第九章 幸せの園

第68話 プチサバイバル in 桟橋

「よし、準備万端! 行こうぜレコ!」

「はは、ティル君も調子が戻ったみたいでよかったよ」


 大人達の楽園、幸せの園。

 ただのおとぎ話だと思っていた場所――その在処を聞いた僕達は、さっそく子どもの国を出発する事になった。

 もちろんあのティル君も同伴した上で。


「幸せの園、たのしみー!」

「ねぇチェッタちゃん、やっぱりぼく達は残った方がいいんじゃ……」


 ちなみに、なんとあのチェッタちゃんとメオ君もセットである。


 というのも、実は二人とも僕達の話をこっそり聞いていたみたい。

 それで今朝になってティル君に詰め寄り、さらにはラウダさんまで押し切って付いてくる事になっちゃいました。

 意外とチェッタちゃんにも強気な所があってびっくりです。


 まぁ三人は血縁が無くとも兄妹のごとく常々一緒だったみたいだからね。

 一人だけ別れるのは寂しいだろうし、とラウダさんも渋々了承してくれたんだ。

 それに変に叫ばれて他の子に知られるのもまずいし。


「二人とも本当にいいの?」

「うん、だって私達いつも一緒って約束したもん」

「チェッタちゃんがいくって言うならぼ、ぼくもいきます」


 メオ君だけはちょっと気乗りしないみたいだけど。

 それでも直後ティル君にお尻をはたかれて、おかげで迷いもしっかりと断ち切れたみたいだ。

 いつも通りの三人が戻ったようでとても嬉しそう。


 で、今ようやく林を抜けて元の浜辺へと到着。

 海と砂浜が朝日を反射してとても眩しいや。


 なおラウダさんの話だと、目的地はさらに東へ行った先にあるという桟橋。

 ここから歩いて半日くらいの所にあるようで、そこから定期便が出ているそうだ。

 ただ、その定期便が来るのは今から二日後とのこと。

 なのでそれまでにささっと到着しておいて、現地で時間を潰す予定である。


 そんな訳で始まった些細な冒険はなかなかにエキサイティングだった。


 せっかくだからと、僕はティル達も抱え上げて移動する事にしたのだけど。

 でも抱えられた三人はとても楽しそうで、初めての景観に感嘆の声を上げていて。

 ユニリースは最初ちょっと迷惑そうにムスッとしていたけど、すぐに三人と一緒に海を眺めていた。

 そうしたら海鳥がすぐ傍まで飛んできて、それをみんなして捕まえようとするものだから落とさないようにと苦労させられたなぁ。


 けど、それがなんだかユニリースが一気に四体となったような感じで、僕にとってはなによりも嬉しかったんだ。

 陽光を受けて眩しく輝く彼女達の笑顔が、なによりも素敵に見えたから。


「見えたーさんばしー!」

「でっけぇー!」


 それから一時間ほど走った所で、景色の先に沖へと伸びた大きな橋が見え始めた。

 あれがおそらくラウザさんの言っていた定期便の来る桟橋なのだろう。


 さらに近づくと全容も明らかに。 

 桟橋は古いものの丈夫にできており、僕が乗ってもビクともしない。

 それとどうやら定期便を待つ為の小屋まであるようだ。

 だったら子ども達はあの小屋で雨風をしのげるから心配いらないね。


 そこで僕達はひとまず自由行動をとる事に。

 二日間はこの場所で時間を潰さないといけないからと。


 けど、ここで子どもの国出身である三人の経験が存分に活きる事となる。


 自由行動と決めたら三人の行動はとても早かった。

 手分けして薪をかき集め、あっという間にカマドを作ってしまったんだ。


 さらには長い木材を持って来たと思ったら即興で釣竿まで作ってしまった。

 それで僕に釣りを教え、今では桟橋の上で釣り糸を垂らさせられています。

 遅れてもう一本作ってくれたので、気付けば隣にユニリースもいました。


 で、二人してキョトンと砂浜を見れば、三人がなんか獣を担いでやってきてたし。

 しかも僕が置いておいた血抜き道具を使いこなしているとか。

 おまけにあっという間に解体しちゃった。

 待って、僕達まだ一匹も釣れてないんだけど?


 なんなのこの子達、サバイバビリティ高過ぎでしょ。

 なに、子どもの国って野営エリート育成機関だったの?

 正直カメラアイが飛び出しそうなくらいの驚きだったよ。危うく本当に。


 それで結局、魚は一匹も釣れず。

 ティル達が用意した食材だけで料理を造り上げ、四人でしっかりとペロリだ。

 ただし働かざる者食うべからず――ユニリースの分は少な目だったけれども。

 その後、彼女が地団駄を見せたのは言うまでもない。




 こんな感じで、僕達は桟橋付近にて二日間を過ごしたんだ。

 色々とあったけれど、とても楽しい時間を過ごせたよ。




 そして二日後、遂にその時がやってきた。


「みてレコ! あれ!」


 それは僕とユニリースが相変わらず釣り糸を垂らしていた時の事。

 ふと気配に気付いたユニリースが指を差して僕に報せてくれたのだ。


「あれは……きっと定期船だ!」


 そう、あれは水上を走る一隻のボート。

 おそらくは魔導技術を組み込んだ自力航行可能な船だと思う。


 そこで僕はさきほど初めて釣れた魚を海へと帰し、ティル君達を呼び込む。

 丁度三人が揃っていた所だったので集まるのはあっという間だった。

 しかもその時に船もが桟橋へと辿り着いていて。


「こんにちは皆さん。もしかしてこの定期便をお待ちの方々でしたか?」


 こんな声と共に一人の人物が船から桟橋へと飛び乗る。

 それも丁寧に、軽やかな足取りで。


 そうしてやってきたのはタキシードを着こんだ長身の男。

 まさしく楽園の使者と言わんばかりの人物が僕達の前に姿を現したのである。

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