第104話 戦況を打破する秘策
「レコ、おちついて。あれはゆーれいでもゾンビでもないよ」
「ごめんよユニリース、僕が取り乱してしまったばかりに君を危険に晒してしまった」
僕のミスがユニリースを危険に晒してしまった。
ありえないミスで後悔が絶えない。
ただ、それが冷静を取り戻す要因ともなったみたいだ。
おかげで今、僕は再びエントランスの中を飛び回れている。
敵の攻撃を掻い潜り、弾く事ができるほど正確に。
『ほぉ、まさか背中にアテリアが乗っていたとはな。となると君の性能の秘密は彼女という事かな?』
「あいにくですが違います! 彼女は僕のサポートをしているだけで、実力は僕自身のものだ!」
『なら俄然興味が高まるというものだ! ぜひとももっと君のすごみを見せてくれたまえ!』
「言われなくとも!」
それでこう言い返してみたのはいいものの、このままでは防戦一方だ。
拡散砲も今一発撃ったところで弾切れ、リチャージまであと五分はかかる。
加えてこの包囲網を突破するのは生半可な戦力じゃ無理だ。
何とかして別の手段で突破口を拓かないと……!
「ならレコ、〝ヴォークリューター〟をつかうよ!」
「そうか、あれなら……!」
けどそう迷っていた時、ユニリースが僕にこう提案してくれて。
そのおかげで正解が導き出され、引きずっていた迷いをも断ち切ってくれた。
正体不明な敵の仕組みなんかもう関係無いんだって。
頭を潰してダメなら、五体すべてを潰してしまえばいいのだと。
そこで僕は即座に拡散砲を腰裏へと固定し、エントランスホール中央の空中へと飛びぬける。
そうしてレティネさんがそのあおりで怯む中、僕はその傍でふくらはぎ裏に搭載していた武装『ヴォークリューター』を八つ射出した。
飛び出したのは棒状三節型の武装。
それが直後には三角形状へと変形し、僕の周囲に浮いてクルクルと回り始める。
「はぁ!? 何を出すかと思えばそんな玩具なんてぇ!」
しかしそんな武装を前にしても無魂ヴァルフェル達は一切ひるまず、一斉射撃を僕へと放っていた。
けどね、それは間違いなんだ。
この装備はただ浮いて回っているだけのものじゃあないんだから。
ゆえにすべての弾丸が僕には届かなかった。
それどころかヴォークリューターに近づいた途端に軌道を変え、反転し、撃った奴等に帰っていったのだ。
それも、いずれもありとあらゆる属性を付与された状態で。
突如として場が輝き、吹き飛び、爆散する。
敵の砲身や四肢、時には動力炉へと直撃を受けて。
運良く免れた者も、周囲の爆発に巻き込まれて転倒を余儀なくされる事に。
しかもおかげでヴォークリューター自体も魔力の輝きを強く帯びた。
今ではどの子もが強い緑光を放ちながら高速回転しているよ。
まるで魔力を与えられて喜んでいるようにね。
そう、これはそもそも武器なんかじゃない。
僕の魔法を個別実行してくれる
つまり、この一つ一つが僕とは別に魔法を使ってくれるようなものさ。
今の反撃はその賜物。
放たれた弾丸すべてに生命波動を与え、操作してやった。
だから弾が命令通りに逸れて、おまけに精霊弾と化して奴等を襲ったのさ。
さらに魔術兵装からの攻撃は彼等が受け止め、魔力に変換して吸収だ。
あとは魔力を強く帯びたヴォークリューター自体が円月輪となって飛び交い、残った敵を切り裂く。
こちらも高機動だからね、転倒した奴等は逃げ道なんてないまま真っ二つさ。
こうして役目を終えた所で、彼等は再び脚の裏へと格納へ。
スペック通りの性能を発揮してくれたみたいで僕もとても嬉しいよ。
おかげでツィグ皇帝達に強い動揺を与え返せたから。
「そ、そんな……無魂ヴァルフェルが一瞬で全部やられた、ですって!?」
『なんという性能だ。まさかこれほどとはな……』
本来ならこんな所で使いたくはなかったんだけど仕方がない。
相手が本気を出すというのなら、僕も全力で応えなければね。
互いに元騎士としての誇りに殉じるために。
まぁ、相手にはもうそんな気概はなさそうだけども。
『レコ=ミルーイ君。私はどうやら君をあなどっていたらしい。まさかここまでやってくれるとは思わなかったよ。これではもはや試験データどころではないな』
「あんなのに残られると僕だけでなく世界が困りますから。その試験データとやらも、ここで僕が破壊してみせます」
ただ、僕のこの強気な発言へと返す言葉も無いらしい。
ツィグ皇帝も、かろうじて中二階の端へ逃げ切っていたレティネさんも声を詰まらせている。
共に僅かな悔しさをにじませながらにね。
そんな中、僕も広場中央へとゆっくり降り立ち、画像のブレる巨大な映像へと見上げる。
先ほどの反撃で映像のほとんどが破壊されてしまって、まともに見られるのはこれくらいさ。
「それでももし無魂ヴァルフェルに関するデータを自ら破棄して、皇国による圧政を止めるというのなら、僕はここから撤収しますよ」
『つまり、敗北宣言をしろという事かね?』
「そうなりますね」
『そうだな、それもまた一つの手ではあるが――しかしやはりそうもいかんな』
「何故です? どうしてそこまで頑なになれるんですか?」
『それはこの戦いが私の望みであっても、意志ゆえでは無いからだよ』
もう彼等に戦力は無い。
だからこそツィグ皇帝もまたこうして潔く口を開いてくれているのだろう。
それが時間稼ぎか、あるいは本当に観念したかはわからないけれど。
『ご存知の通り、この国は皇族に支配されている。彼等の悲願が達成されるまでこの支配体制は終わらんのだ。世界をも支配するという目論見もまた彼等の悲願の中に含まれている以上はな』
「じゃあ一体何なんですか、そのはた迷惑な悲願っていうのは!」
『そうだな、ここまでやりきった君になら教えてもいいだろう。遥か昔から続く、皇族が犯した罪から始まった贖罪の為の逸話をな』
でもその口ぶりは不思議と、まるで「語りたい」と思っているようにも見える。
椅子の背もたれに身体を預けて、溜息を吐きながら虚空を見上げていたから。
『君はかの廻骸の魔女伝説を知っているかね?』
「? 知っていますよ。おとぎ話のあれですよね?」
『それなら話は早い。ただそれは決しておとぎ話ではないがな』
「えっ……?」
『かの魔女エレイスは実在したのだよ。……いや、実在
「なッ!?」
それで始まった話は最初から、僕を驚かせるには充分な内容だった。
まさかあの廻骸の魔女エレイスが今も生きていて、しかもヴァルフェル開発に携わっていたなんて。
となるともしかして、デュラレンツで聞いた老婆がエレイスだったって事なのか!?
『かつてエレイスは自分の娘を取り戻すために、とある国に従事して世界各国を席巻した。その魔法の力のみならず高い魔導工学知識と精霊力学を駆使し、戦争の在り方を根本から変えた事でな』
「まさかそのとある国って!?」
これは驚くべき事実だ。
僕達はすでに、あの悲劇の物語の中に組み込まれていたのだから。
あの廻骸の魔女伝説はまだ、終わっちゃいなかったんだ。
『そう、それが現皇国の前身、ユガンティア王国だ』
そして今、その前身たる伝説的物語の真実がツィグ皇帝から語られる。
かつてこの国が犯した罪と罰を継承し続ける事となった秘話が。
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