第74話 陸戦型の僕、水中戦を挑む
『目標地点まで残り、二キロメートル』
「このまま一気に突き抜けるぞ! 強襲だあッ!!」
機動滑空翼のおかげで今、僕は空を飛んでいる。
しかもクジラさんの水泳速度も相まって、島までの到着は時間の問題だ。
しかしその間にも海上から多くのヴァルフェルが水流弾を撃ち放ってきている。
一発でもまともに当たれば撃墜はまぬがれないだろう。
けどね、それを避けられないような僕じゃないんだよ!
ゆえに今、僕は滑空翼を細かく操作する事で自由自在に飛んでいる。
時に脚部ブーストをふかして加速させたりで、翼の性能は想像以上だ。
そんな中でも僕が反撃をすれば、まもなく一機また一機と吹き飛んでいく。
今の僕の精霊機銃の威力は、掠っただけで全壊に至るほど高いらしいからね。
おかげで落とし放題、水の中じゃ抵抗があってそれほど素早く動けないようだ。
水上で戦えても、俊敏性が担保できないなら船の方がずっと有利じゃないか!
となると、あのヴァルフェルはそもそもが戦闘用ではないのかもしれない。
海中資源を得るための作業用機、あるいは水中における対海獣用か。
空を飛ぶ相手との戦いなんてまったく考慮していないのだろう。
だから今はずっと僕の
敵の中には攻撃を諦めて戻る奴等が出てくるくらいさ。
――ただ、それは正しい判断だったのかもしれない。
現に、島へと近づくにつれて対空攻撃が一層激しくなっていて。
『残り、三〇〇メートル』
「さすがにここまで来ると迂闊に近寄れないかッ!」
島には既に大量のヴァルフェルが防衛網を敷いており、無数の水流弾が空を飛び交い始めていた。
しかも伊達に機械ではないようで狙いも完璧。
僕が付け入る隙をまったく与えてくれない。
そこで仕方なく島周囲をぐるりと迂回しながら滑空。
とはいえさすが島まるごと船というだけあって、とても広くて回りきれそうにない。
おまけに回ってみても見えるのは岩壁と乱立する桟橋ばかりで、殺風景にもほどがあるぞ!
『推定滑空可能時間、残り二分』
「くっ、こうなったら強引にでも乗り込むしかないか!」
ただ僕にはもう猶予が残されていない。
高度を維持する事ができず、海面へ徐々に降り始めていたのだ。
そこで僕は思い切って近くの桟橋へと向けて飛ぶ。
相変わらず激しい水流弾の嵐を掻い潜りながら。
――だったのだが。
突如、僕の進路海上にヴァルフェルが一機浮上する。
しかも寸後には水流弾を撃ち放っていて。
その水流弾が容赦なく僕の右翼を引き裂く。
それも一瞬で、僕の方から飛び込むような形で。
「くっそぉぉぉッ!!!?」
桟橋まではまだ一〇〇メートル近くある!
これでは僕がブーストをふかしてもまだ届きそうにない!
だけど、まだだッ!
僕はまだちっとも諦めちゃいないぞッ!!
そこで僕は即座に翼を棄て、勢いのままに海へと飛び降りる。
ただし、今僕に当てたヴァルフェルへと向けて。
そして足蹴にし、飛び跳ねる。
足場にした奴の頭を踏み潰すほど力の限りに。
さらには別の奴へと即座にワイヤーフックを撃ち出し、捉えては引いて僕自身を引き寄せさせた。
「これなら――ッ!?」
だがその途端、宙を舞う僕の身体がガクンと海へ引かれる。
今捉えたヴァルフェルがワイヤーを掴みながら潜航し始めていたのだ。
こいつら、やっぱり海での戦い方をよく知っているッ!?
僕ら陸戦型ヴァルフェルでは、例え全身が動けるとしても水中航行はできない。
いくらもがいても、自身の重量で海に沈むしか道が無いから。
奴等はそれをよく知っているから「敢えて自分ごと沈む」という戦術が取れるんだ。
ゆえに今、僕は海中へと引きずり込まれていた。
ただ僕もやられるがままではない。
ワイヤーフックを引き込み続け、敵ヴァルフェルへと取り付いていて。
「てめぇ、もういい加減海の藻屑になりやがれやぁ!」
「そうなるのはお前達だ! 僕はもう止まるつもりなんてないぞッ!」
相手も僕を引き離そうと腕を回すが、動きはてんで鈍い。
だから先に奴の肘を掴み取り、腕一本まるごと強引に引き千切ってやった。
「ぎぃやあああ!!? なんなんだこいつの出力はあッ!?」
「馬鹿な!? こっちは深海探査もできる耐高圧機構の〝アルタロン〟だぞ!? 」
相手の性能なんて知った事か!
僕ができる事をすれば、こんなのは朝飯前だッ!
そこで僕は今の相手をも足蹴にし、もう一人いた相手へと飛び掛かる。
「――だがしかぁし! 貴様が泳げない事は既にわかっているッ!」
「なにッ!」
でもその時、相手は既に僕から離れていた。
水中機動力においては相手の方が明らかに速いのだから。
「そのまま沈んでしまえ、屑鉄がァ!」
「くっそォォォ!!!」
もう今の僕に足場は無い。
敵は皆離れて行ってしまったから。
だとすればまた、海へと逆戻り――
そんなのは絶対に嫌だ!
ユニリースにもティル君達にもまだ会えていないじゃないか!
彼女達にまた会って! 助け出すまでは! 僕はまだ! 止まれない!
僕はまだ、何一つ、諦めるつもりなんてないのだから!!!!!
きっと奴等は「アイツはもうおしまいだ」などと思っているのだろう。
だけど僕はこの時、誰しもが度肝を抜く事をやってのけたのだ。
自ら浮上し、水上に立つ、という奇跡を。
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