第十章 魔法使いレコ
第75話 奇蹟の魔法使い
「な、なんなんだ、奴は……」
「あんなことができるヴァルフェルがいるのか……!?」
動揺が聴こえる。
狼狽え、怯え、恐れている。
周囲を取り巻くどのヴァルフェルもが、僕の行いを前にして。
それは僕が今、海上に立っていたから。
それも意思のまま、願うがままに一歩さえ踏みしめて。
けど実際には少し違う。
僕は海に立っているのではなく、押し上げた海水の上に立っているのだ。
僕の身体から溢れる魔力を使い、自在に操る事によって。
「まるであれは、魔法使いじゃねぇか!」
「魔法、使い……? 魔術師と違うのか!?」
「いや違う、魔術は術式を構築して力を撃ち出すもんだ! だが魔法は、魔力を自在に扱い、森羅万象を操れる……! だがッ!?」
今ならお婆さんが言っていた意味がわかる。
僕が「魔法を教えてください」と頼んだ時、あの人はこう返したんだ。
「魔法なんて人から教わるもんじゃあない。気付いたら自然と使えるようになっているもんなんだよ」って。
まさにその通りなんだ。
僕は今、不思議と魔法の事を理解できている。
何でもできる、そう思えてならないくらいに。
だから僕は今、海水を操って乗り、自ら浮上してみせたんだ。
「だがヴァルフェルじゃ、偽魂じゃ魔法は使えねぇはずだ! 皇国からのレポートにもあった! 魔法使いが転魂してもヴァルフェルになったら魔法は使えなかったって!」
「じゃあなんで奴は魔法が使えてんだよォ!!?」
「し、知るかぁ――おぐえッ!?」
そしてその力で今、うるさい奴を黙らせてみた。
海水を内部機構に流し込み、圧縮させて潰してみせたのだ。
そうか、精霊の力を使えばヴァルフェルでもこう容易く潰せるんだな。
そう気付いたらもう、行動は早かった。
海水の足場を駆け抜ける。
それもどんどんと足場を高くし、空を翔けるようにして。
「クッ、奴を止めろォ! 何としてでも破壊するんだッ!」
そんな僕へと向けて水流弾を撃つも、すべては無駄だった。
水流は僕の傍で漏れなく弾け、纏い、遂には水泡となる。
さらには途端に弾け飛び、散弾のごとく周囲のヴァルフェルを撃ち抜いていた。
しかしこんな事、今の僕には朝飯前に過ぎない。
敵から放たれようと水は水、僕にとっては簡単に操れる物に過ぎないのだから。
人やヴァルフェルには必ず、攻撃に敵意や戦意などの意思が乗る。
生命波動があるからこそ、その意思が威力を高めてくれるんだ。
おかげで獣魔にも攻撃が通用し、撃退する事ができた。
でも魔法はその意思そのものを操る事が可能。
だからこうして形の無い水や空気に意思を乗せ、思い通りに動かせる。
ゆえに他者の意思さえ捻じ曲げ、こうして返す事も可能なのである。
すなわち、属性攻撃はもう僕には通用しない。
魔法という森羅万象を操る力がある限り、意思がまず届かないからね。
「けどこのまま調子に乗っているつもりはないよ。ユニリースやティル君達をさらい、僕を怒らせた事を後悔させてやるッ!」
この感覚は、凱龍王さんとやり合った時と同じ感じだ。
身体が壊れてもなお力を上げ続けたあの時と。
きっとあの時から、僕には魔法の力が備わっていたのだろう。
誰かを想って守りたい、そんな僕の根幹意思が魔法の才能を呼び寄せたのだ。
……まぁ、そこは僕の予想でしかないけどね。
そして僕は今一度その想いを迸らせ、とうとう覚醒した。
世界史上初、魔法使いのヴァルフェルとして。
そうさせたのは他でもない、お前達ギーングルツだ!
なら後悔だけでは済ませないぞ。
僕はやると決めたら徹底的にやる奴なんだからな!
「すぐ行くよユニリース、ティル、チェッタ、メオ……皆、必ず助けてあげるから!」
その意志の下、僕はとうとう桟橋へと降り立った。
周囲に海水の球を無数に浮かばせながら。
そんな僕に水流弾を撃てば、水球が受け、そのまま返して敵を貫く。
対水属性用リフレクションブリスターさ。
「奴に精霊機銃はもう効かん! 物理攻撃で奴を止めろォ!」
しかし敵もバカではないらしく、もう僕の特性に気付き始めた。
すると今度は銛や斧といった武器を持ち、次々と桟橋へ乗り上げてきたのだ。
確かに、近接武器なら僕にも届くかもしれないね。
だけどそう簡単に当てられると思うなよ!
桟橋だから進める場所は限られている。
だからこそ敵は地の利を生かし、四方八方から飛び掛かって来た――のだけど。
海から飛び込んで来た奴は、そのまま打ち上がった海水で串刺しに。
正面から走って来た奴の攻撃をひらりとかわし抜け、手刀で首を切断。
背後から忍び寄ってくる奴も近づかれる前に、遠くから風を圧縮させて造り出した『風の腕』で掴み潰してやった。
そして正面からやってくる奴らに残骸をぶつけ、その勢いを留めさせる。
さらに精霊機銃もぶっ放し、十数体まとめて貫通させて爆破炎上だ。
余りの威力に、弾が岩壁にまで到達して爆発してしまった。ちょっとやりすぎたか。
橋の上がお前達の土俵だと思ったら大間違いだ。
集まって来るって事は、僕にとっても絶好のカモなんだからね。
それでも襲って来るっていうなら、僕はもう一切容赦しない。
皆まとめてスクラップにしてやるぞッ!
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