第118話 トルトリオンの輝きの下に
『コイツほんまアカンで! レコやん、はよしてーや!』
クジラさんが巨大獣魔を拳でどつき、その巨体を軋ませて揺らす。
だが直後には多数の枝が鞭のように襲い、クジラさんを打ち付けていた。
そんなクジラさんももうボロボロだ。
その顔は相変わらず丸々としているけれど、余裕は本当に無いのだろう。
力を取り戻してもなお抵抗しか叶わない獣魔が強過ぎるんだ。
それに猶予も無いのも本当の事。
ヴァルフェルをほとんど僕が持って行ってしまったから、地上侵攻部隊を止める手立てがほとんど無い。
現に今もツィグさん達のいる南門へと向けて大軍勢が進行中だ。
僕が間に合えばいいが、ダメだった場合の被害は計り知れない。
南門の外にはたくさんの軍人や反乱軍兵がひしめいているのだから。
先に逃げさせていた民衆と違い、彼等が逃げる余地はもう無いだろう。
間に合うのか、僕は!?
――そう思っていた時だった。
突如、皇都内に走る獣魔達を一迅の光が焼き尽くした。
それどころかその光は立て続けに薙ぎ払われ、地上の獣魔達を次々と飲み込んでいく。
その正体は凱龍王のエクスターブレス。
はるか後方でぐったりと倒れながらも、首だけを上げて放射していたんだ。
どうやら僕の意思を汲み取ってくれたみたい。
ただそれで限界だったらしい。
光もあっという間に消え、凱龍王がその首をも倒してしまった。
最後の力を注いで皆を助けてくれたんだね。ありがとう凱龍王!
「レコ、プログラム完成したよ!」
「よし、メルエクス・ティアのシステムとの同調を確認した。さすがユニリース、いい仕事してるね」
「えっへん!」
ユニリースも頑張ってやり遂げてくれた。
僕が死なずに済んだから、たくさん元気をだしてくれたみたいだ。
だからおかげで、完璧に事が進みそうだよ。
僕達はもう巨大獣魔のすぐ直上。
あの暴れる怪物を見下ろし、魔力を高めている。
全魔導機の出力を最大値にまで加速させながらね。
壊れそうな機体があったって関係無い。
不備は全てもう僕が把握し、至らない部分は魔法で補う。
そうできるように僕自身が機械的に判断し、操作しているから問題無いよ。
「トルトリオン・エクステンド、マージ変換を開始する!」
「各エーテルリアクター臨界、各機からの供給魔力は想定の三倍以上! レコ!」
「うん、いい感じだ。皆が頑張って集めてくれたおかげだね」
「それとレコがちゃんとただしく目醒めてくれたおかげ!」
「ははっ、じゃあそういう事にしておこうか!」
あとは僕が放てば、すべてが終わる。
ゆえに今、僕は拡散砲を直下へと向けて構えた。
再び肩からハーモリックシャフトを伸ばし、各部不要な外装を
魔力を多大に放出させて周囲からの魔力を循環、加速させて増幅。
さらには僕自身の魔法で多大な魔力に意思を持たせて凝縮。
そうして固まり、絡まり、練られていく。
拡散砲を中心にして、遂には魔力が変質して虹色に輝き始める。
それも獣魔が気付いてしまうほどに強く激しく煌々と。
そう気付いた獣魔がとうとうクジラさんの四肢を咥えて掴んでしまった。
盾にでもしようと画策しているのだろう。
『ダメや、もうアカーン! りっだっつゥ!』
だけどそんなクジラさんも四肢を
そのまま丸々しい身体を跳ねさせて離れていった。
ナイスプレイやでクジラさん!
切り離した四肢もたちまち掻き消えていく。
そうして武器を失った獣魔が、今度は自ら僕へと向けて枝を伸ばしたのだが。
でももう遅い。
僕はもう、すべての準備が整っているのだから。
――元の星護六命神だった頃はきっと、世界を守る良き存在だったのだろう。
こうして滅ぼしてしまうのが残念でならないよ。
だからせめてその孤高なる意志だけは星に還そう。
いつか代わりとなる、星を守る存在が生まれ出てくる事を祈って。
『ギッギュウエエェェェーーーーーーッッッ!!!!!』
「さようなら、
その想いの下に、今僕はトリガーを引いた。
幾つもの枝先が伸びて来るその最中に。
そして今、解き放つのだ。
生命波動を持たない生命体を芯まで焼き尽くす滅魔の輝きを。
〝トルトリオン・ハーモニック・エーラディッター〟……その力が今ここに。
その瞬間、虹色の光が大地へ向けて放射された。
超巨体さえも覆い尽くすほどの扇状放射として。
それが即座にして獣魔の身体を焼き、溶かし、灰にしていく。
まるで光と共に消えるかのように。
さらには地上に弾かれた輝きが拡がり、周囲の獣魔をも飲み込んでいた。
それはまさしく針のごとく伸び、小型など閃光筋に触れただけで即消滅へ。
光だからこそそれも一瞬に、地上に溢れていた獣魔が消え去ったのだ。
だけどこれだけでは終わらない。
滅魔の輝きは奴の根を通って地中深くにまで達するのだから。
光が大地へ伝わり、星へと届くだろう。
しかしこの輝きは星にとってはむしろ栄養でしかない。
それは僕の意思が乗る生命波動の輝きそのものだからこそ。
それどころか星が今ごろ、僕の意思に応えて放ってくれている事だろう。
今の輝きと同等の生命波動を、自分自身を取り巻く全土へと。
そうなればもはやこの地上に獣魔が逃げる場所は無い。
星そのものの輝きが奴等を蝕み、すべての獣魔を滅ぼすだろう。
僕の有り余る生命波動がそこまでさせてくれた。
巨大獣魔を倒すだけでなく、星に巣食っていた病巣そのものを取り除いたのである。
――こうして僕達の長い夜の戦いがようやく終わりを告げる。
予想もしえなかった宿敵の登場と、その撃滅を果たす事によって。
そしてそれを成し遂げた僕達の下に、ようやく朝日が差し込んだのだった。
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