第110話 守れ人を、その想いを糧にして
「この破壊の光を防いでみせろよッ! 僕達の中に秘められし生命波動の力よ!」
エイゼムバスターカノンの光が迫りくる。
市民街をも巻き込まんと、視界一杯に広がりながら。
伸びていた触手をも消し飛ばしつつ、すさまじい速度で。
それに対し、僕達の張った超巨大な障壁膜が待ち構える。
光を引き裂くために凸状にし、かつ空中へと向かって坂を描くようにして。
こうする事で破壊エネルギーを受け流そうとしているのだ。
そして遂に光が僕達へと到達。
途端に全身へと衝撃が走り、轟音と振動が場をかき乱し始めた。
――だが耐えられているぞ!
ヴォークリューター達も懸命に回転し続け、魔力を張り続けている。
僕達への振動もすさまじいが、それでも耐えられない程じゃない。
ユニリースは直にその余波を受けているだろうけれど、それでも操縦幹を握ってしっかりと我慢できているんだ。
リアクターの出力も安定値をとっくに超過している。
加速器や各種センサーも悲鳴を上げている。
様々な警告音が響き、僕の視界も遂には真っ赤に染まっていた。
だけどこれは機械的な話で、僕達にはまだまだポテンシャルがあるはずだ!
だから異常すべてを僕が抑え付け、さらなる加速を促す。
全身に魔力を巡らせ、心を強く保たせ、諦めてなるものかと意地を張る。
そうして更なる魔力を解き放ち、押し付けくる外圧をしのぐのだ。
それでも徐々に身体が押されていく。
アンカーを打ち込んでもダメだ、床石ごとえぐれて押し出されてしまって。
それでも必死に踏み込み、力の限りに抗い続けた。
放出された破壊エネルギーは想定を越えて強烈。
たとえ光が届かなくとも、余波の突風と振動だけで市街地の建物が次々と削られ倒壊していく。
加えて、打ち上げられたエネルギーが空をも貫き、大量の瓦礫や砂塵が空へと舞いあげられていた。
しかしそんな事に気を掛けている余裕なんて僕達には無い。
突如として警告音が放たれ、ヴォークリューターの一機の反応が消えたのだ。
多大なエネルギーを浴び過ぎてとうとう限界を迎えてしまったのである。
おそらく、僕達との魔力と挟まれて圧壊した事によって。
そしてそれを契機に、次々とヴォークリューターの反応が消えていく。
余りに負担を掛け過ぎて連鎖的に潰れてしまったのだろう。
「耐えろ僕! なんとしてでもッ!」
「レ、レコぉ……! あ、あたし……!」
それでも障壁自体はまだ残っている。
僕自身がその形状を維持させ続けたから。
ただユニリースがもう限界に近い。
魔力はあっても、まだ小さい子だから体力の方が持たないのだ。
だから一機だけ残っていたヴォークリューターをコンテナの破損部へと貼り付かせ、防御壁へと変える。
それで僕だけで障壁を維持し続け、破壊の光に抗い続けた。
「レコ!?」
「大丈夫だユニリース! 僕だけでもやってみせるッ!! だから信じていてくれ!」
そうできる確証はない。
このエネルギーがいつまで続くかまではデータに無いから。
だけどね、僕の心は諦めないって今まで何度も繰り返してきたんだ。
そうして諦めない心があるから、僕の生命波動は多大な魔力を与えてくれた。
だったら、こんな意思のちっぽけ魔力波程度なんてえええーーーーーーッ!!!
「う あ ア あ あーーーーーーッッッ!!!!!」
その気迫だけが僕の頼りだった。
たとえ増幅器や加速器が臨界を迎えようとも。
僕が僕で在り続ける限り、この場から消え去る事は――無い。
よって今、僕はバスターカノンの輝きを真っ二つに引き裂いていた。
先の景色が見えてしまうほどパックリと。
もう破壊のエネルギーが収まり掛けていたのもあるのだろう。
それでもここまで見事に割れるとは思ってもみなかった。
ただおかげで、余波さえ切り裂く事ができたのだ。
街への被害を最小限に抑えた上で。
バックカメラをよく見れば、まだ逃げている人が見える。
今の衝撃でやっと逃げようと思った鈍い人がいたに違いない。
だけどこうして逃げられるって事は、やりきれたって事なんだろうね。
そう、僕達はなんとかやり遂げたのだ。
あの超破壊力を誇るエイゼムバスターカノンを見事防ぎきれたのである。
そして正面を見れば、何も無い吹きさらしが待っていた。
つまり超巨大獣魔も地表や城跡ごと消し飛んでしまったという事なのだろう。
質量的には以前戦ったエイゼム級より小さかったし、当然の結果か。
にしても相変わらずすごい威力だと改めて思うよ。
「ユニリース、無事かい?」
「うん。レコ、守ってくれてありがとう」
「ううん、君が平気ならそれでいいよ」
何はともあれ、これで脅威は去った。
すべて元通りとはいかないだろうけど、きっとすぐ元通りにできるはずさ。
だってツィグさんも改心してくれたしね、戦う理由がもう無いから。
『――コ、レコ! まだ生きているなら返事しろ!』
「あ、アールデューさん、僕達は平気です。そちらはどうです?」
『こちらは辛うじて外壁の外に退避できたから問題無い。何機かは喰われちまったがな』
『我々側も問題は無い。元々人員は戦場予定地から退避済みだったしな』
『ったく、ここまで準備がいいと獣魔が襲ってくる事まで想定していたみてぇじゃねぇかよ、オイ?』
『フハハハ、なら私を褒めてもいいのだぞアールデュー?』
『調子に乗るんじゃねぇ~!』
案の定、もうアールデューさんとの関係はもう問題無いようだ。
ディクオスさんの件でのしがらみはあるから、元通りとはいかないだろうけれど。
でも声質からして、ツィグさんももう平気なのだと思う。
前みたいな冷徹な雰囲気は無く、今はウィットに富んだ話し方だから。
自分を信じる事ができたから、きっとやりたいように話せているんだと思う。
これがきっと本当のツィグさんなんだろうね。
元々から人員への被害も抑えようとしていた辺りは、間違いなく信じていい。
もう未来のヴィジョンだって見えているようだし。
『で、これからどうするつもりなんだツィグ?』
『そうだな、まずは皇族をどうにかする。そして後は――』
だからもう心配する事なんて無いと思っていた。
二人の会話に割り込まないように笑うだけでいいんだって。
だけど運命は、まだ僕達を許してくれてはいない。
『異常振動を検知。
『『ううッ!!?』』
その瞬間、大地が再び揺れたのだ。
それもまた突き上げるようにして、「ドグン!」と一つ鼓動のごとく。
そんな振動とも衝撃とも言える異常震を検知した途端、僕達は信じられもしない状況を目の当たりにする事となる。
再び大地の先が隆起し、空へと向かってズルズルと伸びていく。
それも先ほどよりもずっと太く長く、それでいてよりずっと植物的に分かれながら。
それぞれの先端から大小様々な三又口をさらけ出して。
その一つは確かに千切れて跡形も無い。
だけどそんな部分なんて一部でしかないと思える程に巨大で圧倒的だったのだ。
今現れた存在はもう、エイゼム級などよりもずっと大きい存在だったのだから。
『ば、馬鹿な、あれは一体なんなのだ!?』
『あり得ねぇ……あの巨大さは今までの比じゃねぇぞおッ!!』
そう、その相手は間違い無くエイゼム級以上の存在。
僕達の想像を遥かに超えた超常的な相手だったのである。
それも、あのエイゼムバスターカノンでさえ倒しきれない程の……!
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