第76話 ジョッシュ再び

「おおっとぉ、ここから先には行かさねぇよ!」

「その声はまさか、ジョッシュかッ!?」


 魔法使いとして覚醒した僕は遂に島へと上陸した。

 それで並みいる敵を薙ぎ払って進み始めたのだけど。


 そんな僕の前になんとあのジョッシュのヴァルフェルが立ち塞がった。


 どうやら彼はただの舟渡役じゃないらしい。

 その機体は無駄に銀の装飾を施され、青く鋭い三叉の槍を所持している。

 しかもその槍捌きは明らかに使いこなしているようだ。


「まさかてめぇがまた舞い戻って来るとはな。一体どんなマジックを使ったんだ?」

「お前等を叩き潰したいという僕の意志が奇跡を呼んだのさ……!」

「そうかよ。だが俺の前じゃその奇跡とやらもおしまいだぜ」

「なにっ!?」


 その証拠に、鋭い槍を僕の目前で振り回して見せていた。

 一瞬で五回もの突きを繰り出すその槍捌きはもはや常人のそれではない。


 コイツ、おそらくは相当な手練れだ。

 隊長機あるいは将軍クラスの。


「ギーングルツ師団長、裂閃志のジョッシュとは俺の事よ」

「知りませんよ、そんな名前は!」

「なら墓標に刻んでやるよ! この俺に負けた雑魚ヴァルフェル野郎ってなぁ!」


 そんな奴が今、僕を貫こうと幾度と無く突きを繰り出した。


 いずれも鋭く確実な一手ばかりだ。

 さすがの僕も盾と身のこなしを駆使してかわすしかない。

 おかげで一歩二歩と後退を余儀なくされてしまった


「やっちまえ、ジョッシュさん!」「ブッ殺せぇぇぇ!」

「オーディエンスを喜ばせるためにもここは一つ、素直に串刺しとなってくれや!」


 しかも奴の攻撃はまだ続いている。

 ヴァルフェルだからスタミナ知らずで、延々と突き続けられるのだろう。

 一応はすべてしのげているけれど、これじゃいつまで経っても先に進めやしない。


「よく見りゃその盾はラーゼルト騎士団のじゃねぇか! よっくわかんねぇな、てめぇは! 皇国の機体を使っている癖によぉ!」

「この盾はラーゼルトの皆に託された友情の証だ! お前なんかにわかってたまるかッ!」

「そうかよぉ!」


 しかしその時、ジョッシュの槍先が僕の盾の縁にかかってしまって。

 すると途端にねじられ、取手の根本から弾け飛んでいってしまった。


「だがその盾も用済みだなぁ! 所詮は後進国ゥ! 俺達ギーングルツは魔導技術こそ皇国に劣るが、金属精製技術は未だ世界一なんだよォ! その粋を集めて造ったのがこの俺の愛槍ディーヴェルンッ!!」


 そして防御の要を失った僕に、今まで以上に速い一閃が繰り出される事に。


 迫る三叉刃。

 迸る殺意と敵意。

 その刃はヴァルフェルさえも容易に貫く事だろう。

 

