第十五章 真・獣魔大戦勃発

第109話 僕にできる事は

「あれは間違い無い、フェクターさんの村で見たあの正体不明の奴だ! なんでアイツが今になってここに……!?」


 突如として現れた巨大な黒い塊。

 その上空を旋回しながら眺めていた僕達はただ驚愕するばかりだった。

 見覚えのあるその姿があまりにもおぞましくて、恐怖するに足る存在だったから。


 もう間も無く夜になるというのに、その姿は景色に浮き上がるほど黒い。

 しかもいつだか見た獣魔と同じく、いびつで堅そうな表皮に覆われているのだ。

 まさしくエイゼム級とも言える強大さである。


 そんな存在が今、またしても変化を見せる事に。


 身体が地上から伸び、レティネ達を飲み込んだ先端がぐにゃりと曲がる。

 さらには歯軋りのごとく、三又の隙間から細かい刃歯をうねらせていた。


 他にも地上側にて別の変化が。

 巨大な身体と大地の隙間から無数の触手が伸びていたのだ。

 それも人どころかヴァルフェルさえ凌駕する太さのものがグネグネと。


 高々とそびえたつ長い身体に、地面から這う出す根。

 こう表現できるコイツはまるで樹木のようじゃないか!


 そんな触手が早速と爆発を起こし、怯む様子を見せている。

 どうやら地上のヴァルフェル達がもう応戦を始めたらしい。


『レコ、一体何があったッ!?』

「アールデューさん!? 僕にもよくわかりません! ツィグさん達と話し合っていた所で急にアイツが現れたんです! でもあれは間違い無く僕達の敵ですよ!」

『クソッ、ならやはり応戦するしかねぇか!』


 その攻撃もアールデューさんとの会話の直後には一層増す事に。

 ただその攻撃に意味があるかどうかはわからない。


 攻撃が効かない事は無いけど、なにせ勢いがすさまじいんだ。

 たとえファイアバレットで断ち切られても、そこからさらに伸びて地上部隊を攻撃しようとさえしている。

 おまけにその規模は全周囲的で、市民街にさえ向かおうとしているじゃないか。


 このままじゃコイツを倒すどころか、被害があっという間に広がって手に負えなくなってしまう!

 そうなればまた獣魔大戦が始まってしまうぞ!? しかもこの皇国を起点にして!


 それだけはなんとしてでも阻止しなければならない!


『レコ=ミルーイ君! 聞いているか!』

『んなッ!? この声はツィグか!?』

「ツィグさん!? 生きていたんですね!」

『ああ。私は最初から南門の壁内施設にいたのだよ。戦いを間近で見られるようにとな。それが功を奏したようだ』

『南門!? 俺達が入った所じゃねぇか!? テ、テメェ、そんなところにいやがったのかぁ!?』


 そう焦っていた時、ツィグさんが通信に割り込んで来た。

 きっとユニリースが急いでチャンネルを繋げてくれたのだろう。


 けどおかげで光明が見え始めたぞ!


「問答している暇はありませんよ! ツィグさん、あれは獣魔です! 僕が皇都へ帰ろうとした時に見て伝えようとした、僕達人類が認識していない真の生き残りです!」

『ちぃ、そうだったか! 私の過ちがここまで禍根を引くとは! ……聞いたか皇国兵の諸君! 直ちにあの巨体を撃滅せよ! 奴こそが我々の最後の敵であぁるッ!』

『レコ、これは一体どういう事なんだ!?』

「ツィグさんや皇国はもう敵じゃないって事ですよ! だから撃っていいのはあの獣魔だけです!」

『わ、わかった! シャーリヤッ!』

『了解! デュラレンツ、これより皇国機と協力してあのデカブツを叩け! 絶対にしくじるなあッ!』


 アールデューさんもツィグさんとの和解の事を理解してくれたらしい。

 だからか、直後には触手の進行が留まるくらいに炎が撃ち上がる事に。

 デュラレンツと皇国兵が力を合わせて獣魔を攻撃し始めたおかげで。


 ただ、戦況はそれでもよろしくない。

 戦力が今回の戦いに合わせて偏っていたから、市民街の方に伸びる触手を止められないでいる。

 このままじゃあ逃げ遅れた市民が喰われて獣魔にされてしまうぞ!?


 幸い、敵は触手だけで小型獣魔の姿は無い。

 大きくて撃ちやすい触手だけが相手なら僕一人でもなんとかなるかもしれない!


 そこで僕は市民街の方へと降下し、伸びる触手を拡散砲で撃ち抜いた。

 案の定、数は多くても大きいから絶対数が限られていて対処しやすい。

 相手には滞空攻撃も無いようで、僕なら無条件で抑える事ができそうだ。


 けど、このままじゃジリ貧でしかない。

 あの本体を倒さなきゃ、いつか僕らの方が消耗してしまう。


 奴を倒す手はあるのか!?

 さすがに今の僕でもアイツを倒せるくらいの武器は搭載されていないぞ!?

