第77話 欺瞞の黒幕

「感じるぞ、今なら君がどこにいるのかわかるよユニリース!」


 追っ手を振り切り、岩壁を登る。

 それも島の頂上付近へと目掛けて迷わずに。


 それというのも、僕にはもう見えていたんだ。

 ユニリースが今どこにいるのかという事が。


 強くて濃い魔力を感じるのだ。

 それでいて温くて、怯えて寂しがってもいる。

 そんな事までわかるのがきっと魔法使いってやつなのだろうね。


 だけど感じている通りなら許せる訳が無い。

 そこまで彼女を追い込んだ奴等は僕が粛清してやるぞッ!!


 その意志に従い、とうとう目的地へと辿り着く。

 頂上付近の岩壁に造られた箱状の建屋へと。


 おそらくここがこの海艦都市の中枢。

 戦艦の操舵を行う艦橋に等しい部屋なのだ。

 その証拠に、なんだか他の建屋よりも強固そうで形もしっかりしているし。


 でも強固だろうが今の僕には何の意味もなしはしないね!

 ゆえに僕はその艦橋の端を風の手で撫で千切ってやった。


「う、うわあああ!!」

「ひぃぃぃ!?」

「あっ、てめぇら、逃げるんじゃねぇ!」


 すると案の定、島の航行を執り行っていたであろう操舵士や管制官が姿を現し、驚いて逃げていった。

 それで遂には一人の大柄な男だけが取り残されていて。


 しかもその足元には、なんと小さな檻に入れられたユニリースの姿が!


「お前がこの島の責任者か!?」

「そそそ、そうだ! 俺様がこのギーングルツの艦長ボイツ様よ!」

「よくもまぁこの状況で咆えられる!」

「ひ、ひいい!?」


 そこで僕は強引に部屋を押し広げながら管制室へと乗り込む。

 面倒になって天井も魔法で引き裂いて吹き飛ばしてしまったけれど。


「ここまでやっといてなんだけど、僕は返して欲しいものを返してもらえればそれ以上は何も望まない。別に貴方に危害を加えるつもりなんて無いんだ。わかるよね?」

「お、おう……」

「だから悪い事は言わない。そこにいる僕の家族を返してもらう。それとついでに、子どもの国からさらった子ども達もね!」

「だ、だがそりゃあ――」

「口ごたえは求めていない! 僕が要求しているのは貴方の誠意だけだ!」

「ひっひぃぃぃ!? わわわかった、わかったって落ち着けぇ!」


 さすがにここまでやったら相手も観念せざるを得なかったようだ。

 思っていたよりずっと話がわかりそうな相手で助かったよ。


 でなかったら僕はこの島を破壊し尽くしていたかもしれないからね。


「ではその檻を開けて彼女をこちらに」

「わ、わかった。だからホント殺さないでくれよ? なっ?」

「もちろん、ちゃんと返してくれるなら安全は保障し――」

「まったく、は勝手な事されては困りますよ」

「――ッ!?」


 けどそんな時だった。

 この声と共に突如、僕の身体が強風にあおられる。

 鉄の身体が艦橋から吹き飛ばされかねないほどに強く。


 それも付近の機材を掴んでなんとかやり過ごしたのだけど。

 そうして姿勢を崩していた時、一人の人物が管制室へと歩いてやってきた。


「やぁレコさん、随分と無茶をやってくれましたね」

「なっ、ラ、ラウザさんッ!?」


 そう、現れたのはなんとラウザさんだったのだ。

 それもすさまじいまでの魔力を灯らせ、今なお僕を風で煽り続けている。


 おかしいぞ、これだけの魔力があったならすぐ気付けたはずなのに!


「君が無茶をしているというから急いで転移魔術で駆け付けてみれば……危うくボクの花嫁を連れ去られそうになっていたとは」

「花嫁、だと!?」

「そうだよ。この世界は愚かな旧人類に食い潰されているからね。だからボクが彼女と子孫を残し、優れたアテリアという種を世に解き放つのさ。人類の上位種としてね」


 そうか、アテリアだから魔術だって使えるのは当然なんだ。

 しかも魔力を大量に使う転移魔術だって、彼等ならなんて事なく扱える。


 だけどその野望は、今までに会ったアテリアのどの思想よりも黒い!


 ユニリースもロロッカさんも常に誰かの身を想って行動していた。

 それだけ他者を想える人達がアテリアなんだって思っていたのに!


「父上もそんな僕のおかげでこの地位に立てたんだ。だから少しは役に立って?」

「う、うう、すまねぇラウザ……」

「コイツ、実の父親を何だと思っているッ!?」

「腐りかけの道具かな。所詮は魔力をロクに持たない、喋る豚だよ」

「キッサッマァァァ……!」


 けどコイツはまるで、汚い大人の見本のような奴だ。

 くだらない優生思想を持ってアテリアとなったみたいな。

 自分が常に頂点で、他者を見下す事を何とも思わない差別主義者!


「君が来るまでは順調だったんだけどなぁ。クズガキどもを集めて飼育して、適度に育ったら労働力にする。そのプロセスがせっかく出来上がったのに台無しだ。ねぇ、どうしてくれるの?」


 僕は最初、この人を優しくてすごい人だと思っていたのに。

 子ども達を立派に育ててくれる面倒見のいい人だと思っていたのに。


 それが全部まやかしだったなんて……ッ!!


「どうもするもんか! 僕は君を止めるぞラウザ! その思想は、子ども達をさらに不幸にしてしまう!」

「知らないよ、あんなクズガキどもなんか。生きる場所を与えてあげたんだから感謝してボクのために働いて死ねばいい」

「クッ、少しでも君を信じた僕が馬鹿だった……! ユニリースは最初から君の事を疑っていたが、その理由がよぉくわかったよ!」

「そうやって真実に気付けないから凡人なんだよ、お前らは」


 どんどんと風が強くなっていく。

 これは従来の魔術師が使っていた風魔術だ。

 それもアテリアが使うから、勢いの上昇率がとめどない!

 これでは僕は愚か、傍にいる彼の父親まで吹き飛ばしてしまうぞ!?


 ――いや、それもわかってやっているんだ。

 もはや父親なんて眼中に無いのだろう。

 換わりは他にもいるのだろうから。


「それじゃ、さようならレコさん。ボクがユニリースさんを幸せにしてみせるからね」

「……残念だけど、僕はこの程度の風で負ける男じゃあないッ!!」

「ッ!!」


 なら僕は、その父親さえ守ってみせる!

 彼が汚点だというのなら、僕はそれさえ守って君を否定してやるぞッ!


 ゆえに今、僕の魔法が突風を遮る。

 まるで管制室を覆うように無風の空間が形成されたのだ。


「バッ、バカな!? これは魔法!? そんな、ヴァルフェルがなんでッ!?」

「僕だって知らないよ。けどね、この力はきっと、君のような奴を止めるために星神様が授けてくれたアンチシステムなんじゃないかって今更ながらに思った」

「なんだと!? じゃあお前が、お前ごとき機械が星護六命神アドラ・フルクタルとでもいうのか!?」


 こうなればもはや風魔術は通用しない。

 いや、そもそも僕に属性魔術なんて効かないのはわかりきっている事だ。


 そのアドラ・フルクタルとかいうものが何なのかは未だよくわからない。

 だけどこの力がラウザを止める為に必要だという事だけははっきりわかったよ。


 だって今、ラウザ自身が僕の事を明らかに恐れているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る