第67話 オイラも一緒に連れてって
「いい場所だからもったいないけど、仕方がないか」
「あたしはレコといっしょがいいの!」
「それは僕も同じさ。ありがとうねユニリース」
「うんっ!」
ラウザさんの好意に甘え、僕達は子どもの国で一夜を送る事となった。
とはいえ何だかユニリースが気に食わないらしく、今は入口前だけど。
それでも子ども達が歓迎として作ってくれた料理はおいしそうに食べていたし、まんざらではないと思うんだけどなぁ。
どうしてそこまで子どもの国を否定するんだか。
でも聞いても「なんかやだ」の一点張りで理由は教えてくれない。
どうやら明確な理由は本人にもわからないらしい。
まぁそれならここ以外の理想郷をまた探せばいい訳だし、僕はその意志を尊重するまでだけどね。
そう意見を交わし、答えが出た所でとうとうユニリースも就寝へ。
たちまち静かな深夜が訪れ、僕は静かに集落の入口前で鎮座していた。
するとそんな時の事。
「なぁレコ、起きてるか?」
「おや……ティル君じゃないか」
突然声がして振り向いていれば、いつの間にかティル君が近くにいた。
この場所だとどうにもセンサーが働かなくて、気配を察知できなかったみたい。
「こんな深夜にどうしたんだい? もうみんな寝ている時間でしょ?」
「うん、そうだけど。でも、どうしてもお前と話がしたくてさ」
「僕と?」
ただティル君はなんか僕に用があったらしい。
だからかな、昼間には一緒にいたチェッタちゃんとメオ君がいないんだ。
きっと二人抜きで相談したい事でもあるのだろう。
「お前達さ、旅を続けるんだろ?」
「そうだけど、もしかしてラウザさんとの話を聞いてた?」
「ああ、こっそりな」
そんなティル君はなんだかとてもしんみりしている。
昼間はなんだか強気な子って感じだったんだけども。
どさくさに紛れてパンツを懐へ隠した子とは思えないほどの大人しさだ。
僕はしっかり見ていたからね、なかなかに衝撃的だったよ。
「それでなんだけどよ……も、もしよかったらオイラも連れてってくんねーか?」
「え……ええっ!?」
でもそんな子がいきなり僕にとんでもない相談を持ち掛けてきた!
もしかしてティル君、あのパンツのせいでユニリースに恋しちゃった!?
それとも別の理由でユニリースと一緒にいたいとかそうだったりする!?
それにユニちゃんまだ一〇歳にも満たないから早いと思うんですけどォ!!?
ダダダメですよティル君、僕はまだそんな不純な動機なんて許しませぇん!
「実はさオイラ、今年でもう一五歳なんだ」
「あ……」
「だからもうすぐこの国を出なきゃなんねぇ。でもオイラ、首長様に認められるような出来た奴じゃねーし、一人でやって行けるか不安でさ」
――けどどうやらそれは僕の早とちりだったらしい。
ティル君はいたって真面目な理由で僕に相談していたんだ。
彼もまたこの国のルールによって追放される寸前の身だったから。
当然だよね、まだ外の世界を知らないもの。
身体が大人になったのだとしても、知らない所に放りだされるのは誰だって不安にもなるさ。
「それで、その、お前達と一緒ならなんか楽しそうだからさ。それに……」
「それに?」
「お前達が目指している所ってさ、〝幸せの園〟なんだろ? だったらオイラもそこにどうか連れてって欲しいんだ!」
「えっ……」
ただそんな不安があっても、希望もあったからこそ相談しようと思えたのだろう。
僕達がその希望の道しるべとなるかもしれないと思ったから。
幸せの園。
そこは色んな国でおとぎ話として伝わった場所の事だ。
そこでは何もしなくとも年中作物が育ち、働かずに遊んで暮らせるという。
誰しもが想い描き、願ってやまなかった理想郷の一つである。
けど本当はそんな場所なんて存在しないんだ。
あのメルーシャルワだって、実際は毎日作物の手入れをしないといけないし。
それに、人は生きる限り働かなくてはならない。
これは星が人という生命に課した、存続するために必須とした行為なのだから。
もしその真理からも逸脱した場所があるのだとしたら……それはきっと、この世には存在しないのだろう。
死後の世界、天国という形でしか。
「なぁ頼むよ! オイラ、幸せの園に行きたいんだ!」
「気持ちはわかるけど、それは――」
「わかったよティル、君がそう願うならボクが道を示そう」
「「っ!?」」
そんな押し問答をしていた時だった。
途端、僕達の背後から落ち着いた声が上がる。
それで気付いた僕達が咄嗟に振り向けば、なんとあのラウザさんの姿が。
「……ずっと昔、ボクは旅をしていた事があってね。実はその時、偶然にも見つけてしまったんだ」
「え、何を……?」
「まことしやかに噂されていた理想郷、幸せの園をさ」
「「ええっ!?」」
しかも歩み寄って来たと思えば、唐突にとんでもない事を教えてくれた。
おとぎ話でしかなかった幸せの園が実在するなどという突拍子もない事実を。
これには僕も、ティル君でさえ言葉を失ってしまった。
どうやらティル君もこの事実は聞かされていなかったようだ。
「この場所に子どもの国を作ったのも、幸せの園がこの近くに存在するからなのさ」
「この近くにだって……!?」
「そう。でね、成人した者は知られないようにこっそりとその場所へ案内していたってワケ。子ども達に知られると怠けるようになってしまうからね」
「じゃあ大人になった皆は……」
「うん、幸せの園でみんな一緒に暮らしているよ。今でものんびりとね。まぁもちろん身の回りの事だけはちゃんとやらないといけないから、大人にならないと連れて行きにくいんだ」
「そ、そうだったんだ!」
そう、この国を追放された者達はなにもそのまま放置って訳じゃなかったんだ。
ちゃんと受け入れ先があって、幼少期に培った教養を生かして今も暮らしている。
そう聞かされただけでもうスッと肩の荷が下りたような気がした。
ティル君のような悩みを持った子が出続けるのはなんだか嫌だったからね。
ラウザさんはそういう子達も含めてしっかりとサポートしていたんだな。すごいや。
「ティルにもこの時が来たのは少し寂しいけれど、君ならきっとあっちでも上手くやれるだろう。だから心配はしていないよ」
「あ、ありがとうございます、首長様!」
「良かったらレコさんもユニリースさんと共に寄ってみてはどうだい? 気に入らなければ出て行けばいいだけだしね」
「そうですね……行くだけ行ってみてもいいかもしれません」
「うん。君達の旅路が幸せへと行きつく事をボクも願っているよ」
そこで僕は思い切ってラウザさんの進言に乗ってみる事にした。
ユニリースは寝ているから事情は後で説明するとして、ひとまずはと。
その幸せの園なら大人もいるから、僕だって暮らせるだろうしね。
そんな話を交わし、僕達は再び別れた。
明日の旅立ちに向けて万全を期するためにと。
そしてとうとう長い夜を越え、待望の朝がやってきたんだ。
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