第54話 強襲、皇国軍中隊

『北北西より大型動体反応あり。その数、一。高出力エーテルリアクター起動を確認。その数――三〇』


 それはラーゼルト側の裏切り者達を鎮圧してすぐの事だった。

 僕のセンサーが何かを捉え、システムがこう教えてくれたんだ。


 そうしてレクサルさんとの話の最中、とうとうその影が僕達の前に現れた。


 あれは輸送機だ。

 僅かにエアレールの輝きが見える。

 しかも獣魔との最終決戦で乗った、あの三十機搭載型の。


 あの規模の輸送機を有しているのはこの辺りでは皇国だけ。

 おまけに言えば、このタイミングで来たのは偶然なんかじゃないだろう。


 つまりあの機体は、裏切り者達と共謀した皇国関係者に違いない。


「あれは間違いありません、皇国の輸送機です! それもリアクター出力値から見ておそらく、中に入っているのはすべて僕と同じ最新型の機体だ……!」

「しかも起動をしているという事は……奴等め、まさかここで戦うつもりかッ!?」


 相手は既に臨戦態勢。

 状況にかかわらず介入するつもりらしい。

 それにしたって数が多過ぎだ!


 このまま投下を許したら、今度は僕達の方が蹂躙させられてしまうぞ!?


「精霊機銃で狙撃はどうだ!?」

「ダメだ届かん! 気圧が薄すぎてファイアバレットでは!」

「ライトニングでもダメだ、誘導性が乏しい!」

「龍ではもう間に合わんぞ!」


 けどレクサルさん達の部隊ではもう手の出しようがない。

 輸送機の位置が高過ぎて射撃がとどかないんだ。

 ただでさえ標高の高い場所だから精霊機銃も制約を受けてしまって。


「レコ殿、その背中の砲塔で狙撃できないか!?」

「無駄です! 撃ち落としたところで対象が多過ぎて数を減らせない! 届くけど、あの大きさをカバーしきれないんです!」


 自慢の重光波砲も相手が相手なだけに無意味だ。

 この距離だと輸送機表層しか焼けない上に、機内でも避けられる。

 それどころか奴等の展開を早くさせてしまう要因にすらなるだろう。


 あの輸送機を堕とすなら、広域的に攻撃できる武器がなければ――


「――広域兵器!? そうか……! 一応はやれる事があります!」

「本当かッ!?」

「レクサルさん、腕部出力に自信はありますか!?」

「あぁ、重装甲を支える出力を誇る特別機だ。だが、それでなにするつもりだ!?」


 ただ、これは正直に言えば賭けに近い。

 相手が降下するタイミングを見極められなければならないからだ。

 そこで僕がしくじれば相手を倒すどころか僕自身にも危険が及ぶ。


「なら僕の言うタイミングで、僕を空高く放り投げてください!」

「なんだとッ!? 空でも飛ぶ気かッ!?」

「なんでもいいですから早く準備をッ!!」


 しかも既に相手はもう降下可能圏内へ突入しようとしている。

 時間はもうほぼ無いぞ!


