第111話 超巨大獣魔を滅ぼすための秘策

「あんなものが地中に潜んでいたなんて信じられない……!」


 せっかく獣魔を倒せたと思っていたのに、そんな僕達の希望は見事に打ち砕かれた。

 さっきまで僕達が相手にしていたのは奴のほんの一部に過ぎなかったんだ。


 その本体が今、僕達の前に姿を晒した。

 空を突かんばかりに超巨大な一本の樹木のような存在として。


 その様相は相変わらずだけど、前よりもずっと禍々しい感じだ。

 それでいて幾つもの枝先が牙を見せた口として機能している。

 現に今も、全周囲へ向けて威嚇するように歯軋りしてみせていて。


 ただ今すぐ襲ってくる様子は無い。

 おそらくまだ周囲の状況を探っているのだろう。


『クッ、こうなったらもう一発撃てねぇのか!』

『撃つにはエネルギー充填に時間がかかる! それか、反対側にあるもう一門を使うしかない!』

「だめ、あいつにエイゼムバスターカノンはきかないとおもう」

『『なっ!?』』


 だけど僕達にもまた、すぐに攻めるための決定的要素が足りない。

 あのエイゼム級をも越える超巨大獣魔を倒すための手立てが。


『何故だ!? 先端とはいえ、奴の一部を消し飛ばす事はできたはず!』

「いちぶなら。だけど、いま見えているのが全部ともかぎらない」

『ううっ!?』

「かんがえてもみて。あれはどこをとおって移動してきたのかって」

「それは地中の中じゃ」

「そう。地ちゅうのなか。でもふつうの地ちゅうじゃない。あれがとおってきたのは、この星の中心、地殻のなかからとおもう」


 その理由をユニリースがしっかりと教えてくれた。

 想像を絶する事実と共に。


 地殻とは星を包む、いわば皮。

 その中にマントルとよばれる構成層が存在し、星の核を覆っているのだ。

 ただしそこはもはや岩だけの世界で、そんな中にはもはや生物など存在できはしない。


 だけどユニリースはこう言う。

 あの獣魔はそんな皮さえ突き破り、星の中心近くに潜んでいたのだと。


「獣魔がどうやっていきられたかわかる? それはたぶん、このエンベンタリアがはなっていた力をたべていきているとおもう」

「生命波動を?」

「ううん、命がはなつ熱エネルギー。ただのせいぶつ的どうさをおこなうための単純エネルギーだよ」


 その理由は、単純に生存のため。

 この星が放つ熱エネルギーを自身の活動エネルギーに変換していたのだという。

 栄養を取り、生命波動を高めて生きるこの星の生物とは根本的に造りが違うのだ。


「ならもしあれに根があったらどうする? 地殻にまでとどくねっこが」

『そ、それは……!?』

「そのばあい、エイゼムバスターカノンはとどかない。あれは極点的破壊エネルギーで、地殻までとうたつできる攻撃方法じゃないの」


 そんな相手が遂に動き出す。

 地表近くをうねっていた触手がまた溢れ出し、侵攻を開始したのだ。

 しかもよく見れば今度は小型~大型獣魔達までいるじゃないか!

 これじゃあ人々が襲われれば即座に獣魔にされてしまうぞ!?


