22 ゴブリンの王

 真装使い襲撃事件から数日。

 ここ数日、有り余るDPに任せて結構大規模な改造をやってみた。


 まず、第二階層を3倍くらいの面積に拡張した。

 しかも、単純に拡張したんじゃなくて、階層追加によって新しい階層を2つ造り、その2つともを前までの第二階層と同じくらいの面積にまで拡張した上で、3つのフロアを繋げたのだ。

 その結果、今の第二階層は至る所に上り坂と下り坂がある、立体的な大迷宮となったのである!


 もう、坂が多すぎて、一度迷い込むと第一階層への上り坂を完全に見失うと思う。

 今のところあんまり出番がないけど、第二階層に地味に設置されてる動く壁のせいでマッピングも狂うだろうし。

 死にたくなければ、第一階層のゴブリンだけ退治して帰る事だ。


 そして、第二階層を拡張した後は、拡張した階層を守るモンスターを補充した。

 最初はガーゴイルメーカーでも造ろうかと思ってたんだけど、ちょっと思う事があって取り止め、別の事をやる。


 その思う事とは、ゴーレムの弱さだ。

 前回、ゴーレム達は弱りきった真装使いの男にすら蹂躙されてしまった。

 一応、奴隷の女を1人殺すくらいの仕事はしてくれたけど、逆に言えばそれだけ。

 真装使いの男を効果的に消耗させられたかと言うと微妙だ。

 正直、いないよりはマシ程度だったと思う。


 これじゃイカンという事で、ガーゴイル造りより先にゴーレムの強化を優先。

 贅沢に30000DPくらい使って黒鉄を大量生産し、それをゴーレムメーカーに突っ込んで、十体の黒鉄ゴーレムを造った。

 ゴーレムは、リビングアーマー先輩と同じで、材質が性能に直結するモンスターなので、材質を黒鉄にしただけで、かなり強いゴーレムになるのだ。

 ちなみに、ステータスはこんな感じ。


ーーー


 黒鉄ゴーレム Lvーー


 HP 1500/1500

 MP 0/0


 攻撃 1000

 防御 1000

 魔力 0

 魔耐 1000

 速度 500


 スキル


 なし


ーーー


 なんと!

 岩製のロックゴーレムの約10倍の強さ!

 これなら、ゴブリンチャンピオンとも戦える。

 そんなのが十体。

 しかも、たとえ破壊されたとしても素材は残るから、侵入者にお持ち帰りでもされない限り、何度でもゴーレムメーカーに突っ込んで復活するという。

 凄い。

 不死身だ。

 ある意味『不死身の英雄アキレウス』以上の不死身だ。


 この十体の黒鉄ゴーレム達は、今後、第二階層の主力になる予定。

 前回、他のゴブリンを盾にして奮闘したゴブリンチャンピオンみたいに、

 他のゴーレムを盾にして黒鉄ゴーレムが戦えば、格上相手でも勝てるかもしれない。

 これで、第二階層も毒だけに頼ったフロアではなくなった訳だ。

 今なら、生前の真装使いゾンビくらい、ボス部屋到達前に潰せると思う。

 頼もしい限りだ。

 より枕を高くして眠れるぜ!


 あとは、リビングアーマー先輩をDPで強化したり、前回の反省を活かしてボス部屋に新しい種類のトラップを追加したりした。

 ダンジョンの強化はそんな感じ。

 残ったDPは大事に貯金して、リビングアーマー先輩の残機もバッチリだ!



 で、私がそんな感じでダンジョンを強化してる間に、ゴブリンどもがいる第一階層でも動きがあった。

 まず、剣士の女がママになってた。

 この意味を深く考えてはいけない。

 絶対に気分が悪くなるから。


 しかも、それだけじゃなくて。

 なんか最近、外からゴブリンどもが入って来る事が増えてるのだ。

 それも尋常じゃなく。

 一旦はチャンピオンとシャーマン含めて10匹にまで減ったくせに、今では50匹くらいのゴブリンが第一階層にたむろしてやがる。

 まるで、この前の戦闘で減った戦力を補填する為に、どこかから派遣されてるみたいだと思った。


 まあ、どれだけ数が増えようとも、第二階層は数の暴力で越えられる場所じゃない。

 だから、そこまで心配する必要はないんだけど、それでも不安は拭えなかった。

 嫌な予感がする。

 もうゴーレム軍団とゾンビ二体を使って駆除しちゃおうか?

 そうは思ったけど、万が一、黒鉄をゴブリンが気に入って拾っちゃったらと思うと、踏ん切りがつかなかった。

 ゾンビ二体も重要な戦力だし、できれば私に有利な第二階層で運用したい。


 そうして、ゴブリンの事は考えないようにしてダンジョンの強化を進めてたんだけど。

 今回の改造が全部終わってから少しした辺りで、嫌な予感が現実になった。


 一匹のゴブリンが、大量のゴブリンを引き連れて、第一階層に入って来たのだ。


 黒くて豪奢なマントを羽織り、その下に立派な鎧を着て、頭に王冠を被ったゴブリン。

 大きさは人間の男と同じくらいで、ホブやチャンピオンみたいな巨体ではない。

 でも、奴らとは比べ物にならないオーラを纏っていた。


 洞窟の中にたむろしていたゴブリンどもが、そのゴブリンに対して頭を下げる。

 シャーマンや、あのチャンピオンですら頭を下げた。

 剣士の女でお楽しみ中だったのに、それを取り止めてまで。

 

 もう嫌な予感しかしない。

 そう思いつつも、私はこのゴブリンを鑑定した。


ーーー


 ゴブリンロード Lv88

 名前 ギラン


 HP 9950/9950

 MP 8470/8470


 攻撃 5521

 防御 5060

 魔力 5100

 魔耐 4998

 速度 5000


 ユニークスキル


 『真装』


 スキル


 『HP自動回復:Lv6』『MP自動回復:Lv8』『斧術:Lv9』『火魔法:Lv10』『回復魔法:Lv11』『統率:Lv10』『隠密:Lv10』


ーーー


 化け物だ。

 強いだろうとは思ってたけど、予想を遥かに超える強さだった。

 ナニコレ、私の知ってるゴブリンと違う。

 というか、名前持ちのモンスターなんて初めて見た。


 ちょっと待って。

 これは本気でヤバイ。

 この化け物なら、強化された第二階層を容易く踏破しかねないぞ!

 何せ、ステータスは元より、真装まで持ってるんだから。

 第二階層の戦力で勝てる気がしない。

 全ての戦力を惜しみ無く投入して、毒と合わせて可能な限り消耗させ、

 その後、ボス部屋で全てのDPを使い切る覚悟で、リビングアーマー先輩を修復させ続けながら戦うしかない。

 それで、何とか勝ち目があるかどうかってレベルだ。

 奴の真装の性能によっては、この予想ですら甘いかもしれない。


 私がモニター越しに息を飲む中、ゴブリンロードはゆっくりと動き出した。

 チャンピオンに案内されて、第一階層の真ん中くらいにある広間みたいな場所まで行って……そこにあるゴブリンどもが作った玉座に座った。

 ……ん?


 そして、そのまま、ゴブリンロードは寝てしまった。

 ステータスに『状態異常 睡眠』って表示されたから間違いない。

 ……え?

 攻めて来ないの?

 ひょっとして、新しい家に引っ越して来ただけ?


『ギィ……ギィ……』


 呑気にイビキをかきながら眠るゴブリンロードを見て、私はとりあえず肩の力を抜いた。

 これは、もしかしたら命拾いしたかもしれない。

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