第79話 一二年越しの和解の末に

「これで調印完了だ。これからの両国の関係が良き未来を作れる事を切に願う」

「我々も同じ気持ちです。これからもどうかよろしくお願いいたします、レクサル特使」


 ギーングルツを解放してから二週間余りが過ぎた。

 そして今、ラーゼルトとギーングルツが同盟を結んだのだ。

 解決の発端ともなったここ、海岸の桟橋前にて。


 ラーゼルトからはあのレクサルさんが特使として来訪。

 ギーングルツからは代表のボイツ艦長自らが出席。

 間に僕とユニリースが入り、子ども達やクジラさんもが見届け人となってくれたよ。


 そのおかげでセレモニーは無事終了。

 今立つこの地を『新生アルイトルン』として、二国が協力して発展させていく事を取り決めたのである。


 それでギーングルツのメンバー達は一旦の帰還へ。

 まずはこの場所を記念地 兼 寄港地として開発するらしく息巻いていたよ。


「お疲れ様です、レクサルさん」 

「君の為ならお安い御用だとも。まぁまさかこの短期間にあのギーングルツを解放して戻って来るとは夢にも思わなかったけどね」

「はは、成り行きでここまで行くとは僕も予想してませんでしたよ」


 特使のレクサルさんは僕との再会を喜んでくれた。

 僕がラーゼルトに戻った時、運悪く居合わせられなかったもので。


 しかしラーゼルト政府が率先して動いてくれたおかげで、すべてうまく進んだ。

 子どもの国の関係者を全員引き取ってくれる事になったのだ。

 獣魔が消えたから、またのびのびと過ごせる時代がやってきたしね。

 まぁまだ完全に不安はぬぐえないけれども。


「さて、名残惜しいが私はもう帰るとするよ。実はこっそりとここに来たものでね」

「ロロッカさんにバレたら面倒そうですもんね」

「なっ……誰もロロッカにとは言っていないだろう!」

「へ~~~でも顔に書いてますけど~?」

「おにあいのふたりー!」

「お、大人をからかうもんじゃあない!」


 という訳でレクサルさんともまたお別れだ。

 次に会える日が来るかはわからないけれど、どうか幸せに過ごして欲しい。

 とはいえ手の薬指にもう指輪も増えていたし、きっと心配はいらないね。


「レコやん、ワイな、なんかこう乾いた心が潤ってきたわ」

「ほな身体も潤したってーな。もう乾いてカッピカピやで」

「あかん、それはあかんで、ワイがここでローリングしたらみーんな波にのまれてしまうやん。ギーングルツ沈んでまうで」

「何回転するつもりなんやそれ」

「両国一二年ぶりの和解にちなんで、一二〇回くらい回っとこうかとな」

「クジラはんそれ大陸から去ってまうやん! どんな退場方法やねん!」


 それでクジラさんはといえば相変わらずのコレ。

 ユニリースが据わった目を浮かべる中、怒涛のコントが繰り広げられる事に。

 僕も思考回路をフル回転させてなんとかローリングさせないように必死だ。


「あ、それとなレコやん、コレやるわ」

「なんやコレって」

「っぷゥ!」

「あ痛ッ!?」


 するとそんなクジラさんが僕に何かを飛ばしてきた。

 で、僕の頭に当たったと思ったら跳ね返り、足元へと転がる。


 それは小さな透明の珠だった。

 しかも中で水色の何かがゆらゆらと揺らめいていてとても神秘的だ。

 ……というかこれ、どこかで見た事がある気がするぞ。


「それな、ワイの……あ、やっぱええわ」

「なんやねん! めっちゃ気になるやん!」


 それで手に取ってみれば案の定、僕の腕の中にとぷりと沈んでいって。

 その様子を前に「あぁ、これは凱龍王から貰ったものと同じだ」と思い出した。


 そう、クジラさんもやっぱり凱龍王と同じ存在だったんだ。

 この大海原を守る者、なんたらフルタの一人。

 そして僕はそのもう一人にも認められたという事なのだろう。


星護六命神アドラ・フルクタル! レコ、ちゃんとおぼえて!」

「えぇ……でもぶっちゃけるとどうでもいいし。というかよくわかったね。もうコンソール修理終わってたっけ?」

「いらないよ、レコの顔に書いてあったもん」

「えっ、もしかしてアイバイザーの表示文字見えちゃった?」

「なんや夫婦漫才もおもろいやんけ」

「「夫婦じゃない」」

「アッハイ。ほなさいならー」


 どうやら今の珠を渡す事がクジラさんの目的だったみたいだ。

 なので僕とユニリースの問答を適当にあしらって、ささっと海に帰っていった。

 

