第113話 超巨大獣魔の正体とは

『まさか、あの凱龍王が援護に来てくれるとは……!』

「凱龍王さんは僕の友達です! あ、でも眷属とか言っていたから家族、かな?」

『……もう君には驚きを通り越して呆れしかでんよ』


 僕達の窮地になんと凱龍王さんが助けに来てくれた。

 おそらく獣魔の気配を感じ取って即座に向かってきてくれたのだろう。

 ロロッカさんが剥き出しで頭に乗っているのは怖いけれど、これで百人力だ。


「ただ悠長にしている暇はありません! あの人はまだ全力が出せないんです!」

『了解だ! 現在外壁の外側にて多数の未起動ヴァルフェルを集積、魂の無い状態だが起動を開始させている』

「おそらくもうすぐラーゼルト部隊が来ると思われます! 彼等とも協力して戦線を維持しつつ魔力確保に努めてください!」


 そのおかげもあって機体回収班の作業が再び捗り始めている。

 代わりに僕が雑魚掃討で必死になっているけれども。


 そしてすぐ隣では巨獣大決戦が勃発中だ。

 凱龍王と巨大獣魔による超ド級サイズ同士の取っ組み合いが。


 サイズ的には確かに凱龍王の方が半分くらいと小さい。

 だけど力では劣っていないらしく、今もその両脚で枝を一本千切り取っていた。

 それと同時に雄叫びが場に響き、ドス黒い体液もが飛び散っていく。

 なんて迫力なんだ、この戦いは!


『ギュィオオオオーーーーーーッッッ!!!!!』

『この感触、まさか!? ……そうですか、貴方はなんという身体に成り果てて!』


 だが獣魔の方もまるで諦めるどころか怯む様子さえ無い。

 残る枝はあと四本――その内の二本が凱龍王の翼へと噛み付いたのだ。

 しかもその力はすさまじく、メキメキと音を立てながら遂にはもぎ取ってしまった。

 無造作に、強引に、無数の煌めく鱗をも弾き飛ばしながら。


 しかし凱龍王もまったく怯まない。

 残った四本の翼であおいではわずかに浮かび上がり、別の枝を手で掴み、もう一本をも噛み取って根元から強引に引き千切っていく。

 その力は尋常ではなく、あの強靭だった外殻がまるで樹皮のように割れ、弾け飛んで割れていた。


 それで千切り取った枝二本をさらには潰し、彼方へと放り捨てる。

 その力強さはまさに地上最強の龍に相応しいと言える程だったのだ。


『なんたる嘆かわしい姿か、〝晁樹王じょうじゅおうエントーラディッシヤ〟! よもや貴方が黒き獣に堕ちるなどとは!』

『ギギュゥ、ギキィィィーーー!!』


 ただその合間に凱龍王さんの叫びが慟哭として響く。

 凱龍王さんはきっとこの巨大獣魔がなんなのかを知っているのだ。


 そしてそれは、今の名を聞いたユニリースにもわかる事だったらしい。


「エントーラディッシヤはここからずっととおくにある〝森林大陸マルカナス〟のまもりがみとされていた星護六命神のひとりなの」

「マルカナス……そこってあの〝魔王の卵〟が落ちた所じゃないか!」

「うん。魔王の卵のしょうたいはわかんないけど、まちがいなく意思があって、この星をねらっていた。エントーラディッシヤはそのさいしょの標的にされたとおもう」

「じゃああの獣魔は元々、凱龍王さんと同じ星護六命神だったっていうのか!?」

「凱龍王がそう感じているならたぶんそう。そしてあれはきっと、この星にさいしょに根づいた獣魔なんだとおもう……!」

「そ、そんな、じゃあアイツは最後の獣魔じゃなく、原初の獣魔だった……!?」


 そんなユニリースが教えてくれた事実はとても信じられない話だった。

 凱龍王さんと肩を並べる存在である一体の現神がすでに獣魔に取り込まれていたのだと。


 しかもそれが最初の母体となり、更にはエイゼム級を生み出した。

 あの脅威的だったエイゼム級も、所詮はコイツの子どもに過ぎなかったのだ。


「だからアイツはアテリアをねらったとおもう。星護六命神だったころの本能にしたがって」

「ッ!? じゃ、じゃあもしかしてアイツがフェクターさんの村を襲った理由は……僕達がいたから!?」

「……たぶん」


 その眷属を生み出す仕組みはさすがに獣魔本来のものなのだろう。

 だけど元々が強大な存在だったから、本能的な意思だけは残っていたんだ。


〝アテリアを喰らって力を維持し続けなければならない〟という本能だけは。


 だからアイツはユニリースの存在に気付き、フェクターさんの村で奇襲した。

 その後も僕達を追っていたが、そこで皇国のアテリア達の存在にも気付いた。

 けど皇国には自分をも脅かしかねない戦闘力があったから迂闊に手出しができない。


 そこでずっと地下で身を潜めていたんだ。

 いつか来るかもしれない皇国の混乱する時を待って、力を蓄えながら。

 そして僕達はまたまんまと利用されてしまったって訳だ。


 幸い、本来通りの「力を取り戻す」という所までには至っていないのだろう。

 だから今の凱龍王さんでもなんとかなっているんだ。


 今だから、まだ。


「でももし今たべられたアテリアが獣魔になって進化でもしたら、それこそ絶望的。トルトリオンもきかない、生命波動をもつ獣魔がうまれちゃうかもしれない……!」

「だから今すぐ滅ぼさなければならない! なんとしてでも!」


 でも凱龍王さんの力が切れるのも時間の問題。

 先ほど喰われてしまったアテリア達が獣魔になってしまうのだって。

 だったらもう、後悔とか嘆いたりとかなんてしていられないんだ!


 だからこそ銃を放つ手に一層の力が籠る。

 なんとしてでも獣魔を消し去るという決意がそうさせたのだ。


『レコ君、ユニリース君、こちらの準備は整った! 今先ほどラーゼルトやギーングルツ、ツァイチェルの援軍も合流し、我々に力を貸してくれる事となったぞ!』

「よし、じゃあユニリース、魔力値の確認を――」

「もう終わったよ」

「さすがユニリース。それじゃあさっそく発射の準備を――」

「……だめ」

「――え?」


 だけど不意に、そのトリガーを引く指が止まる事となる。

 ユニリースから放たれた言葉の真意がよくわからなくて。


 それに、内部カメラが映す彼女の顔があまりにも悔しそうに震えていたから。


「だめなのレコ。魔力が想定値にまったくとどかないの……! これじゃあトルトリオン砲をうつなんてできないよ……!」

「そ、そんな……!?」


 今すぐにでもあの獣魔を消し去らなければ手遅れになるかもしれない。

 なのに、僕達にはもうその手段さえ与えられる事は無かったのだ。

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