 ただしそれが普通のヴァルフェルならば。


 ゆえにこの瞬間、僕は手刀突きを振り切っていた。

 迫る槍先に向けて、一切恐れも迷いもなく。


「馬鹿めがァ――ァァァァァアッ!!?」


 そんな手刀が今、奴の自慢の槍を「ギュリリィ!」と芯から真っ二つに切り裂く。

 分かれた途端から不自然にぐにゃりと湾曲、丸まるように変形させながら。


 しかも僕の手刀はさらにジョッシュの腕をも抜け、その胴さえも真っ二つに断ち切ったのだ。


「あ、え?」

「でも所詮ただの金属でしょ。属性兵器には敵わないんだよ、知らなかった?」

「なんだ、そりゃ――」


 どんなに強かろうが転魂機を破壊されればヴァルフェルは死ぬ。

 僕の手刀が見事にその核を切り裂いてやったのさ。


 だけど、そんな時だった。


「――るぅおおお!!! 旋斧志ガウディーンが貴様を討つゥ!!」

「ッ!!?」


 ジョッシュの背後から突如、巨影が大きく振り上げられる。

 なんとヴァルフェルほどもある巨大な斧が今まさに僕へと打ち下ろされそうになっていたのだ。


 なんという圧倒的重量感。

 なんという徹底的強襲感。

 奴等にはもはや勝利の為ならなりふり構うつもりはないのだろう。


 けど、そんな斧も今、僕の薙ぎ払いによって六等分にされていた。

 僕がただ思うままに、振り切っていた手でだけでね。


 究極にまで圧縮された風の刃が爪のごとく切り裂いたのだ。

 ジョッシュの槍や身体も、襲い掛かった巨斧も。


 そしてガウディーンとかいう奴もたった今、縦に真っ二つにしてやった。


「師団長が揃って瞬殺だとォ!?」

「か、勝てる訳がねぇ俺は逃げるぜ!」

「うぐぐ……!」


 奴等を切り裂いたのは風属性を最大限に利用した斬撃だ。

 腕に硬質ブレード同様の高圧風を纏わせ、切断力を極限に高めたのである。

 先ほど敵を握り潰した『風の腕』と同じ原理でね。


 奴等はきっとヴァルフェルの事は知っていても、属性武器の恩恵を知らない。

 特に硬質ブレードに関しては後期開発武装なので一般に出回っていないんだ。

 それでギーングルツもラーゼルトもただの金属武器を使っていたって訳さ。


 こうして手練れが一瞬にして葬り去られた事で、たちまち敵の士気が激減する。

 遂には逃げ出す奴までが現れたりで、まるで統率されちゃいない。

 これならラーゼルトの裏切者達の方がずっと優秀じゃないか。


 やはり海洋国家ギーングルツといっても所詮は海のならず者の集まり。

 元々忠誠心のようなものはそれほど持ち合わせていないのだろう。

 ならそんな奴等にかまう必要なんて無いよね。


 そう思った僕は逃げる奴になんて目もくれず、襲い掛かって来る奴等だけを次々に叩き潰していった。


 それでもまだ後方からどんどんと援軍がやってくるはず。

 おそらくはジョッシュやガウディーンとかの分体も。

 そんなのが合流したらますますやりにくくなってしまいかねない。


 そこで僕は雑魚どもを薙ぎ払いつつ桟橋を走り、岩壁へと向かった。


 おそらく岩壁の内部に彼等の都市部が存在するのだろう。

 だとすればティル達は奥深くに収容されている可能性がある。


 けどその入り口らしき所は既にブ厚そうな扉で閉められていた。

 ここから侵入するのは少し時間がかかるかもしれない。


 なので僕はあえて別の道を選ぶ事にした。


「中には入れないぜ! その扉は特別製だからな!」

「追い詰めろ! 質量で潰しちまえ!」

「ぶち壊――えっ?」


 幸い、今の僕にはもう行けない所は無い。

 例えばそう、岩壁を登る事だって造作も無いんだ。


 魔法で岩壁に石の足場を造り、トトトーンと駆け登る。

 他の奴がそれを追おうとしても無駄さ。

 普通のヴァルフェルじゃきっとすぐに足を踏み外すだけだから。

 

「あいつ、この断崖絶壁を登ってやがる!?」

「あ、ありえねぇ……本当にヴァルフェルかよ!?」


 そしてこう離れてしまえばもう彼等には手出しができない。

 下手に水流弾でも撃てば返り討ちにされてしまうだけなのだから。


 さてと、これで追っ手は振り切った。

 あとはどこから攻めるかだけど――実はこれももう目星がついている。


 だからもう少しだけ待っていてくれ。

 今すぐ会いに行くからね、ユニリース!

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