第93話 アールデュー帰還
「アールデュー! よく帰って来てくれた……!」
「シャーリヤすまない、苦労を掛けさせてしまったようだ」
奇跡的にも、こうしてアールデュー隊長を救い出す事ができた。
どうしてあの場所まで逃げおおせられたのかはわからないけれど。
それで今はようやく帰還し、隊長とシャーリヤさんが抱き合っている。
うーん、感動の再会みたいでなんだか僕も心温まる想いだよ。リアクターが仕事しすぎて熱を帯びているからかな。
「にしても見ないうちにこんな痩せこけてしまって……」
「長いこと鎖に繋がれ続けていたからな。俺が拘束されてどれくらい経つ?」
「およそ三ヶ月あまりだ。それでもよく無事でいられたと思う」
「しぶとさだけは国一だと自負しているからな」
「ハハッ、違いない」
ただその姿はどちらかと言えばシャーリヤさんに身体を預けている風にも見える。
それだけ消耗しているからかもしれないね。
「だが驚いた。お前達はこんな高機動ヴァルフェルを開発していたのか?」
「いや、彼は特別製だよ。こんな代物、普通の人間が扱えるワケ無いからな」
「特別製……?」
するとそんな二人が僕を見上げていて。
アールデュー隊長に至っては眉をひそめて疑わしそうに覗き込んでいた。
「お久しぶりですアールデュー隊長。僕です、レコ=ミルーイですよ」
「なッ!? なんだと!? お前、あのレコだっていうのかッ!?」
でも僕がこうして正体を明かした事でようやくわかってもらえたらしい。
確かに、完全に別物な今の顔じゃ誰が見てもわかりはしないよね。
……まぁ、そもそもヴァルフェルな時点でわかる訳もないか。
そう、今の僕はもうディクオールのボディじゃない。
ユニリースが開発設計を行い、新規に製造された新型機に移ったんだ。
この機体の正式名称は、『廻骸』――〝フェルテリージェ〟。
事実上の第五世代機でありながら第六世代級の技術ポテンシャルを誇る超高性能機である。
この機体は性能自体もさることながら、武装・追加装備もすごいんだ。
ここまで僕達を運んだオルトリック・スフィアーターも、一瞬で音を越えられるくらいにすごい出力を誇っているしね。
まぁ普通のヴァルフェルが使うとその一瞬でバラバラになるらしいけれど。
僕が魔力障壁を張って慣性制御も行えるからこそ使える装備らしいよ。
「そうです。獣魔との最終決戦で生き残ったレコ・ワンです。色々あって死にそびれたんですけどね、おかげで今があります」
「そうか、今までずっと転魂状態を維持しているのも驚きだが、それでも良く生きていてくれたと思う」
「そこは僕も驚いていますよ。それもきっと彼女のおかげかなって」
「彼女……?」
しかも僕の装備はそれだけには留まらない。
そう会話を交わしていると、さっそく僕の背中のコンテナが唸りを上げ、サイドドアがスライドして開く。
それで僕が屈むと、中に座っていたユニリースが降下用ハンドルを掴んで降りてきた。
実はこのコンテナも特別製なんだ。
ユニリースが簡単に乗り込めるようになっていて、しかも外部操作用のコントローラーまで付いている。
おまけに彼女が座るシートは二つの駆動輪を組み合わせた全天位駆動式の〝オーヴィット・リニアライザー〟を採用。
僕がどのように動いても常に姿勢が変わらないようになっているんだ。
つまりこれからは彼女も一緒に戦えるってワケ。
で、そんなユニリースが髪留めをほどいて長い髪をふぁさりと降ろす。
そのついでに自慢げなVサインを見せつけてアピールだ。
「背中に子どもが!? しかもアテリアだと!? まさかコイツがさっきの声の……?」
「そうです。彼女はユニリース、僕の大事な家族の一人です」
「驚いた……まさか生きていただけでなく子どもまで養っていたとはな」
こんな意外な組み合わせに、アールデュー隊長はもう肩を落として呆れ気味。