 だから僕はレクサルさんに駆け寄り、その大肩へと飛び乗った。

 レクサルさんが慌てて槍と盾を落とす中、有無を言わさずに。

 それでもなお、僕の視線は常に空へと釘付けだ。


「タイミングは任せる!」

「カウント2、1、GOゴゥッ!!!」

「ウオオオーーーーーーッッッ!!!」


 そんな中で僕の身体が空へと打ち上げられる。

 レクサルさんの腕力、僕の跳躍、そしてブースター噴出を組み合わせて、視界から輸送機を離さないままに。


 そうして僕は今、想定以上の高さへと到達していた。

 高度おおよそ八二メートル、充分過ぎる場所だ。


 そこで僕は迷わず空中で身体を、左腕をひねらせる。

 左手にワケアリのバッテリーパックを掴みながら。

 そう、お婆さんにもらった長距離移動用のものだ。


 もしこれを普通に当てようとしても無理だろう。

 高速航行する輸送機に投擲物を当てるのは、例え機械だろうと不可能に近い。


 だから僕はこうして打ち上げてもらったんだ。

 少しでも距離を詰め、不安要素を減らし、確実に狙いを定める為に。


 ゆえにこの時、僕は全力でバッテリーパックを放り上げていた。

 降下しつつある輸送機の進路先へと向けて。


 そこで精霊機銃で狙い定めるのだ。

 輸送機ではなく、今放ったバッテリーパックへと。


「魔力循環停止、アクティブエレメントカット! 届いてくれよおッ!」


 そんな銃の砲塔が火を放つ。

 それも風船が割れたかのごとき小さな発破音と共に。


 その中で放たれたのは、一粒の小さな鉛玉だった。


 これは精霊機銃の芯弾だ。

 ただの魔術炸裂式で弾き飛ばしただけの。


 本来はこれに属性を乗せて放つものなのだけど、今回は違う。

 確実にバッテリーパックへと当てるために、弾丸だけを撃ち出したのだ。

 炎で燃え尽きないように、氷で抵抗を持たないように、雷で磁力を抱かないように。


 そして、その目論見は見事に成功した。

 弾丸がバッテリーパックを弾き、更に跳ねさせたのだ。




 するとその瞬間、バッテリーパックが強い輝きを放つ。

 超圧縮された魔力が解き放たれた事によって。




 その一瞬で、空が緑の光に包まれた。

 超高濃度魔力が一帯へ照射されたたのである。


 黄翠の輝きがたちまち輸送機表層を焼きつくしていく。

 機体がいびつに歪み、ねじれ、溶けて変質させるほどに。


 更には照射された高濃度魔力が蓄積。

 溶けた装甲に結晶体としてこびりついていく。


 それはまるで飴細工の如く、原型はもはやどこ一つ残されてはいない。


 こうなればもはや中の機体もタダでは済まされないだろう。

 例え機体が無事でも関係無い。

 これだけの魔力を照射されれば魂魄異縮ソウルテラーによって魂が消滅するのだから。


 物質さえ透過するほどの魔力濃度だからこそ、絶対に防ぎようが無いんだ。


 一方の僕は無事だ。

 即座にブースター逆噴射で離れていたから。


「よぉし完璧だ! 全ての機体を爆発に巻き込んでやったぞ! これでもう大丈夫――」


 ……なんて、そう軽く思っていたのだけど。


 この時、僕はとんでもない予測を捉えてしまう。

 破壊した輸送機がレクサルさん達の所へと落ちてしまうという事を。


「そ、そんなッ!? 待てェ! そっちに行くんじゃなあいッ!!」


 しかし僕の機械的予測は残念ながら高確率で当たる。

 ゆえに今、墜落していく輸送機の軌道はレクサルさん達へとまっすぐと向けられていて。


「レクサルさぁん! ロロッカさぁん!!」


 唖然と立ち尽くす彼等へ逃げるように叫ぶも無駄だった。

 それだけ輸送機の落下速度は速かったのだから。

 逃げる暇なんてほとんど無くて。


 もうダメだ。

 今度こそおしまいだ。

 だからこう思って目を塞いでしまいそうになっていた。


 ――だが。


「ウオオオォォォーーーーーーッッッ!!!!!」


 突如として大地が、大気が震える。

 一帯を埋め尽くすほどの雄叫びと共に。


 そして今、僕の目前で信じられもしない事が起きた。


 なんと凱龍王自らが光の鎖を引き千切り、尻尾で輸送機を叩き落としたのだ。

 それもバラバラに砕き散らすほど激しく強く。


 そうか、この人は――この龍は最初から拘束なんて無意味だったんだ。

 ただ拘束する事が民の願いだと思ったから自由にさせていただけで。


 伝説の巨龍を抑えるだなんて、たかが人ごときじゃ到底無理だったのだろう。

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