第47話 一般公開歓迎の伝説龍

「せっかくでありますし、ディアラムンド様に会いに行くのもありでありますな。実はレクサル団長にもそう勧められたであります」


 このラーゼルトを建国した伝説の龍ディアラムンド。

 そんな存在が未だ生きているなんて思いもしなかったよ。


 つまりこの国の民にとっては彼こそがずっと王様なんだ。

 そりゃ信頼もするよね、だってずっとこの国を守り続けて来た存在なんだもの。


 でもだからと言っていきなり会うとか無理があるんじゃない?

 だって伝説の龍だよ? 皆の憧れでしょ?


「心配する必要はないであります。ディアラムンド様にはあの山に登ればいつでも会えるでありますよ。常々拝みに来る信者もおりましたし、昔には観光客向けの謁見ツアーもあったくらいであります」

「凱龍王さん、すごく心が広いんだね……でもそれセキュリティとかどうなの」

「問題無いであります。本人がヴァルフェル程度なら一握りで五体ほど潰せるくらい強いでありますから!」

「あー確かに、それじゃ人程度がどうやったって勝てないもんね」


 とはいえ凱龍王さんは強くとも優しい方みたいだ。

 一般公開歓迎の伝説龍とか、たぶん他にいないと思う。


「といっても、それは以前までの話でありますが」

「あ、そうか、獣魔大戦があったもんね」

「えぇ。獣魔出現時には凱龍王自らが戦いに赴いたであります。ですがエイゼム級相手に負けないまでも苦戦を強いられ、多くの眷属も喰われて敵となってしまって。そこで止むを得ず撤退し、専守を貫く事にしたでありますよ」


 ただその伝説の龍でさえ獣魔の存在は強大だった。

 やっぱり生物である以上は奴等の特性に敵わないんだ。


 特に凱龍王は人と龍の絆を結ぶ程に優しい存在だから、きっと獣魔となった眷属や国民でさえ討つ事を躊躇ったんだろう。


「我が国の領土にも獣魔が出現した時がありまして。その際にはエイゼム級を撤退に追いやる事ができましたが、一方で多数の小型・中型を放逐させてしまったであります」

「ええっ!? それじゃあ危ないんじゃ!?」

「今はほぼ駆逐できたでありますが、以前は山への来訪者をも襲った事がありまして。また獣魔を倒す事ができなかった事で凱龍王への信頼も揺らぎ、今では来訪者がほぼいなくなってしまったでありますよ……」

「そんなぁ……」


 そんな優しさがまさか国民の心を手放す事にもなるなんて。

 やはり皇国みたいに力を示さないと人の心を引き留める事はできないのだろうか。


 僕としてはその優しさだけで充分、信頼に値すると思えるのだけれども。


 きっとロロッカさんもその類なんだろうね。

 だからか、こうして話している内にうつむいてしまっていて。


 そこでそっと彼女の裏へ左手を回し、腰を掬うようにして持ち上げる。

 すると少しはびっくりしたものの、僕の指にしがみ付いて受け入れてくれた。


「でもきっともうすぐ落ち着いて、人が来るようになりますよ。ほら、だって今もあんなに雄大なのに静かなんですから」

「はぇ~これは絶景であります!」


 なのでそっと腕をも持ち上げ、頭上に掲げてみせる。

 大きく視点が変わったからか、ロロッカさんから感激の声が聴こえてきた。


「ユニリースもみるー!」


 それをコンソール越しに見ていたんだろうね。

 今度はユニリースがコンテナを開いて飛び出して来たんだ。


 そこで右手を差し出し、乗り込んで来たユニリースを同様に持ち上げてみせる。

 そうしたら喜んでくれたみたいで、キャッキャと騒ぎ始めた。

 危ないから暴れちゃだめだよー。


「レコ、あの山行きたい! 行くー!」

「え、でも寄り道している余裕は――」

「行くの! ぜぇーーーったい行くのーーー!!」

「わ、わかった、わかったから暴れちゃダメだってぇ……」

「ユニちゃんはやはり可愛いでありますなぁ」


 しかもこんなわがまままで言い始めちゃって。

 ロロッカさんが「フフフッ」って笑う中、山に指を差して地団駄し放題だ。

 もう、名前が付いてもその足癖なおらないね君!


 という訳で、わがままの末に龍翔峰へと行く事が決定しました。


 まぁ僕としても凱龍王さんには興味がある。

 いったいどんな方なんだろうって。


 彼もまた人ではないにも拘らず人の如き知性を有している。

 今の僕と同様に。

 そんな方が今の世界に何を思っているのか、気になってしまったから。


 ならできる事なら話も交わしてみたい。

 そう期待せずにはいられなかったんだ。




 こうして、僕達は分かれ道を山へと向けて進んだ。


 とはいえ皆の気分はもはやピクニック。

 途中で立ち止まってはお弁当を囲んだりで、和気あいあいと進んでいたよ。

 龍翔峰はそれだけオープンな場所だというくらいだから皆気軽だったものさ。


 ――だったのだけど。


 麓を越え、山道を登り始めた所で僕は少し不穏を感じていた。

 本来なら感じるはずの無い気配をセンサーが捉えていたからこそ。


 なんなんだ、この山で一体何が起きている……!?

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