疲れているのもあるだろうけど、考えるのがおっくうになってしまったみたいだ。
シャーリヤさんがついクスクスと笑ってしまうくらいにガックリとしているよ。
「……だが、お前が生きていて本当に良かったと思う」
「そんな、いくらなんでも大げさですよ」
「そんな事は無い。俺はお前が生きていてくれて、本当に嬉しいんだ……!」
「えっ?」
「だってな、お前の本体は……俺が殺したようなものなのだから」
「なんだって……!?」
ただそんな弱った身体がシャーリヤさんから離れ、遂には地面へと膝を落としてしまって。
それで僕達が慌てる中、今度はその身体もが前傾した。
そして僕へと向けて、手や額をも伏せさせていたのだ。
「本当にすまなかった……! 俺がお前を巻き込んだばかりに、本体のみならずお前の家族まで犠牲にしてしまった。こうなればもはや謝っても謝りきれん……ッ!!」
アールデュー隊長が伏せきって僕に謝罪する。
しかも弱り切った身体のままで、後悔の念にさいなまれて震えながら。
多くの人達が囲む中で、恥も顧みずただ一心に。
そんな姿はもう僕の知ってるアールデューとはまるで違ったんだ。
雄々しく気高く、時に緩くて気さくで、そして誰よりも優しかったあの隊長とは。
それが僕には、なんだか悲しかった。
まるで長い監禁の末にその心まで失ってしまったのかって思えてならなくて。
「だから俺は――」
「隊長、やめてくださいよ。僕はそんな謝罪なんて求めていません」
「――えっ?」
なので僕はふと思い立ち、こう返したのだ。
そんな姿のままでいて欲しくなかったから。
元のアールデュー隊長にすぐ戻って欲しいから。
誰もが憧れる強い存在として。
「隊長は僕をおとしめるような事をしないってわかっています。それに事実は辛いですけど、僕はそれを乗り越えて今ここにいます。だから謝られても、今の僕には何の意味もなさないんですよ」
「だ、だが……」
「それよりも僕は、貴方が前みたいに強く気丈であり続ける事を望みます。だから贖罪を望むというのであれば、どうかそんな隊長らしい姿を皆に見せ続けてあげてください。それが僕にとってもなにより嬉しい事ですから」
別に過去の出来事が悲しくない訳じゃない。
ティアナや僕達の子、両親達の死はきっと誰しもが理不尽だと思うほどの犠牲だったから。
だけどそんな悲しみに引っ張られるのはもう嫌なんだ。
今はもうユニリースやティル、チェッタ、メオがいるからね。
新しい家族にそんないつまでもみっともない姿を見せたくはない。
だからアールデュー隊長にも前を向いて生きて欲しい。
その方が皆に希望を与えられて、多くの励みにもなるだろうから。
「……わかった。ならば俺は贖罪のためにも、俺のできる事をして示そう」
「はい、隊長の教示、楽しみにしていますよ」
「よし。ならシャーリヤ、腹が減ったからメシをたらふく用意してくれ! 詳しい話は食ってる最中に聞く!」
「わかった。だがそう言うと思って、レコが救助に向かった時すでに手配済みだ」
「さすがだシャーリヤ、親父譲りの手腕は衰えてねぇな!」
「当然さ。とはいえ食堂は少し遠いから手を貸そう」
「いやいい。俺は俺の脚で行く!」
そんな僕の意志が通じたのか、隊長がすぐに昔の姿を取り戻してくれた。
でもきっと僕の言葉なんていらなかったのかもしれないね。
やっぱりこの人はアールデュー=ヴェリオなんだ。
誰もが憧れるナイツオブライゼスで、英雄で、僕の尊敬する人。
おしむらくは、同じく尊敬していたディクオス皇帝陛下と並び立つ姿をもう見れない事かな。
一度でいいからそんな光景を生で拝んでみたかったよ。
※新機体フェルテリージェのビジュアルは近況ノートにありますので、興味のある方はぜひ閲覧ください!
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