86 国境砦の戦い

「……来た」


 偵察任務の終了から数日後。

 遂にその時が訪れた。

 砦の前方を埋め尽くす魔物の群れ。

 その中で一際目立つ、巨大な黒竜。

 遂に、魔王軍が国境砦へと攻めて来たのだ。


 それを察知した瞬間、私はリーフを転送機能でダンジョンに送還した。

 あいつのステータスだと、こういう戦争には付いて来れない。

 別れ際に置いて行かれた子犬みたいな顔してたけど、ならぬものはならぬ。

 代わりに、第一階層にリーフの部屋を造って、そこにもう一体造ったマモリちゃん人形を置いてきたから、それで我慢して。


「グオオオオオオオオオオオオオオ!」


 私がそんな事を考えてる間に、ドラゴンが雄叫びを上げた。

 それと同時に、ドラゴンの口の中に黒い光が収束していく。

 遠目でもわかる。

 あれは、ウルフェウス王国の王都を吹き飛ばした一撃。

 ブレスの予備動作だ。


「来るぞ! 迎撃用意!」

『ハッ!』

「押し流せ━━《ポセイドン》!」


 砦の上の方にいる指揮官が大声で宣言し、真装である三叉の槍を展開した。

 それに続いて、砦の各所に配置された何人かが真装を展開。

 更に、大勢の魔法使いが矢面に立つ。


 ドラゴンのブレスが放たれた。


 黒い極光が、射程上の全てを破壊しながら直進してくる。

 それを、砦の連中が全力で迎え撃った。


「《タイダルウェイブ》!」

『《ウォーターウォール》!』


 指揮官の放った、津波みたいな水の魔法。

 それに合わせて、大半の魔法使いは水系統の魔法を選択したらしい。

 当然、例外は何人もいるけど。

 そして、黒いブレスと、水を中心にした大魔法が激突し、相殺した。

 ……凄いな。

 あのドラゴンのブレスを防いだ。

 王都はあっさり消し飛んだのに。

 やっぱり、迎撃準備が整ってるかどうかの差なのかな。

 

「反撃開始だ! 弓兵部隊用意!」

『ハッ!』


 指揮官の指示に従って、砦の各所から矢が放たれる。

 この世界の矢って、弓の性能が良いのか、それとも『弓術』のスキルの影響なのか、まるで銃弾みたいによく飛ぶんだよね。

 さすがに、射程でも威力でも魔法に劣るけど、魔法と違って誰でも習得できる上に、MPを必要としない、矢が残ってればいくらでも連射ができる、と、弓矢特有のメリットもある。

 地球で言うと、弓矢が銃で、魔法がミサイルとかの戦術兵器って感じかな。

 それを用いてゴ◯ラの群れ魔王軍を倒す感じと考えればわかりやすい。


 その大量の矢に貫かれて、魔王軍に結構な被害が出る。

 多くの魔物が矢に撃ち抜かれて絶命した。

 続けて魔法も撃ち込まれ、魔王軍の被害は拡大してく。


 ただし、肝心のドラゴンは無傷だ。


「ガッハッハ! そんな弱々しい矢弾では、俺の肉体美に傷一つ付けられんわ!

 突撃! 俺に続け!」

『ガアアアアアアアアアアアアアアアア!』

『グオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 そして、味方の被害を全く気にせず、先陣切って突っ込んで来た。

 脳筋全開。

 魔王が嘆く気持ちもわかる。


 でも、この戦法は意外と有効だ。

 ドラゴンは並みの攻撃じゃビクともしない。

 そして、そのドラゴンの巨体が盾になるから、結果として魔王軍の被害は少なくなる。

 まあ、そこまで考えてやってるとは、とても思えないけどね。


「近接部隊構え!」

『ハッ!』


 それに対して、人間側は接近戦の準備をした。

 もちろん、遠距離攻撃の弓矢と魔法が止まった訳じゃないけど、近づかれる事を覚悟した陣形を取る。


 そして、遂に人間と魔王軍が直接ぶつかった。


 最初に激突したのは、指揮官とドラゴンだ。

 目立つ位置で指揮を執っていた指揮官にドラゴンが向かっていき、爪を振り下ろした。

 しかし、それはいくつもの魔法と、指揮官の放つ水の攻撃に押し返されて後退する。

 でも、ダメージはあんまりなさそう。


 その間に、他の魔物どもも砦の壁に取りついて来た。

 放たれる矢と魔法食らって脱落しつつ、仲間の屍を踏み越えて壁を登って来る。

 ホラー映画みたいだ。


 で、そんな事を続けていれば、その内、壁を登りきった魔物が現れる。


「迎撃! 迎撃せよ!」


 各所にいる現場指揮官が声を張り上げ、準備していた近接部隊が魔物どもを駆逐していく。

 オートマタも、それに交ざっていくらか殺した。

 魔王にバレたらと思うと怖いけど、その時は必要経費という事で納得してもらおう。

 多分、雑魚の何体かくらいなら許してくれると思うんだ。

 私が倒したのは、ウチでいうとロックゴーレムみたいな雑兵連中だし。


 そんな感じで戦ってると、次第に戦場がごちゃごちゃしてきた。

 壁を越えて来る魔物の数が増えて、近接戦闘部隊はあっちへこっちへ走り回ってる。

 これは、私の狙ってたタイミングだ。


 今なら、冒険者の一人くらいいなくなってもバレないと思う。


 そう確信を得たタイミングで、私はオートマタを動かした。

 リーフの描いた見取り図を見ながら、目指すは指揮官の戦っている上階。

 さあ、作戦開始だ。


「ん?」


 というところで、私はオートマタ視点のモニターに何かが映ったのを見た。

 砦の後方から凄い勢いで飛んで来る、鳥のような何かを。

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