第103話 真の魔骸騎士
「この機体はねぇ、性能こそ従来と変わらないけれど、意思も無いから各種センサー検知や挙動予測がしにくいの。それを貴方はどう避け続けられるかしら?」
皇国が開発した無魂ヴァルフェル軍団。
その性能はレティネさんの言う通り、従来のヴァルフェルでは捉えにくい性質を有しているらしい。
二〇機もの機体が場に潜んでいたのに、僕がまったく気付かなかったのだから。
ただしいずれも機体はディクオールと、性能自体は転魂機と同じなのだろう。
しかしそれは装備も共有可能で、状況に応じて兵器換装ができるという事。
実際、僕の前に現れた奴等は個体差のある装備を有している。
手前にいるのは馴染みある軽装型が一〇機。
自動機銃とショートブレードを装備し、肩には一門の短砲塔まで装備している。
奥には重装型と狙撃型も五機ずついるようだ。
重装型は両腕にバルカン砲を、両肩にも大口径ガトリング砲を搭載。
狙撃型は両手にライフルと、肩には収束式らしき短筒重光波砲が見える。
いずれも明らかな空間戦闘用の武装。
この場で戦う事を想定して組み上げられたらしいものばかりで。
おまけにここは閉鎖空間だからとても精霊の質が低い。
だとすれば僕も魔法をほとんど封じられた状態と言えるだろう。
となると状況は明らかに不利だ。
なので先手必勝。
奴等が構えると同時に僕も身構えていたからね、先に撃たせてもらう!
ゆえに途端、僕の精霊拡散砲から幾つもの閃光筋が同時に解き放たれた。
――のだが。
「ッ!?」
なんとこの瞬間、軽装型が揃って両腕を突き出して身構えていたのだ。
APGブラスティング……耐魔力兵装用の障壁を展開していたのである。
しかも防御性能は僕が扱っていた物なんか比較にならないほど高い!
そのせいでまもなく僕の拡散弾が弾かれ無為となってしまった。
『今のは君とレティネ機との戦闘データを基にして当機用に改良を加えたものだ。かのラーゼルトの使者が良い仕事をしてくれたよ』
「あの裏切者達がすでにメモリーだけを返送していたのか! くっ!」
さらには今の攻撃を皮切りに、無魂ヴァルフェル達の反撃が始まる。
突如として無数の光線や物理弾が豪雨のごとく放たれたのだ。
これには僕でもエアレールの壁で防ぐしか手段がない。
『ほう、その機能はなかなか便利そうではないか。ぜひとも研究開発させてくれたまえ』
そんな僕を前にして、ツィグ皇帝はのんきにコーヒーをすすっている。
まるで僕を煽っているかのようだよ……!
そうして憤っていれば、軽装型の二機が僕目掛けて左右から走り込んできた。
ハンドガンを放ちつつ、低姿勢で鋭く跳ねるように走って。
それで揃って二方向からブレードを振り被って来たのだけど。
「場の魔力が少ないなら、別のやりようがあるッ!」
僕はそれを、銃を捨てての手刀突きで同時に迎え撃つ。
たちまち打ち当たる手刀とブレード。
するとブレードがその瞬間、折れるのではなく内部破裂。
さらには風属性の魔力が駆け巡り、敵ヴァルフェルの腕もが千切れ爆ぜる。
そしてその魔力をも操り、二機の本体を真っ二つに切り裂いてやった。
硬質ブレードの魔力を逆に利用してやったのだ。
精霊武装には個々に多大な魔力が封じられているからね。
『なんだ今のは!? こやつめ、想定を越えて面白いぞ……!』
「あいにく、僕は貴方を面白がらせるために来たんじゃないッ!!」
それだけでは済まさないぞ!