 そこで僕はまだ話の途中でもかまわず飛び上がり、応戦を開始した。

 拡散砲の出力を下げ、より数を撃てるようにして。

 これで数の多い小型でも対処できる速射散弾になる。

 少しは時間を稼ぐ事ができるはずだ。


『ならどうすればいい!? どうしたら奴を倒せるんだッ!?』

『落ち着けアールデュー! 怒鳴った所で解決策は見出せんぞ!』

『だが……ッ!』


 ただ会話の状況は明らかによろしくない。

 周囲でも戦いが始まっているけれど、このままじゃ多勢に無勢だ。

 戦力数からして明らかに僕達の方が劣っているがゆえに。


「……しゅだんは、あるよ」

『『ッ!!?』』


 するとそんな時、ユニリースがこうぼそりと呟いた。

 確かにこう答えたのだ。ただし少し自信なさげだけど。


『教えてくれ君。我々が勝つ手段を』

「それは〝トルトリオン〟をつかうの」

「なんだって!?」


 でもその理由はすぐにわかったよ。

 その忌々しい名前は、彼女にとって最も口にしたくないものだろうから。


 あの最終決戦の時に投下された新兵器。

 獣魔だけを焼き殺せるというあのうたい文句を持つ兵器の事である。


 ただそれは確かアテリアを媒体として爆発させる爆弾だったはずだ。

 なのにユニリースが提案するなんて、どうして……?


「そ、それって君が――」

『……確かにあのシステムならば根まで消滅させる事が可能だろう。あれはいわば対獣魔用の猛毒に近い。生命波動を受け付けない生物だけを焼き尽くす兵器なのだからな』

『だがあれは不発だったぞ!?』

『いいや、あれは実際には完成していた。だが密かに部下へ命じて内部機構を外させたのだ。投下したのは所詮ダミーに過ぎんよ。実際に入っていた物までは知らんがな』

「えっ……!?」


 しかしここでまさかの事実が明らかとなる。

 これには僕だけじゃなく、ユニリースもがポカンとするほど驚いてしまっていて。


 つまりユニリースが生きていられたのは、ツィグさんのおかげって事!?

 例の科学者の上司はツィグさんだったって事なのか!?

 確かにさっきまでの話しぶりだと、この人は技術開発とかに関わっているようだったから不思議じゃないけれど……。


『だがその機構も開発データも奴の真下だ。 いや、今ごろはもう――』

「ううん、そのかいはつデータはあたしももっているよ」

『なにッ!? なぜ――いや、そんな事はどうでもいい! では再現できるのか!?』

「できる。レコを基軸にしてあつめた魔力を爆発的にほうしゅつすれば、疑似的なトルトリオン砲として射出することもできるとおもう」

『おお!?』


 ――いや、ツィグさんの言う通り今はそんな事を考えている余裕なんて無い。

 もしユニリースの言った事が正しいのなら、僕はそれに殉じて即時に動かなきゃ。


 だから僕は砲を撃ちつつ彼女達の会話に聴覚センサーを傾ける。

 時折襲い来る飛行型をも引きつけながら撃ち落としつつ。


「でもそのためには、ありったけの稼働かのうなヴァルフェルや魔導機、バスターカノンの魔力がひつようになる。かなりあつめないと、たぶん魔力たりない」

『よし、では残存兵力は奴等を排除しつつ停止したヴァルフェルを回収! 動ける機体を回収しつつ応戦せよ!』

『デュラレンツ、聞いたな!? 俺達も今すぐ行動開始だ!』


 この場にある魔動機をすべてエネルギーに回す、か。

 確かにその方法なら無魂ヴァルフェルやヴォークリューターと同じで、魔力を僕と共有させることもできるだろうね。


 ただそうすると、僕自身の魔力も大事になるのではないか?

 先ほどの防御行動で機構もろともだいぶ消耗してしまったけど大丈夫だろうか?


「レコ、それはたぶんへいき。ひつようなのは個々の魔力のたかさだから」

「そうか。わかった。少なくとも君を犠牲にする必要が無いなら何でもいいさ! なら僕らはできる限り獣魔達の足を止めよう!」


 でもどうやらその心配はないみたいだ。

 本気を出して戦ってもいいのなら、最も効率のいい行動を取ればいい。

 単機の僕がやるべきなのはエネルギー集めよりも敵の掃討だってね。


 だから僕は再び拡散砲を撃つ。

 さらには転がっていた精霊機銃をも拾い上げてはそれをも放って。


 確かに獣魔は怖いが、僕の性能も以前よりも遥かに高くなっているんだ。

 今さら雑魚くらいに後れを取る僕なんかじゃあないよ!

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