第六章 凱龍王
第48話 不穏な影達
『センサーに動体反応あり。
それは山道を登り始めてまもなくの事だった。
不意に広域サーチセンサーが反応を見せ、僕の意識を引き締めさせる。
それでふと
これは
しかもかなりの高効率稼働のもので、とても旧式とは思えない。
おそらくは僕と同等世代、あるいは相応の高性能機のものか。
ただこの動きは警備巡回といったとこ。
相手側は僕達の事には気付いていないみたい。
つまりセンサー性能に関しては僕の方が上らしいね。
なのでここで一旦、ユニリースをコンテナに戻す。
ロロッカさんも僕の後ろへ付くようお願いした上で。
「一体何があったでありますか?」
「わからない。けどおそらく、山の上にヴァルフェルがいる。それも少なくとも二機」
「ええっ!?」
更には岩陰へ身を潜め、相手の様子を遠くから伺う事に。
それでふとロロッカさんを覗き込んでみると、目を丸くしているようだった。
この事実は彼女もが驚くような事だったらしい。
「それは有り得ないであります。凱龍王はヴァルフェルによる護衛を嫌がったでありますから。それに出兵したという報告は受けていないでありますよ!?」
「それでもいるって事は、何か不測の事態が起きているのかも」
「なら王国の騎士として是が非でも確かめなければならないであります!」
とはいえロロッカさんも曲りなりにこの国の兵士だ。
だから臆する事も無くこんな事を言い始めていて。
けどロロッカさんの性格だと単身でも乗り込んでいきかねない。
そこで僕は咄嗟に腕を差し出し、憤る彼女を制止した。
「でもロロッカさんが行ったところでどうにかなる問題じゃありません。こんな時こその定時連絡なんじゃないですか?」
「そ、そうだったであります!」
彼女ができる事と言えば、仲間である聖鱗騎士団に助けを求める事だけだ。
あの部隊なら、配備されているのが旧型機と言えど精鋭が揃っている。
もし助けに来てくれるならきっと心強いだろう。
それにただ単に出兵の事をロロッカさんが知らされていないだけかもしれないし。
彼女はあくまで末端の兵士に過ぎないから。
という事で早速、部隊と連絡を取ってもらう事に。
「き、緊急連絡であります! さきほど進言した通りに龍翔峰を登山中でありましたが、山頂付近に謎のヴァルフェルが複数機あり! 確認願うでありますゥ!」
『謎のヴァルフェルだと……? わかった、本国に確認しよう。それとできる事なら機種の特定を頼みたい。場合によっては――って団長!?』
『ロロッカ、レコ殿に協力を頼み、その謎のヴァルフェルとの接触を頼めるか?』
「そ、それはもちろんでありますが……」
けど、なにやら雲行きが怪しくなってきたぞ。
レクサルさんが自ら連絡の間に入って来て、さらにはこんな無茶振りまで提示してきて。
『場合によっては交戦も許可する。これは聖鱗騎士団の勅命と思ってかまわん』
「こッここ交戦でありますか!?」
『相手が凱龍王の意思にそぐわないならば排除するのは当然だろう。そして今一番あの方に近いのは君達だ。その初動が命運を決するかもしれん。頼んだぞ』
「りょりょりょ了解であります!」
『それとロロッカ、君は生身だから後方待機だ』
「ぜ、善処するであります!」
まさか僕にまで交戦許可が下りるとは夢にも思わなかった。
普通なら僕を撤収させて自分達でどうにかするはずなのに。
もしかしてレクサルさん、何か思う所があるのか……?
