第106話 レコ 対 千の軍勢
「レコ、あわてたらダメだよ」
「わかっているよ。大丈夫、僕はもう動揺したりはしないから」
今、僕はエントランスホールを縦横無尽に飛び回りながら、流入してくる無魂ヴァルフェル達を順次破壊している。
いくら量が多いとはいえ入口が少なくて、入って来れる数には限りがあるからね。
おまけに先ほどよりも動きが緩慢で、物量に任せてただ攻撃してくるだけだから反撃も容易だ。
ヴォークリューターとエアレールで攻撃を防ぎつつ、拡散砲で順次三か所の入口を撃ち続けて対処している。
それでもなお敵からの攻撃が収まる事は無いけれど。
おかげで僕にも攻撃が当たってしまって少し痛い。
とはいえ大抵が物理弾だから、強固な装甲のおかげで傷が付いたりへこんだりするだけで大事に至っていないのが幸いか。
でもユニリースが露出している以上、防御から気を抜く事は許されない。
僕自身もダメージが蓄積してしまうと危ういから油断は禁物だ。
なので効率を求めようとしたら、気付けば僕はホール中央にて立ちっぱなしで応戦していた。
危ないけど、これが一番効率いいって気付いてしまったからね。
僕はどうやらそう結論をすぐ導き出せるほどに冷静となれていたらしい。
先ほどの話の間に落ち着く時間を得られたからだろうか。
それとも話を聞いて心が昂っているからだろうか。
だからこの時、僕はふと別の事にも気付いてしまったのだ。
この無魂ヴァルフェル達がどうしてこんなにも大量に、しかも機体状態に関係無く僕を狙う事ができていたのかって。
そのからくりに気付いてしまったらもう、事を起こすまでは早かった。
そこで僕は防御をエアレールに任せ、ヴォークリューターを攻撃へと回す。
そうして三か所の出入り口へ回転刃として飛ばし、並んでいたヴァルフェルを通路ごと切り裂き抜けたのだ。
こうする事で残骸で道が塞がれ、通路も歪んで流入量が収まると思ったからね。
それで子機達を呼び戻し、再び防御へと戻せば仕込みは完了。
本当ならヴァルフェルを倉庫まで引き裂き続けられればいいんだけど。
ヴォークリューターはセンサー式遠隔操作なので見えない所までは扱えないし、離れると僕の魔法能力を付与できなくなってしまうんだ。
そう、見えない所だとね。
それで再び防戦一方になりつつあったのだけど。
「どうしたのかしらぁ? 先ほどの威勢が台無しよぉ?」
「そうですね、これが続けば僕達の負けは確実だ」
「あら、潔いのねぇ? だったらこのまま潰れてしまいなさいっ!」
それで遂には再びホールの中へとヴァルフェル達が入って来る事に。
入れば入るほどその攻撃精度が高まり、激しさをも一層に増していく。
言われた通り、これが続いたらさすがの僕でももう持たないだろう。
けどね、それは僕の想定した通りなんだよ……ッ!
「――ウッ!? あの円盤の数が、七つしかないッ!?」
「今さら気付いても、もう遅いですよッ!!」
「なッ――」
ゆえに今、レティネさんの背後の壁が引き裂かれ、魔力の刃が突き出した。
外に回り込んでいた一機のヴォークリューターによる奇襲だ。
どさくさに紛れ、さっき開いた穴から送り出していたのさ。
その刃が彼女の頭部を微かに掠る。
頭にかぶっていた妙なサークレットだけを切るようにして。
「し、しまったッ!?」
その目論見が見事成功し、そのサークレットだけを吹き飛ばす事に成功。
さらには別のヴォークリューターがそれそのものを消滅させた。
するとたちまち周囲の無魂ヴァルフェル達が動きを止める事に。
どうやら僕の読みは正しかったようだ。
レティネさんは決してオーディエンス役というだけでいた訳じゃなかったんだ。
頭にかぶっていた送信機でヴァルフェル達に指令を与えていたのさ。
僕が龍翔峰で無魂ヴァルフェルを操作したのと同じようにね。
それでもレティネさん自身を攻撃しなかったのは僕の情けだ。
彼女が武器を持っていなかったからこそ、皇国騎士としての誇りに殉じて。
まだ抵抗するなら容赦するつもりはないけれど。
「くっ、まさか見抜かれていたとはね……!」
「僕だったからまだ良かったと思いますよ。アールデューさんだったら迷いなく開幕で貴女を撃ち殺すでしょうから」
「ウフフッ、でしょうね。彼は私なんて
だけどそのレティネさんもとうとう尻餅をついてへたり込む。
自分にできる事を失って戦意喪失したのだろう。
そしてそれはツィグ皇帝も同様にして。
『そうか、これで仕舞いか。鳴り物入りの戦力だったのだが、随分とあっけなかったものだ。しかし仕方あるまい、それも時代が君やアールデュー達を選んだからなのだろうな』
「ツィグ!? 貴方なにをいって!?」
この人は本当にこの戦いの勝敗自体にも執着が無いらしい。
だからかこうしてすぐに負けを認めるように応えてくれていた。
一方のレティネさんはなんだか不服そうだけど。
『おめでとうレコ=ミルーイ君。君達がこの戦いの勝者だ。なら後は君達が好きにすればいい。私を人でなしと罵倒するのもよし。皇族を皆殺しにして城を更地に変えるのもまたよかろう』
「そんな事はしませんよ」
『ほう、ではどうする気かね?』
「いいえ、そうじゃないんです。僕達がそんな事をするんじゃなく、この国の行く末は皇帝である貴方が決めるべきだと僕は思うんです」
なので僕もこう正直に答える事にしたんだ。
僕もデュラレンツの一員として皇国を良くしたいとは思っているけれど。
だけどそれ以上に、僕はこの人にその役目を任せたいって思ってしまった。
確かにこの人は実行犯として皇国や僕達の事をおとしめたかもしれない。
でもそれは皇族の命令に従ってやっただけで、本人の意思じゃない。
それどころかこの人はそんな命令や悲願に対して嫌気を差しているんだ。
ただそんな嫌気よりも、使命に従う事を優先しているだけで。
『……つまり何が言いたいのかね?』
「僕は、貴方が言うほど皇族の操り人形じゃあないと思います。だってちゃんと意思があって、何かを嫌だって思う気持ちだってあるじゃないですか!」
『それで?』
「だったら皇族の命令に逆らう事だって――」
『くだらんな。それは私にとって詭弁に過ぎんよ』
「そんな!」
『だから言っただろう? 私はもはや自分の意思にさえ執着が無いと』
その心はまるで永久凍土の氷山のように閉ざされているかのよう。
僕の言葉だけでは溶かせるかどうかもわからない。
けどね、やってみる価値はあると思う。
ただ倒して終わりなんて、そんなのは結局皇族達がやろうとしている事と同じだから。
それなら僕はこのツィグという人の可能性を見出したい。
自分自身を人でなしと言うこの人の常識を打ち崩す事によって。
そんな欲が今、僕の中で轟々と強く駆け巡っていたんだ。
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