 常々だと面倒な方だったけど、たまになら会いに行ってもいいかも。

 なんだかんだであのコント、結構面白かったし。

 偶然の出会いとはいえ、良い巡り合いだったと心から思うよ。


 さて、あとは――


「なぁレコ、オイラ達は……」

「うん、ラーゼルトでも元気でね。僕は皆の幸せを願っているよ」


 僕を慕って付いて来たティル、チェッタ、メオ。

 彼等も多くの子ども達と共にラーゼルトへ引き取られる事になっている。

 もう子どもだ大人だなんてルールは存在しないからね、きっとまた皆一緒だ。


「その事なんだけどさ。オイラ達、実は三人で話し合ったんだ」

「え、何を?」

「オイラ達の父ちゃんも母ちゃんもいないだろ? だからラーゼルトに行っても保護者がいないんだ」

「そういう子は確か救助された大人達と施設へ入る事になっていたはずだけど」

「オイラ達、そんなとこ入りたくねーよ。やっぱりオイラ達は、レコと一緒にいたい」

「おねがいレコ!」「レコさんおねがいします!」

「皆……」


 ただ、ティル達にも思う所はあったのだろう。

 彼等が言う通り、すべての子ども達に両親が戻って来た訳では無いから。


 というのも、ラウザは各地で戦争孤児も集め回っていたらしい。

 一人で生きる事さえ叶わず、野垂れ死にしそうな子を。

 ティル達もまたその類で、両親はみな獣魔にやられてしまったそうだ。


 だからある意味で言えば彼等はラウザに救われた事になる。


 それで騙されていて後で労働力にされると知っても、怨みきれなかった。

 それなのにもしラウザを怨んだ大人とも住めば衝突は避けられない。

 そうして軋轢を生めば、幼い彼等はまた居場所を失ってしまいかねないだろう。


 彼等はまだ幼いのに、そんな事まで考えていたんだ。

 皆、とても賢いんだな。感心しちゃうくらいにさ。


「もし僕と一緒にいると、戦いに巻き込まれてしまうかもしれない」

「それでもオイラ達、迷惑かけないように考えて動くよ!」

「ラーゼルトと違って、裕福には暮らせないかもしれない」

「今さら裕福なんて言われてもわからないから必要無いわ!」

「いきなり僕が壊れて、身寄りがなくなってしまうかもしれない」

「そうなってもぼくたち、生きられるようにおしえてもらったよ」

「……そっか」


 そう賢いからこそ、彼等は決断したんだ。

 僕とユニリースと一緒にいたいって。


 それならもう、子どもだとか大人だとか関係無いよね。


「よぉし、わかった。それなら皆で一緒に行こうか!」

「「「やったぁー!」」」

「じゃあユニがおねーさんー」

「えーユニちゃんは妹でしょー」

「ちがうもん! ユニおねーさんだもん!」

「ははは、もう誰が姉でも妹でもいいじゃないか。僕からしたら皆一緒だし!」

「「「それ解決になってなーい!」」」


 それでも僕にとっては大事な家族で守るべき子ども達だ。

 一気に四人に増えちゃったからね、おもりが大変になりそうだよ。

 それに背中のコンテナも壊れたままで、ふかふか毛布もなくなってしまったし。

 ユニリースを守るのも一苦労な状態だけど、どうやって過ごしていこうかな。


 でも不思議と不安は感じない。

 この五人ならなんだか何が起きても乗り越えられるって思えるんだ。


 僕達の絆はもう既に、それほどまでに信頼して硬く結ばれているのだから。

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