いや、厳密に言えば『
でなければ国を出たい僕達に山登りを勧める訳がないからね。
どうやら僕、まんまとレクサルさんの思惑に乗せられたようだ。
けど、こうなった以上は僕としても黙って引き下がるわけにはいかない。
もし今起きている事が凱龍王さんにとって悪い出来事なら排したい。
それは僕自身の正義感と、受け入れてくれた事への返礼の為にも。
幸い、ユニリースもドン、ドン!と壁を蹴ってくれた。
これは『同意する』の反応だ。
どうやら彼女もやる気満々らしい。
「でしたらロロッカさん、僕の後ろから出ないようにして、少し離れて付いて来てください。いざ交戦となった場合は近づき過ぎないよう、岩場の影に隠れるなどで身を守ってくださいね」
「わ、わかったであります」
「ただ相手がどういう存在かどうかは逐一教えてくれると助かります。友軍を撃つ事だけは避けたいですから」
ゆえにこう説明した後に立ち上がる。
相手はまだ視界外で、魔力探知系の空間認識センサーじゃないと捉える事ができない場所にいる。
なのでどのような相手かを確かめるにはもっと近づかないといけないのだ。
「では行きます。気を抜かないでください」
「は、はいッ!」
だから僕は何一つ躊躇する事なく、峰へと向けて歩み始めた。
交戦許可ももらった以上は臆する必要もないから、もし問答無用で撃ってくるようなら全力で迎撃するだけだ。
それで少し登れば、センサーが確認した通り二つの人影らしきものがさっそく見え始めた。
山肌の傾斜を難なく水平走行する姿はもはや人にあらず。
そのバランス感覚と移動速度からして、間違いなくヴァルフェルだ。
しかも相応に適正値の高い、騎士級が転魂した機体だと思う。
そんな相手にロロッカさんも気付いた所で、小声で会話を始める。
「ロロッカさん、機種特定できますか?」
「ちょ、ちょっと待ってください。あれはー……『ウィルティニス』!? ま、間違い無いであります、あれは我が国が誇る最新鋭の機体でありますよ!」
「という事は友軍?」
「いえ、ウィルティニスは政庁近衛騎士団にしか配備されていない少数機。それがこんな所にいるはずなんて無いであります……!」
機種情報だけは記録があるからわかるぞ。
ウィルティニスは一年前くらいにラーゼルトが開発した第三世代機だ。
性能的には皇国の
かつ龍との共同作戦が展開できるよう、短時間の滑空も可能らしい。
少数生産仕様だからこそのオーバースペックモデルなのだろう。
そんな機体が今、こちらへ向かってきている。
あっちももう僕達に気付いているようだ。
ただ、なぜか発砲しようとはしてこない。
装備した銃と大楯も構える事なく、ただ近づいて来るばかりで。
そしてとうとう、僕達の目前へと辿り着く。
「
「ここからは我等とご同行を願いたい」
しかも突然何を言い出すかと思えば、訳のわからない事で。
僕がだんまりしているのを良い事に、勝手に話を進めている。
妙だな、まるでここに僕が来る事を既に知っていたかのようで。
――いや、違うぞ。
彼等は僕ではなく〝この機体〟が来るを待っていたんだ……!
皇国のエンブレムを持つ、このヴァルフェルを!
「おおお前たちは一体何者でありますかあ! 政庁近衛騎士団が出立した報告は受けていないでありますよおっ!」
「ぬうッ!? 貴様は一体ッ!?」
「友軍!? だがその紋章は――聖鱗騎士団かあッ!?」
しかしその時、不意に僕の背後からロロッカさんが叫びを上げて。
その途端、相手二機が距離を取ろうと飛び退こうとする。
けど今更気付いてももう遅い!
僕はこの時もう既に、相手が見せた隙を突いて回り込んでいたんだ。
飛び退く一機の背後へ付くようにして。
「なッにィィィーーーィごッ!?」
更にその一瞬で相手の首に両腕を回し、振り向く勢いのままにねじ切る。
鉄の頭が空へと弾け飛ぶほどに激しく強く。
そんな様子を残りの一機は思わず眺めてしまっていて。
そうしてできた隙を僕は見逃さなかった。
すかさず放たれる精霊機銃。
しかし僕はその弾丸を、身をよじらせる事で躱す。
今破壊した機体の腰から剣を、鞘ごと奪いながら。
そして回転する勢いのままに足を踏み込み急接近だ。
「はッやッ――」
後はそのまま逆手持ちの剣をもう一機の脇腹へと突き刺す。
鞘で覆ったまま、剣先を強引に打ち込むようにして。
軽装甲があだとなったな、
後は右腕部からショートナイフを取り出し、首をはねた機体にもトドメを差した。
こちらも偽魂格納器を一突きして。
こうして僕は謎の二機を早々と排除する事に成功したのだった。
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