第46話 国にまつわる龍王伝説

「あーあー定時連絡であります。我々は現在、駐屯地から南下中ー何事も無くゥ」


 ひとまず、ロロッカさんが子ども好きなただの変人だっていう事はわかった。

 その匂いを嗅ぎ取ったのか、ユニリースには思いっきり嫌われているけれど。


 それで今現在は夕刻。

 道中で手に入れた食材を使っての料理仕込み中だ。

 お婆さんに習った方法をようやく生かす時が来たぞ。


 ついでに、今日はここで野宿していくつもりでもある。

 ま、さすがにロロッカさんをずっと歩かせる訳にもいかないからね。


 で、そのロロッカさんはと言えば僕達の傍らで定時連絡の報告中。

 これは僕達と同行する上で課せられた義務なので、避ける事はできない。


「なお驚くべき事に、レモ殿にはお子様が同伴していたであります。とってもかわゆくてプリチーでベリーキュートな女児でありました!」

『なっ!? 子ども!?』

「以上、報告終わりであります」

『ま、待て! 定時報告はまだ終わっ――ブツッ』


 まぁロロッカさんが雑過ぎるからこの程度で済むみたいだ。

 本当にこれでいいのかと不安しかないけれども。


 とはいえ、ユニリースがアテリアである事をバラされるよりはずっとマシか。

 抜けているのか、本当に気付いていないのか、その事には一切触れる様子はなかったから。

 それだけでも僕としては一安心である。


「山菜鍋できましたけど、ロロッカさんも食べますか?」

「ぜひともいただくであります! とてもよい香りなのでありますなぁ!」


 なので軽く感謝も籠め、僕の手料理をふるまう事に。

 初めての料理だけど、調味料の配合バランスは記録した通りに出来ているから問題はないはずだ。


「ただちょっと――かなり薄めでありますな。出汁が味わい深いのは良いですが」

「ユニリースももっとこいほうがいいー」

「ええっ!? お、おかしいなぁ……」


 けど予想に反してなぜか不評だった。

 うーん、僕の見立ては間違っていないはずなのに、何がいけないんだ?


 なので仕方なく、塩とブラックソースしょうゆを少し継ぎ足す事に。

 計量スプーンを持つのが神経使うので、この作業はあまりやりたくないけれど。


 ただ、これで一応は及第点に届いたみたいだ。

 ユニリースもロロッカさんも改良型山菜鍋を口にしてウンウンと頷いていて。

 そうして気付けば鍋はカラに。

 二人ともそれなりに満足したようで、食べた後にはホッコリとした笑みが浮かんでいた。

 作った方としてもこの反応なら満足です。


 で、食べればもう後は眠るだけなので、ユニリースはさっさと僕の背中へ戻っていった。

 寒くなってきた所だし、ロロッカさんとも戯れたくないだろうしね……。


「僕が見張っていますから、ロロッカさんも安心して眠っていいですよ」

「了解であります。しかしやはり屋根と布団が無いのは少し不便でありますな。自分もリモ殿の背中で眠りたいであります」

「容量的に不可能ですからそれは諦めてください」


 そのロロッカさんは僕の背中のコンテナに興味津々だけれども。

 やはり毛布まで仕込まれた箱はやはり良質なベッドに見えるらしい。


 でもロロッカさんは大き過ぎて、間違いなく扉が閉まらない。

 鎧を脱いで初めて椅子として役立つくらいだろう。

 ユニリースの体格だから成り立つ仕様なので、ここは潔く諦めていただいた。


 まぁなんだかんだでロロッカさん、すぐにイビキかいて寝てしまった訳だけど。

 おかげで今夜はゆっくりできそうだ。

 





 そして翌日。

 僕達は起きて早々に旅を再開していた。


 朝ご飯は作る余裕も無いので、弁当箱にストックしていたパンをチョイス。

 そのユニリースの食べっぷりに、ロロッカさんも堪らず釘付けだ。


「美味しそうでありますなぁ……ジュルリ」

「ロロッカさんも食べますか? まだストックあると思いますし」

「やーだー! ユニリースがたべる分なくなっちゃうー!」

「こらぁ、わがまま言っちゃいけません! こういうのは助け合いが大事だよ」


 なので遠慮なくロロッカさんにもパンを渡す事にした。

 こればかりはユニリースが何を言おうと譲れない。


 一応はロロッカさんにも借りがあるからね。

 ユニリースの事を伏せてくれたから変に混乱せずに済んでいるし。

 それが故意なのか天然なのかはこの際置いといて。


 ただ、そのパンのおかげで調子が出たらしい。

 僕の歩行速度にもしっかりついてこれるくらいにね。


 なので僕達は早々に林を抜けられ、今は平原を歩いている。

 景色の先にそびえる大きな山を眺めつつ。


「ご覧あれ! あの山こそ我等が凱龍王の住まう『龍翔峰』でありますよ!」


 どうやらあの山はこの国にとって特別な場所らしい。

 標高が高いとかそういう訳では無いようだけど。

 

