第4話 最終決戦開幕

「各員、掃射開始ッ!」


 輸送機から降下した僕達は、地上へと降り立つ前に精霊機銃エレメンタルバレッタを撃ち放っていた。

 それも大地をも瞬時に焦がす程の火力を誇るファイアバレットを。

 貫通力、射程と火力に優れた炎属性の弾丸だ。


 その熱量・物量ゆえに、大地へ幾つも赤い閃光が走る。

 一瞬にして獣魔達を貫き、焼き、吹き飛ばしながら。


 そうした中で着地を果たし、更に銃弾を周囲へとばら撒いた。

 順次降下してくる仲間達の安全確保の為にと。


「各員、状況しらせッ!」

「イジー・ワン降下成功!」

「レ、レコ・ワン降下成功!」

「ゴダナ・ワン、木に足を引っかけちまった! 腰部アクチュエーターに異常、機動性低下は否めない!」

「ではゴダナ・ワンは後方支援。今の銃弾を撃ちきり次第、特攻だ」

「ラージャ! 予備弾倉は背部コンテナごと持って行ってくれ」


 鋼鉄の身体となった今、減速具パラシュート無しでも高高度着地が可能だ。

 それでも失敗は付き物で、こういった事故はよく起こるって聞いたけれど。


 ただ、悠々と降下するよりはずっと安全で効率が良いみたい。

 敵には空を飛ぶ奴もいるから、撃ち落とされるよりはずっとマシらしい。


 それに、壊れた仲間は切り捨てればいいしね。

 生身と違って替えが利く分、憂慮なんて必要無いんだ。


「総員前進! 奴等の巣窟を切り拓くぞッ!」


 戦場に入った以上、一瞬の隙も許されない。

 そんな所で仲間に気を掛けている余裕なんてもう無いのだから。

 当然、隊長自身にもね。


 なのでゴダナさんを放置し、僕達一番機小隊は前進を始めた。

 それも銃弾を放ちつつ、ほぼ全速力に近い速度で。


 一番機小隊はいわば先陣、敵陣突破の矛先だ。

 なので後続に追い付かれないよう全速力で突き抜ける必要がある。


 皆もその事がわかっているのか、足並みがとても揃っている。

 あまりに速くて無駄が無いから、僕が置いて行かれてしまいそうになるくらいだ。

 なので右腕に備えたワイヤーフックを先の木へと打ち込み、強引に引っ張って本隊に何とか食らいつく。


「前方上空に航空戦力を確認!」

「第二班、サンダーバレットに切り替え! 一匹残らず叩き落としてやれ!」

「「「ラージャ!」」」


 しかも仲間達は戦い方も熟知しているからか、連携も実にスムーズ。

 隊長からの指示直後、黄色い閃光筋が幾つも空を貫いた。

 雷属性を帯びた誘導式高速弾である。


 それが空に羽ばたく鳥型獣魔を貫き、翼を裂いて撃ち落とす。

 その群れにまで誘電・炸裂させながら。


「二時の方向、重装型接近!」 

「第三班、フリーズバレット掃射! 敵の足を止めろッ!」


 炎や雷が効かない相手にも対策手段はある。

 この氷属性の弾丸ならば足止めも容易だ。


 なにせ相手を瞬時に氷漬けと出来る程の冷気を秘めているのだから。

 掃射すれば氷壁さえ生み、敵の進攻を阻む事もできる。


 そうなれば往年に騎士達を悩ませた重装型獣魔も一瞬で排除可能だ。


「すごい、これがヴァルフェルの銃撃能力なのか……!」


 いずれも訓練で見せられた物よりもずっと威力がすさまじい。

 きっとまた武器性能がバージョンアップしたからなんだろう。

 こうやって高魔力兵器を簡単に運用できるのもまたヴァルフェルの特徴だ。


 そのせいで気を抜けばトリガーを引くのを忘れてしまいそう。

 皆それくらい息ピッタリで確実に仕留めていたんだから。


「ううッ!? た、隊長おーーーッ!?」

「んん~?」


 けど、そんな僕だけが見えていた。

 隊長の背後から襲い掛からんとする、両腕を拡げた獣魔の姿が。


 本当に一瞬の事だった。

 それだけの速さで、隊長が背後を取られて襲われそうになっている。

 そんな様子を前に、僕はただ叫ぶ事しかできなかったんだ。


 ――だったのだけど。


 隊長は意にも介する事なく、その腕を振り上げる。

 風属性を帯びた硬質ブレードごと、振り返りもせずに。


 すると間も無く、頭上へ黒くて小さな塊が跳ね飛んで。

 続いて、動かなくなった黒い肉塊が足元に「ズシャリ」と転がった。


 一撃だ。

 隊長はたった一撃で、見る事も無く獣魔を仕留めてみせたんだ……!


