第112話 魔力確保作戦開始!

「あのボス獣魔は木みたいなやつだから、あの場からはきっと動けない。だったら今対処すべきなのは雑魚とあの触手だけでいいはず!」


 遂にあの超巨大獣魔が行動を開始する。

 けどそれに合わせ、僕達もまた奴を倒す手段を確立させるために動き出した。


 その中で僕は敵の侵攻を阻止すべく空から攻撃だ。

 相手の対空攻撃は飛行型による突撃だけだから対処は問題無い。


 あとはこの広い範囲をどうしのぎきるか。

 僕の動き次第で魔動機回収作戦の是非が決まるかもしれないから。


 実際、外縁側でもうすでにデュラレンツと皇国軍が機体回収を始めている。

 数に物を言わせ、ものすごい勢いで動き回っているのが見えるよ。

 しかも応戦もしてくれているから、ある程度は任せてもよさそう。


 触手も手下獣魔も、おそらく数が限られているはず。

 だとすれば重点的にその辺りを狙えばいずれ頭打ちがくると思う。


 だから僕は超巨大獣魔の周りを飛び回りつつ、散弾を放ちまくって雑魚を仕留め続けていた。


 ――だったのだが。


 突如、僕の動体センサーが危険を予知し、警告を放つ。

 それでふと従うままに首を動かせば、堪らず驚愕してしまう。


「ううおおッ!?」


 なんと超巨大獣魔の巨枝一本が僕に迫っていたのだ。

 それも柄をも伸ばし、まるでその先端で殴りつけるかのようにして。


 それをかろうじて高速機動で大きくかわして難を逃れる。

 だけど油断もできない状況に、もはや安堵の溜息を付く暇さえ無い。


 だからと撃ち返しても、やはりそこまで通用する訳もなく。

 あまりに大き過ぎて、枝部を千切る事さえも無理そうだ。

 少なくとも今の火力だけではどうしようもない。


 そこで再び雑魚の侵攻阻止に注視しようと思ったのだけど。


 途端、別の枝もが僕を狙って飛んできた。

 しかも合計で三本による連続攻撃だ!


「なっ!? コイツ、僕を狙っているかッ!?」


 こいつらは明らかに僕を認識している!

 おそらく、僕が一番厄介な相手だとわかっているのだろう。

 その証拠に、逃げる先をも狙うようにして襲い掛かってきている。

 それで離れようとも、追いかけてくるかのごとく更に枝を伸ばしてくるし!


 クッ、これだとまずいぞ!

 このままじゃ雑魚や触手の侵攻を止められないじゃないか!


 しかもよく見れば、さっき撃ち抜いた触手が再生しているだって!?


 これだと手下獣魔はいいけど触手は止まらない!

 キリがないじゃないか!

 

 こうなったら、この枝三本だけでもメルエクス・ティアで……!

 

「レコ! もうメルエクス・ティアはつかっちゃだめ!」 

「――えっ!?」

「トルトリオンにはあれのほうしゅつエネルギーもひつようなの!」

「くっ! じゃあどうすればこの猛攻を止められるんだ!?」


 しかしそれも封じられる事となってしまった。

 こうなると僕にできる事はもう無いぞ、新兵器も打ち止めだ。

 せめてヴォークリューターがあと一本か二本でもあれば違うのに……!


 こんな事なら補充用の追加兵装くらいは持ってきておくべきだった。

 もっとも、新兵器は本当の意味で打ち止めなのだが。


 仕方なく拡散砲で迫る巨枝を撃って動きを止めるなどで、ひとまず逃げる事に集中する。

 その隙を縫って地上に攻撃できる機会を伺いつつ。


 ただこうしている間にも、仲間に被害が出始めていた。

 回収部隊がとうとう襲われ、逆に機体数を減らしてしまっているという。

 これではミイラ取りがミイラになる未来しか見えないじゃないか!


 どうすればいい、どうすれば……!


 ――そう悩んでしまっていた事が失敗だった。

 ふと気付けば、僕の動きは止まってしまっていたんだ。


 しかもそこを狙い、巨枝が三本同時に突っ込んできていて。


「あ……!?」


 その物量はもはや僕の飛行速度では回避しきれない程に巨大。

 なにせ三本が重なった状態で真っ直ぐ突いてきたのだから。

 その隙間さえ無い徹底した攻撃を前に、僕はもう唖然とするしかなかったのだ。




 しかしその瞬間、空から裂光が降り注ぐ。

 その枝達をも包み、焼き切ってしまうほどの大火力をもって。




『まだ諦める時ではありません。貴方にはやるべき事があるのでしょう?』

「こ、この声は……!」


 そしてその光に気付いて空を見上げた時、はもうすぐそこにいた。


 夜闇をも払う白銀の鱗に黄金の角。

 羽ばたく度に魔力の輝きが渦巻く六翼。

 煌々と虹色の燐光をもたらす姿はもはや太陽の如し。


 ――その名は凱龍王ディアラムンド。

 僕と盟約を交わした彼女が今、皇国の地に突如として降臨したのである。


 しかも先ほどの光はおそらく噂に聞いた、凱龍王自慢のエクスターブレス。

 弱っているはずなのに獣魔の枝を三本も焼き切るという、なんて威力なんだ!

 よく見れば直下にいた獣魔達も焼き尽くされているし、とんでもないぞ!?


「レコ殿~! 加勢に参ったでありますよ~!」

「えッ!? ロ、ロロッカさぁん!?」


 さらには緊張感の欠片も無い声もが響いて来た。

 なんと凱龍王の頭にあのロロッカさんが乗っていて、元気に手を振っていたのだ。

 一体どういう組み合わせなのこれ!?


『彼女と心を通わせて共にいれば、喰らわずとも少しだけ力を取り戻せる事がわかりました。ですので今ほどの火力が発揮できたという訳です』

「そんな訳で自分達も戦うでありまぁす! レクサル団長達の機体ももうすぐここへ着くでありますよ~!」

「そうか、ラーゼルトの皆が来てくれたのか……!」


 ただ悠長にしているつもりも無いらしい。

 そう答えるや否や、凱龍王はすぐにも降下して超巨大獣魔へと蹴りつけていた。

 おまけにその鋭い足爪で身体の一部を握り潰していて。


『ギッギヤァァァァーーーーーー!!!!!』


 たちまち場に奴の悲鳴らしき激音が響き渡る。

 それほどまでに今の一撃が効いたに違いない。


『何を躊躇しているのです!? 貴方には貴方のやるべき事があるのでしょう!?』

「あ、そうだ! 地上の獣魔と触手をなんとかしないと!」

『この者は私がどうにかして引き受けます。ただしあまり猶予はありませんよ?』

「わ、わかりましたッ!!」


 それだけの力があるなら、今だけは任せられるかもしれない。

 ただし凱龍王本人の言う通りなら、それほどまでにあまり時間が残されていないのだろう。

 やはりアテリアを喰らっていなくて本調子じゃないから。


 だとすればブレスもそこまで撃てないかもしれない。

 いや、もしかしたらもうこれ以上は。


 そんな状態で任せてしまうのはとても心苦しい。

 だけど今の状況を覆す手段は他に無いから、それでも頼むしかないんだ。


 だから僕は即座に離脱し、地上を侵攻する獣魔軍団を再び蹴散らし始めた。

 これ以上被害を増やさず、必要な魔力量を確保するためにと。

 レクサルさん達が来てくれるなら、もしかしたらそれで届くかもしれないからね。


 そう信じて、最善を尽くすしか他にもう道は無いのだから。

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