第78話 君は空を飛んだことがあるかい?
「ふざけるな、お前みたいな奴が星の守護者を名乗れる訳が無い! それはボク達アテリアの役目なんだ!」
すべての元凶だったラウザが遂に僕の前へ姿を現した。
しかし特別な彼も、僕という特異的な存在を前に狼狽えている。
星の守護者、アドラ・フルクタル。
彼は僕の事をそう呼んだけれど、正直に言えばそんな事はどうでもいいんだ。
僕の家族を勝手に花嫁にしようとしている奴を止めたい。
共に行きたいと願った子ども達を救い出したい。
今の僕が願うのはただそれだけで、それ以上は何も望んでいないのだから。
その為に君を止めないといけないと言うのなら、僕はそれさえ迷わず選ぶ。
「おじさん、僕はラウザを止めますよ! いいですか!?」
「何を言っている! 父上も何を言われている!?」
「あ……ああ……」
「答えてください! 貴方は何を望んでいるのかを!」
「ラ、ラウザに翻弄されるのはもう嫌だ! 頼むゥ!!」
「――わかりましたッ!!」
「キサマ、この豚親父がァァァ!!」
きっとこの父親もラウザが生まれた時から言いなりだったのだろう。
なまじ知識と力があるから逆らえなくて。
それで彼が生まれてからずっと、このギーングルツごと傀儡とされてしまった。
悲しいよね、そのせいで世界からも孤立して。
挙句の果てに、ラウザの野望の為に利用されなければならなかったんだから。
だから今、その禍根を断つよ。
ラウザという存在そのものをこの世から消す事によって。
それがこの世界にとって正しい道となるならば、もう迷わない。
「ラウザァァァーーーーーーッッッ!!!!!」
「うあああーーーッ!!?」
その意志に従い、僕はラウザの下へ走り、その身体を掴み取る。
さらには即座に踵を返し、駆け抜け、力の限りに艦橋から跳ね飛んだ。
そして僕達は夕焼けの見える大空へと飛び上がったのだ。
「おっごあぁぁぁ!? なッにッおおッ!!」
ラウザは僕に捕まっている限り魔術を扱えない。
僕が周囲の意思伝達を遮断してしまったからね。
「ラウザは、空を飛んだことがあるかい?」
「何を言って――」
「なら最期だけは楽しんだ方がいい。この世界は、君が思っているよりもずっと自由なんだってわかるはずだから」
「だから何を言ってぇぇぇああああーーーーーーッッッ!!?」
そんな彼を、僕は全力で海の方へと投げ飛ばしていた。
島からも離れ、海のど真ん中へと落ちんばかりに勢いよく。
「クソがッ! ボクが空を飛べないとでもぉぉぉ!?」
だけど間も無く、ラウザは再び風を纏う。
僕から離れた事で魔術を操れるようになったからだ。
しかもその風力はすさまじく、ラウザの身体を宙で安定させていて。
遠いながらに、「ハ、ハハ」と苦笑いで僕に返していた。
だけどその瞬間、彼の直下の海面が激しく打ち上がる。
超巨大なクジラさんがすさまじい勢いで跳ね上がったがゆえに。
「え"っ?」
そうなればもう逃げ切れる訳なんてなかったんだ。
ラウザが気付いた時には既に、クジラさんの両顎に囲まれていたのだから。
そして「バクンッ!」という大音と共に口が閉じられ、そのまま海へと帰還。
大きな水しぶきを島中に撒き散らし、海中へと姿を消した。
「これで恩返し、できたかな?」
「おーけーぐっどぐーっど、最高のメシもろたで~!」
さらには海面から高い潮水が吹き上がり、こんな声もが届いてきて。
海上へと無事に着地を果たした僕は「ふぅ」と溜息の音声を零したのだった。
周囲から精霊機銃を突き付けられる中で、両手を掲げながら。
……ともあれ、この後はもう落ち付いたものだったよ。
なんたってラウザの父親が全機に対して停戦指示を出してくれたからね。
ラウザの操り人形だったとはいえ、一応はクルーに信頼されていたみたい。
おかげで僕の下に、すぐユニリース達が帰って来る事になったんだ。
とはいえユニリースはまだ気絶したままだった。
だけど命に別状は無かったらしく、ひとまず起きるまでティル達に付き添われて島の医務室に寝かされる事になった。
僕を襲ってきた奴等の本体も「すいやっせぇんしたぁー!!」と全力で一斉謝罪してくれたよ。
あのジョッシュも「詫びに指詰めますんで!」とか言い始めるくらいだった。さすがに止めたけど。
どうやらこの島の住民は皆、ラウザの言いなりだったらしい。
彼がアテリアとして力を発揮するせいで誰も逆らえずに。
獣魔大戦の折もやはりそそのかされて不干渉とせざるを得なかったそうだ。
子どもの国計画もラウザが考案して実行に移したとの事。
この国には労働力が不足していて、その補填にと奴隷にしていたんだって。
しかも驚くべき事に、その奴隷の中には子ども達の親も含まれていたんだ。
そこで僕は艦長と相談した。
彼等の奴隷待遇を改めて欲しいと。
その上で残りたいと思う人だけを住民として雇って欲しいとも。
これにはさすがの艦長も少し渋い顔をしていた。
やはり労働力不足は否めず、人員が減る事を危惧していたから。
いきなり減らしたら最悪はこの国が沈みかねないと。
だからその代わりとして、僕はラーゼルトとの和平を提案したんだ。
もちろん、僕が橋渡しとなっての。
つまりこのギーングルツを基礎として、海沿いの国『新生アルイトルン』を構築すればいいんだって。
それこそ子どもの国の住民たちも巻き込んでね。
そうすれば無理に航行しなくて済み、労働力もそこまで必要なくなるから。
それならと艦長も承諾してくれたよ。
この話は彼等にとっても悪くなかったんだと思う。
ギーングルツは各国から孤立していて補給も人員受け入れも出来なくなっていたらしいから。
だけどこれからは彼等も信用を取り戻すためにしっかり働いてくれる事だろう。
少なくとも艦長はラウザから解き放たれたおかげで穏やかさを取り戻していたし。
だから後の要となる政治は彼等に任せるとしよう。
僕ができるのはここまでだ。
彼等がいつか世界の信用を取り戻す事を願ってやまないよ。
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