「す、すごい……」 

「こんなのレーダーに頼れば余裕だ。もう自分を人間だと思うな。魔導機である事を自覚して受け入れろ。機能を生かさなけりゃただ硬いだけの人間と変わらねぇのよぉ」

「は、はいっ!」


 この身体になった以上、視覚情報はもはや状況確認用にしかならない。

 それ以外の索敵能力が機体に備わっているからこそ。

 隊長は自らの手でそう証明してくれたんだ。


 そこで僕も真似をし、感覚に身を委ねて銃弾を解き放つ。

 すると不思議とよく当たって、なんだか心がざわついた。

 これが無敵の戦士になるって事なんだな、ってわかった気がして。


「隊長、あれを見てくれ! 木が動いてやがる!」

「やっぱりいやがったな……! 総員、一〇時の方向に進め!」


 そんな時、隊員の一人が何かに気付いて声を上げる。

 すると隊長が空かさず反応し、進軍方向を大きく変えさせた。


 きっと何かを見つけたんだ。

 それも真っ先に倒すべき相手を。


 そう、僕達は何も闇雲に進んでいる訳じゃない。

 れっきとした目標があって、それを成す為に部隊を分けて進軍している。


 というのも、今まで出会った敵は所詮雑魚でしかないから。

 小獣型の〝ダオズ級〟、僕達と同等サイズの中型〝セリゴ級〟だけで。

 これがもし少数なら、ただのはぐれ獣魔でしかなく脅威とはならない。


 けど、今相対する群勢規模は百をゆうに越えている。

 これだけの規模となると、どこかに「母体」がいるはずなんだ。


「いたぞッ! 〝ベベル級〟だッ!」


 そしてその予測はどうやら大当たりだったらしい。

 前線で眷属を増やし続ける物量の要がやっぱりいたんだ。


 というのも、奴等の個体全てが増殖できる訳じゃない。

 最低でもこの大型クラス『ベベル級』でなければ増やせないみたいで。


 なので小・中型がを捕らえ、持ち帰る。

 人間、獣――そのあらゆる大型生命体を見境なく。

 そして大型が喰らい、その肉を素にして分身をのだ。


 つまり、今僕達が相手にしているのは元人間か元獣ってワケ。


 まぁ、当然ながら以前の記憶なんて残ってないみたいだけど。

 おかげで仕留めるのに何のためらいも必要無くて助かるかな。

 それに見た目もやる事も怖いしね。


「よし、奴は第一班で仕留める! 第二・第三班は周囲の敵を掃討しろ!」

「第二班、左翼展開!」

「右翼は俺達に任せろッ!」


 特にこのベベル級は今まで以上のおぞましさだ。

 獣魔という俗称が可愛く思えるほどに。


 その姿はまるで、動く山蟲。

 全長はおよそ九メートルほど、山の様に隆起させた円錐外殻を保有。

 更に十の節足を持ち、赤い宝石の様な目が周囲に散りばめられている。

 研究班の調べじゃ全周囲が見えているって話らしい。


 そんな相手が今、僕達を警戒して足を振り回している。

 恐らく、逃げ道を作ろうと必死なんだろう。


 だけど逃がす訳にはいかない。


 なにせベベル級は即時討伐対象となる大物。

 コイツを倒せば奴等の戦力を大きく削ぐ事ができるのだから。


 それに、コイツを倒す事がに繋がる場合もあるから。


「絶対に逃がすなよッ!! まずは機動力を奪えッ!!」


 ゆえに仲間の一人が指示よりも早く行動を移していた。

 払われた節足をブレードで叩き切っていたのだ。


 するとベベル級がたちまち姿勢をぐらつかせていて。


 その隙を狙い、別の仲間もが空かさずブレードを掲げながら飛び出す。

 本体を切り付けようとしたのだろう。


「待てッ! まだ早いッ!!」


 しかし隊長の制止の甲斐も無く、その仲間はボディを砕かれていた。

 ベベル級が今生み出したばかりの獣魔に貫かれた事によって。


 そう、油断は禁物なのだ。

 奴は好きな時にこうして伏兵を産む事が出来るのだから。


 だからまず、皆と息を合わせて奴の足を全て断つ。

 こうして産道のある底腹部を塞ぎ、攻撃手段を奪えばいいってね。

 訓練所でも習った常套手段さ。


 あとは硬い装甲でも貫ける硬質ブレードで目を貫き潰す。

 奴の神経がより多く通っている場所だから、よく効くんだって。


「ギィイィイィイィイィィィ!!!」

「黙れこの無限クソッタレ蟲野郎ッ!」


 後は剣を抜き、傷口に銃口を突っ込んで属性弾丸をブチ込みまくる。

 肉もが堅くて厚いから一発二発じゃダメみたいなので。


 けど、ここまでやったらベベル級ももうおしまい。

 とうとう悲鳴も上げなくなり、微動だにもしなくなった。

 後は墨汁の如き黒血を「ブジュッ、ビシャッ」と吹き出すばかりで。


「こちらアールデュー一番機小隊、ベベル級一体の討伐を完了。これより進軍を再開する!」


 ベベル級死亡を確認し、僕達は即座に再進攻を始めた。

 この戦いはまだ始まったばかりなのだから。


 そう、ベベル級はなにも一体だけとは限らない。

 他にもまだ何体か潜んでいる事だろう。


 それどころか、もしかしたらもっと大物が控えているかもしれない。




 その大物の名こそ――超大型獣魔【エイゼム級】。


 ベベル級さえ生みだすこいつを倒す事こそが人類の悲願。

 この星を蝕む獣魔を駆逐する為にも、絶対に成さねばならない事なんだ。


 そいつを探しだし、炙り出して倒す。

 その為に騎士達は命を賭して戦い続けてきたのだから。

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