第45話 何としてでも愛でたいロロッカさん

「暴れると危ないでありますよ~! 抱かれたら大人しくした方がよいであります」


 露わとなったロロッカさんの素顔が、僕達の驚きを誘う。

 なにせユニリースと同じ特徴を持っていたのだから。


 艶やかな銀髪と、黄翠の紋様が混じった瞳。

 その特徴はまさしくアテリアと言えるものだったのだ。


 けどよく見れば肌は白いし、黄翠の比率はそこまで多くは無い。

 という事はただ特徴がアテリアに近いってだけなのだろうか。


 ――と、それよりももっと重要な事実がある! 


「えぇ!? ロロッカさんって女性だったんですかあ!?」

「そうでありますよ。花もうらやむピッチピチの二七歳であります」


 そう、ロロッカさんはなんと女性だったんだ。

 背は高いし行動が大胆ざつ過ぎるから、てっきり男の人かと思っていたのに。


 しかしユニリースにほおずりする今の姿はまさしく女性そのもの。

 確かに言われてみれば声も高いし若干腰つきがそれっぽい。

 花がうらやむかどうかは別として。


 だから容姿的に見ればもう大人版ユニリースと言った感じだ。


「やーだー! やぁーーー!!」

「あぶッ!? あ、暴れないで欲しいでありまおごぶッ!?」


 なお、その美しい容姿が今、崩れに崩れています。

 ユニリースの容赦無きパンチとキックの嵐によって。

 よほど抱かれるのが嫌なのか、それともロロッカさん自体が嫌なのかー。


 そしてロロッカさんの顎へ見事な膝蹴りが炸裂。

 ユニリース、その拍子に宙を舞ったーーー!


「しゅたっ!」

「んっぎゃあ!」


 しかしユニリース、自慢の体捌きで見事な着地。

 一方のロロッカさんは情けない姿で転倒、これは痛い。


 ここで遂に決着ゥーーー!

 勝敗はユニリース、ユニリースの勝利です。


「ひ、ひどいであります……自分はただ愛でたかっただけでありますよぉ……」

「ま、まぁこの子は人見知りが激しい性格なので……」


 ――とまぁ余興を挟み、ユニリースがすかさず僕の背へ。

 相変わらずの素早さで駆け登って、すぐに扉を閉めてしまった。

 もう見つかっちゃった以上、隠しようがないのになぁ。


「背中に子どもがいたなら早く教えて欲しかったでありますよ。そうすればもっとながーくスリスリできたのに!」

「ま、まぁあまり表に出したくない子なので許してください」


 ただ、ロロッカさんはユニリースがアテリアだって事に気付いていなさそうな雰囲気だ。

 という事は、本当に容姿が似ているだけの普通の人なのかもしれないな。


「……実は自分、子どもが大好きでして。なのでこうして自分の子をほおずりする事が夢だったであります」


 けどそんな思惑をよそに、ロロッカさんは優しい微笑みを浮かべていて。

 ふと立ち上がりながらゆっくり語り始めていた。


 それも木漏れ日が降りる空を見上げながら。


「それならなぜ騎士団なんかに?」

「それは、自分が夢を果たせぬ不良品だったからであります」

「えっ……?」


 そんな姿からはもう、先ほどまでの愉快な雰囲気は残っていない。

 むしろ哀愁を漂わせ、今にも涙を流しそうなくらいに瞼を震わせていて。


「自分は元々、ラーゼルトにて代々受け継がれてきた龍護巫女一族の出でありまして。それでお役目を果たす為にと子を成そうとしたのですが……残念な事に、自分のはらは子を宿すに適さなかったのであります」

「ええっ!?」

「四人ほどの殿方ともお付き合いしましたが実る事は無く。お役目を果たせぬ自分にもはや居場所は無いと考え出家、軍に志願したのでありますよ」


 そうして語られた秘話は、今の僕でさえ胸が辛いと思える程に悲惨だった。

 ロロッカさんが抱いていたのはとても普通な夢なのに、それさえ叶わないなんて。


 同情の念が僕の心を包む。

 思わずロロッカさんを見つめ続けてしまう程に。


 するとそんなロロッカさんが踵を返し、再び歩み始めて。

 僕も後に続くと、再び彼女の声が聴こえて来た。


「それでも今は充実しているであります。夢は果たせぬとも、生き甲斐は見つけたでありますから。例え至らぬとも、国の為に奉公する事が今の自分の誇りなのであります」

「……強いなぁ、ロロッカさんは」

「ふふ、女というものは逆境に強いのでありますよ」


 さらにはそのまま地面に転がっていた兜を拾い上げ、パッパッと埃を払って頭に被る。

 そうして再び素顔を隠したのだけれど。

 ふと振り向かれた時、見えないはずの表情がハッキリと見えた気がしたんだ。


 それはもしかしたら、ロロッカさんという存在が理解できたからなのかもしれない。

 彼女が無駄にハイテンションな変人でいる理由を知ったおかげだろうか。


 それが夢を諦めきれていない気持ちを誤魔化している為、なのだと。


「なのでユニちゃんをまた抱っこさせて欲しいであります」

「そ、それは当人と相談してください……」

「そんな! それでは絶望的でありますよォ! そこを何とかァァァ!」


 でもだからと言って誰彼かまわず抱いていいって訳じゃあないよね。

 なので僕はきっぱりとそう断り、ロロッカさんの暴走を止める事にした。

 ここは互いの為にもちゃんと分別を付けるべきだし、やっぱり当人の意思は尊重しないと。


 例え切望のあまりにブリッジ懇願しようとも、ダメなものはダメであります。




 にしてもこの人、ほんっと身体柔らかいなー。

 鎧着込んでいても足速いし、一体どういう体の構造しているんだか。


 龍護巫女の一族ってそういう家系なのかなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る