掠れ行く風魔力を掌に固めて巨大な針鋲を形成。
力いっぱいに放り投げ、軽装型一機の頭部を貫き破砕した。
いくら強化APGブラスティングでも収束攻撃には弱いらしい。
これで三機――
「ふふっ、けど甘いのよねぇ」
「ッ!?」
だけどこの時、僕にとって予想外の出来事が起こる。
なんと今頭を砕いた機体が続けて僕に射撃を放っていたのだ。
それも正確に、一切動じる事も無く。
「そ、そんな馬鹿な!? 頭を壊したのに、センサーが壊れているはずなのにっ!?」
「ダメよぉ、この子達を今まで通りの相手だなんて思っちゃあ」
無魂だから痛みも恐怖も無いのはわかる。
だけど頭部を破壊されればどのみち僕を認識する事なんてできないはず。
なのにこうして反撃して、確実に当てようとしてきている!
不気味だ。
何なんだこのヴァルフェル達は!?
これじゃあまるでゾンビみたいじゃあないか……!
無魂の魔骸騎士――その銘の通り、まさしく動く骸だ!
『レコ、動揺したら魔力があんていしない』
「わかってる! けどこんなのを見せられたら動揺しない訳がないよ。だってあれは僕にとって、最もおぞましいものだ!」
人が動く死者を恐れるのと同じく、僕も動く骸ヴァルフェルが怖い。
意識が機械に近いからこそ、認識のすり替えが起きているからだろう。
そのせいで生まれた恐怖が僕の心を煽り、つい足を退かせてしまった。
攻撃が激し過ぎるのもあるけれど、僕の心が押し負けてしまったんだ。
「ううーーーっ! クソッ、このままじゃ埒があかない!」
そこで僕は焦りのままに、力の限り跳び上がる。
さらにはエントランス中の空中をエアレールで滑走し、奥へと向かおうとした。
攻撃の要は間違い無く、後方の重装型と狙撃型。
あの二タイプさえ撃破できれば反撃の糸口は見つかるはず。
だから僕は空中から応戦しようと思ったんだ。
だがその瞬間、僕は予想外の展開に驚く事となる。
「軽装型の反応が、速い!?」
無事な軽装型七機がすでに後方部隊の傍を走っていたのだ。
しかも両手に輝きを伴わせていて、僕の動きに完全に対応しきっている。
感情が無いから、僕が飛ぼうが関係無く即時対応できたのだろう。
そんな機械的な奴等に焦って拡散砲を撃っても無駄だった。
直後にはまた魔防障壁を張られ、レーザーが弾かれてしまっていて。
たしかに防御精度こそ散漫で、飛び散らせた粒子で仲間を微かに焼かせてもいる。
だけどどいつもこいつもまったく怯まず、僕に銃口を向けていたのだ。
「うああああッッッ!!!??」
そんな中で真っ先に放たれたのは五門の収束光線砲。
糸ほどに細い高出力レーザーが五方向より放たれ、一斉に僕を襲う。
それを僕はエアレールを駆使して寸前で弾いた。
しかしあまりの高出力に、エアレールが押されて上手く弾けない。
そのせいで無数の高濃度エネルギーが飛び散っていく。
付近の壁や天井を焼き、白化融解させて外との穴を開けてしまうほどに。
そしてその衝撃が僕の姿勢をも崩してしまっていて。
途端、一機の軽装型がブレードをかざしながら跳ねて突撃してきていた。
「くぅぅぅッ!!!」
直後、僕と奴が擦れ違う。
互いに推進剤を使用して爆発的に加速しながら。
そしてあろう事か、僕の背中のコンテナ上部が一部削れ飛んでしまっていて。
「ユ、ユニリィィィーーースッッッ!!!??」
「あたしはだいじょうぶ! てんばんがやられただけ!」
「っ!? よ、よかった……!」
とはいえ装甲だけが飛んだだけで彼女は無事。
ただその代わりに中が露出し、ユニリースの姿が露わとなる。
今擦れ違った奴は僕の手刀で真っ二つにして倒せた。
だけどその代わりにユニリースを危険に晒してしまった。
そんな采配ミスを招いた事が激しい後悔を呼び起こして堪らない。
クッ、彼女は僕が守らないといけないのに!
焦ったばかりに、なんて大失態を犯してしまったんだ!
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