 メルエクス・ティアを上手く使えば何とかなるかもしれないけど、この巨体だと致命傷に至るか怪しいし、二発目だと僕もさすがにエネルギーが尽きてしまう。


 一体どうすれば――


『レコ君、こうなれば仕方あるまい! これより城壁に搭載したエイゼムバスターカノンを使用する!』

「なっ!? 正気ですか!? 市民がすぐ傍にいるんですよおッ!?」


 だがこの時、いきなりツィグさんがとんでもない事を言いだした。

 聴覚センサーを疑いかねない程に常軌を逸した提案だ。納得できる訳が無い!


 こんな所でエイゼムバスターカノンなんて撃てば、間違いなく市民街をも巻き込む事になる。

 そうなれば爆発に巻き込まれなくても、強大な魔力波を受けて人なんて簡単に死んでしまうんだぞ!?


『しかしもし放置すれば、次には彼等が獣魔となって我々を襲うだろう』

「そ、それは……」

『決断せねばならんのだ! その責は私が負う!』


 だけどツィグさんは本気だ。

 こう言った顔に先ほどまでの緩さは無く、わずかに悔しささえ滲ませている。

 きっとよほど悔しいんだろう、こうなったのには自分にも責任があると感じているから。


 ――だったら、僕がその責を少しでも軽くしてやるさ!


「なら僕が市民街を守ってみせますよ!」

『何をするつもりかはわからんが、そういうのなら君を信じてみよう! だが心してくれ、発射まで残り五分しかないぞ!』

「了解!」

『なら両軍のヴァルフェル部隊は後退だ! 応戦しつつ城門の外まで退避しろ!』


 そこで僕はヴォークリューターを射出し、魔力を展開させた。

 さらには急加速し、市民街の前へと向かう。


 しかしその市民街の手前にはまだ人が多くいた。

 巨大な獣魔の存在に気付き、それを見ようとやじ馬が集まっていたのだ。


「そこの人達、逃げないと死ぬぞーーーッ!!」

「「「っ!?」」」


 そんな中へと容赦なく勢いのままに降り立ち、大地を削りながら滑り行く。

 彼等への精いっぱいの警告の意味も籠め、脅すように叫びながら。

 するとたちまち蜘蛛の子を散らすように民衆が走り去っていった。


「レコ! あたしからも魔力をおくるよ!」

「頼むよユニリース。僕だけじゃあどうしようもないだろうからね」

『発射まであと三分!』


 そうして邪魔者を追い払った所で僕はすぐに両手を獣魔へ向けてかざし、身構えて魔力障壁を展開する。

 それと同時にヴォークリューターを広域へと散らして飛ばし、高速回転させた。


 その目的は、僕が展開する魔力障壁の拡大・増幅。

 この手段なら街全体は守れなくとも、バスターカノンの爆発範囲を逸らす事はできるかもしれないから。


 僕は一度バスターカノンを受け、その範囲や威力をデータとして蓄積している。

 そのデータによれば、今の僕ならそれだけの事はできると試算したのだ。

 ただしそのデータが曖昧だから確定ではないけどね。


 でも迷ってなんていられない。

 どのみち僕がやらなければ市民が巻き添えを食らってしまうから。

 無力な人々を守るのが騎士としての僕のやるべき事なんだ!


『発射まであと二分!』

「ヴォークリューター障壁同調システム展開、いいよ!」

「行くぞユニリースッ! 魔力増幅器エーテルリアクター、オーバードライブだあッ!!」


 ゆえに今、僕達は持てるすべてを展開した。

 僕とユニリースの生命波動、機体の増幅器、加速器を持て余す事なく使用して。

 そうして生まれた魔力が黄緑の膜となって前面に現れ、周囲へと広がっていく。


 さらにはヴォークリューター達が中継器となり、加速し、その範囲を広げていて。


『発射まであと一分! 急げよぉ!』

「間 に 合 えぇぇぇーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 しかもそのヴォークリューター達が障壁を引っ張り、凸型へと変形させていく。

 僕を中心に、前面に押し出すような形で、さらに障壁を拡大させながら。


 遠くなればなるほど魔力の拡散効率が落ちる。

 展開が遅くなって、それだけ濃度もが薄くなってしまって。

 もしそんな状態の所が一箇所でもあれば、すぐにほころび破れ、連鎖的にすべてが崩壊してしまうだろう。

 そうならない為にも、時間ギリギリまで入念に張り込まなければならないのだ。


『残り一〇秒、九、八――』

「レコ、全域魔力分布率確認完了!」

「よし、なら後は気張るぞぉぉぉ!!! はぁぁぁーーーーーーッッッ!!!!!」


 それも寸前で間に合った。

 おかげで今、僕達は自信をもって待ち構える事ができたのだ。


 遥か彼方に見えていた砲塔から、強い輝きが放たれるその瞬間を。




 そして今、遂に破壊な光塊が漆黒の魔物を穿つ。

 瞬時にして視界すべてを真白へと塗り替えてしまうほどの強烈の輝きを放つと共に。




 光が膨らみながら迫る。

 激しい振動をももたらすと共に。

 けどね、僕はもうこんな光なんてもう怖くは無いよ。


 なんたってコレを見るのは二回目だからね。

 メモリーにも残してあるなら、もう見慣れたようなものなんだからさ!

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