可能だろう。


 そうすれば、その間に自動回復と回復魔法で傷を治し、減ったMPと失った真装を取り戻す事ができる。

 時間さえあれば、氷の壁を砕いて外へと逃げる事もできるだろう。

 もっとも、砕けてしまった左腕に関しては、数日は治らんだろうが。


 そうと決め、すぐに洞窟の下層へと向かう。

 下り坂を降り、しばらく走り続けると、俺様を追う奴らの足音が聞こえなくなった。

 どうやら、無事に撒けたようだな。

 あとは、回復するのを見計らって上層に戻……


「ガッ……ゴホッ!」


 そう考えた瞬間、急に体の内から痛みを感じた。

 ゴホゴホと咳き込み、吐血する。

 この感覚は……毒?

 見れば、俺様の今いる場所には、薄い紫色の霧が漂っていた。

 毒の霧か。

 逃げる事に必死で気づかなかった。

 なるほど。

 部下達を殺したのは、この毒か。

 だが、この程度の毒で死ぬ俺様ではない。


 そう思った瞬間、━━突如、俺様目掛けて矢が飛来した。


「ッ!?」


 咄嗟に叩き落とすと、今度は足音が聞こえてくる。

 奴らが追いついて来たのか!?

 一瞬そう考えたが、よく聞いて見れば足音の質が違う。

 これは、人間の足音ではない。

 もっと大きく、重い者の足音だ。


 他の魔物か?

 チッ。

 こんな事ならば、めんどくさがらずに洞窟の中を調べておけばよかったかもしれん。


 とりあえず、その場から離れるも、足音は別の方向からも聞こえてきた。

 そう間を置かない内に全ての方向から足音が聞こえ、俺様は囲まれた事に気づいた。

 だが、俺様に焦りはない。

 いくら弱っているとはいえ。

 いくら毒におかされているとはいえ。

 そんじょそこらの魔物に負ける程、俺様は弱くはない。


 そしてすぐに、足音の主が俺様の前に現れる。

 その正体は、黒いゴーレム達だった。

 それが10体ほど。

 それだけならば驚く事ではない。

 ゴーレムなど、所詮は雑魚だ。


 しかし、そのゴーレム達を率いるように先頭に立つ三人の人間。

 その内の一人の顔を見た俺様は、驚愕した。


「なっ!? 貴様は!?」

「立チ上ガレ━━『アキレウス』」

「踊リナサイ━━『フランチェスカ』」


 だが、俺様の驚愕を無視して、三人の人間の内二人が真装を展開する。

 そして、それを合図としたかのように、ゴーレム達が一斉に俺様へと襲いかかって来た。

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