第73話 乗り込めギーングルツ!

「実はなワイ、昔彼女がおったねん」

「ほーん、で?」

「その彼女、ピンククジラちゃんいうたんやけどな、ある日別の海でデートしてたらな、いきなりギーングルツの奴等に捕鯨されてしもたんや」

「コントやないやん……いきなり重いんですけど」


 クジラさんの協力を経て、僕は身体の自由を取り戻した。

 ついでに置いてあった武装を取り戻し、今は洋上を突き進んでいる。

 クジラさんの背中に乗って、超高速で。


 もちろん行先は海艦都市ギーングルツ。

 こうなったら徹底的にやってやるつもりだ。

 あんな理不尽な島、もうどうなってもかまいやしないさ。

 ユニリースやティル君達を無事に救い出せるならね。


 幸い、今の残存エネルギーはなぜか最大値。

 容量を越えて充電したつもりはなかったのに、ラーゼルトから補給無しでも何故か減っていないのだ。

 だからといって故障している訳でも無かったし、不思議でも今は幸運と思うしかない。


 どうせマイナスじゃないのなら、このエネルギーを存分に奮ってやるさ!


「せやからワイもあのギーングルツに奴等に一泡吹かせたいと思うててな」

「おお、奇遇やん。僕もやでー」

「そう思いつつ五〇年くらい別の子とイチャイチャしとったんよ」

「決断力かえってこーい!」

「あ、あ、でもあかんで、ピンククジラちゃんの事思い出したらこう、きたで」

「お、戦意取り戻したんか!?」

「ムラムラしてきてもうたわ」

「ムカムカやないんかい!」

「単なるフィッシュジョークや。堪忍してや」

「フィッシュジョーク!? 自分、魚やないて言うたばかりやん……」


 ――あれっ、残存エネルギーがいきなり六〇%まで下がった!?

 なんなんだこの計器、やっぱり故障しているのか!?

 と思ったらちょっとづつ増え始めてるし、もうなんだかよくわからない。

 おかしいな、減るのならわかるけどなんで増えるんだろう。


 いや、もう気になんてしてはいられない。

 なんたって、すでにギーングルツが見え始めているのだから。


「それとレコやん、悪いんやけどワイ痛いの嫌いやねん。せやから多分近づくにも限度があるさかい、許したってや」

「大丈夫です。僕にも奥の手があるので、ギリギリまで近づいて、後は打ち上げてくれればそれで充分ですから」

「わかったわ。ほんならギーングルツの奴等に、ピンククジラちゃんの分の一発よろしく頼むで」

「ええ、任せてください!」


 そこでさすがの僕も真面目モードに戻る。

 おかげで気迫も充分だし、エネルギーもまた最大に戻った。

 これなら戦うにはなんの問題も無いだろう。


 そうして身構えていれば、遂にまたあの島の全容がハッキリとしてきた。

 相変わらず岩肌だらけで、とてもじゃないが楽園なんかにはもう見えない。

 むしろ子ども達を誘い込んで閉じ込めているのなら監獄も一緒じゃないか!


 だったら僕が皆まとめて脱獄させてやる!


「きたできたで、機械人形がわらわらと」

「ならここで打ち上げてもらえますか!?」

「よしきた。背中の鼻孔に乗ってや」

「了解!」


 そこで僕はクジラさんに従い、潮を吹くための鼻孔の上へと待機する。

 すると途端に穴が開き、激しい潮水と共に僕の身体が空高く打ち上げられた。


 なんてすさまじい圧力なんだ。

 ヴァルフェルである僕を島よりも高く飛ばしてくれるなんて。


 でもおかげで、僕のシステムは島まで充分到達可能と試算した!


 そこで僕は背中に装備されたオプションパーツを展開する。

 ラーゼルトでの改修時におまけで取り付けてもらった特注品を。


 その名も、機動滑空翼〝ドラグーンウイングWV-LGIII〟。

 高高度からの滑空飛行を可能とさせるヴァルフェル専用新型兵装である。

 レクサルさん達が使っていた飛行装備の次期発展型を都合してもらったのだ。

 

 おかげで少し重めな僕だろうと島まで運べるほどに仕上がっている。

 ただし何の邪魔も入らなければ、だけども。


 ……案の定、僕をタダで通してはくれないらしい。

 さっそく海中から何機ものヴァルフェルが姿を現し始めたぞ。

 クジラさんの泳ぎが激しかったから、すぐ気付いて部隊展開していたのだろうね。


 けどそんな事はもう関係は無い。

 僕にはもう片っ端から敵を撃ち落とす準備が出来ているのだから!


 それゆえに今、僕は狼煙の一発を撃ち放つ。

 するとたちまち敵一体の破片と共に空高く水しぶきが舞う事に。


 なんかファイアバレットの威力もすさまじく上がっているな。

 反属性である海に撃ってここまで威力が出るとは思わなかった。

 ラーゼルト製の精霊機銃ってこんなに威力高かったっけか。

 ――まぁいいや、一発は一発なんだし。


 そう悩んでいると、僕の傍を一筋の何かが下から突き抜ける。

 そこで僕は翼を傾け、軌道を変えた。


 すると途端、何本もの筋がまたしても突き抜ける事に。

 危なかった、少し遅れていたら貫かれていたかもしれない。


 そんな筋が僕の目の前であっという間に霧散し消えていく。

 となれば今のはきっと――水流弾だろう。


 そう、奴等は水属性の精霊機銃を撃ってきたのだ。

 つまる話が水鉄砲ウォーターバレット、それもヴァルフェルをも貫ける威力を誇るものを。

 洋上にいる以上、それがもっとも効率的で弾切れの心配もないだろうからね。


 弾速はファイアバレット以下で、威力も範囲もそこまでではない。

 けれど数も多いし弾も無限なら脅威である事には変わりないだろう。


 だからもう油断する訳にはいかないな。

 それに多くの相手を潰してから上陸するのが得策なら、やるしかないでしょ!


 ゆえに今、僕は二発三発とファイアバレットを撃ち放った。

 島まではまだ遠いからね、徹底的にやってやるさ!

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