 けれど普通の山々と違って山脈状にはなっていない。

 突出した岩山が一つ、平原の真ん中にそそり立っているような感じだ。


 まるで人工的に造られたかのように。


「えっとすいません、僕あんまりラーゼルトには詳しくなくて……ちょくちょく話に出て来る凱龍王って誰なんです?」

「なんと! 凱龍王様をご存知ないと!? なんてモグリで旅行にきたのですかぁ!」

「だから僕達は旅行に来たんじゃないですからね!?」


 そもそも僕はラーゼルトに関してほとんど記憶にない。

 元々そこまで興味が無かったから転魂時に消えてしまったのだと思う。

 なので彼等の文明構造もまったくわからないんだ。

 あの山が一体何を示しているのかも。


 その凱龍王という人がどういうなのかさえ。


「なれば語りましょう、このラーゼルト建国の歴史と偉大なる凱龍王の功績を!」

「うん、良ければお願いします」

「では、この国が龍と共にあるという話はご存知で?」

「それだけはかろうじて覚えているかな」

「でも実は大昔、この一帯で人と龍が大地の覇権をめぐって争っていたでありますよ。あの山を中心にして。あの山は昔からとってもスピリチュア~ルなスポットとして有名だったであります」


 だから僕はロロッカさんの話したそうな雰囲気にあえて乗る事にした。

 レクサルさんの口からも度々出て来た名だし、興味があったからね。


 その人物が歴史の中でラーゼルトにどう影響を与えたのかって。


「しかしそんな時代にて、その状況を良く思わない者が現れたのであります。それがかのラゼルタスとディアラムンド。人と龍の異種兄弟であります」


 その始まりはまさに、人と龍の国にふさわしいものだった。

 異種族でありながら絆を結ぶ二人を起点としていたからこそ。


「二人は常に共に育ち、争う事など一度も無いくらいに仲が良かったそうな。だから人と龍が争い合う世に疑問を抱き、双方に戦いを止めるよう訴えたのであります。なのですが――」

「やっぱり、人は引き下がらなかった?」

「人も、龍もであります。むしろ戦いは激化し、大地は焼かれ、森は炭と化し、湖さえ干上がる程だったと。二人は心こそあれど、争いを止められる力はなかったのでありましょう」


 やはりなまじ知性があるから、意固地になってしまえるんだろうね。

 今も昔も、その所はきっとまるで変わっちゃいないんだ。

 そんな簡単に変われる訳も無いから。


「そんな時、二人に天啓が降りたであります。〝お前達が真に一つとなった時、世界を平定させるほどの強大な力を得るであろう〟と。そこで二人は決意しました。『ならば今すぐにでも一つになろう』と」

「今すぐ……?」

「そうであります。なんとラゼルタスは自らの意思でディアラムンドの口へと飛び込んだのであります」

「なッ!?」


 けどそんな者達の中にも、変わりたい、変えたいと望む人がいた。

 例え己の命を犠牲にする事になろうとも。


「こうしてラゼルタスを取り込んだディアラムンドは即座にして神の如き力を得る事ができたであります。二人の心は既に一つのようなものだったから」


 でもきっとラゼルタスは後悔なんてしないんだろう。

 ディアラムンドっていう家族がすべてをやり遂げてくれると信じていたからこそ。

 その過去の功績がきっと今のラーゼルトという形で残っているんだろうね。


「その咆哮は空を裂いて人と龍を堕とし、その吐息は果てた大地に生命の息吹を与えたそうな。さらには人と龍と星の知恵の下に双方を説き伏せ、ラーゼルトという国を創り上げたという訳であります」

「星の知恵、か……(まるでアテリアになったかのようだ)」

「そして晴れて凱龍王となったディアラムンドは人と龍を制定し続け、今なお民を見守り続けているのでありますよ」

「えっ、今も……?」


 けどどうやら〝残っている〟という表現は少し違ったらしい。

 まさか〝今なお〟その功績は続いているんだってね。




「そうであります! 凱龍王ディアラムンド様は今なおあの龍翔峰の山頂玉座に鎮座し、このラーゼルトの国政に一役買っているでありますよ!」




 まさか伝説の存在が未だ生きているなんてね。

 どうしてそんなすごい事、僕は忘れちゃっていたのだろうか。


 ご近所さんの出来事なのだから、これくらいは覚えていてくれても良かったのになぁ……。

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