第七章 星護六命神
第55話 救出作戦を終えて
「親愛なる凱龍王よ、はせ参じるのが遅れてしまい大変申し訳ありませぬ……!」
ひとまず脅威は去った。
ラーゼルト側の裏切り者達も全員破壊し、皇国の刺客も倒せた事で。
ついでに言えば凱龍王が自ら鎖を断ち切った事で問題はすべて解決となる。
そう理解したのだろう、レクサルさん達が一挙にして凱龍王へとひざまずく。
ヴァルフェルになろうとも、その忠誠心だけは残しているみたいだ。
そんな中へと、僕もようやく着地を果たした。
皆が無事だったから安心して降りる事ができたよ。
「気にする必要はありませんよ人の子達。たとえ先がどうなろうとも、この国と民が選んだ道ならば私はその運命に従うつもりです」
「しかしかの者達の思惑は決して国の総意にございません。我等真の国民は今なお、凱龍王を慕い敬っておりますゆえ! よって逆賊を叩く為にこの場を戦場としてしまった事を、どうかお許しいただきたく」
「わかりました。許しましょう」
「よかった、全部解決したみたいだな」
ラーゼルト側もこれにて一件落着。
あとは政庁という所でも本体側のレクサルさん達がうまく立ち回っている事を祈るばかりだ。
「それと、そこの機械人形」
「えっ、僕の事ですか?」
「そうです」
すると途端、凱龍王の視線が僕へと向けられて。
皆までが注目する中、長い首先にある大きな頭が縦に揺れ動いた。
「貴方には苦労をかけさせてしまったようですね。他国の問題でありながら力を貸していただき、本当にありがとうございます」
「あ、いえいえ。僕もレクサルさん達には借りがあるので」
凱龍王さんはとても丁寧な物腰だ。
てっきり名前からして、上から目線に野太い声で語る人かと思ってたのに。
とてもスッキリした声で聴き取りやすいし、物腰がこれなだけに話もし易い。
なるほど、これなら確かに慕われてもおかしくないよね。
「実は彼等の思惑には私も気付いてはいました。しかしそれが正しいのかどうかは、もはや今の私にはわかりません。よって先の戦いはあえて静観させていただきました」
「そうしてくれて助かりましたよ。じゃなかったら僕が凱龍王さんに潰されていた所だったし」
それに力だって申し分ない。
獣魔との戦いで疲弊しているっていうけど、それでも超重量の輸送機を一叩きで粉々だもんなぁ。
圧倒的過ぎて、こんなの見せられたら僕だって尊敬しちゃうよ。
「その件でも我々から謝罪させて頂きたい。本来は奴等をただ足止めしてくれる事を願っていたのだが、まさかここまで戦えるとは思いも寄らなくてな」
「じゃあ僕、結構危ない橋を渡っていたんですね……」
「すまない……凱龍王が静観していてくれたのが幸いだった」
ま、その力が味方側に傾いていればの話だけど。
僕としてはこんなすんごい方と戦うのだけは勘弁かな。
にしても、改めて見ると本当に大きい。
この大きな顎でもヴァルフェルを三体くらいなら同時に噛み砕けそうだよ。
身体もそうだけど、腕と脚、翼を含めるともう見渡さないと見きれないくらいだし。
それでいてとても神々しい。
白銀の鱗は僅かにともしびがかっていて、昼間なのに少し眩しくも見える。
そんな鱗が並んで飾られた長い首は艶やかで、虹色に輝いても見えてとても美しく感じるんだ。
更に金の装飾角が所々に生えているから、もう雰囲気は歩く宝石龍といったとこ。
なので、なんだか雰囲気的にメスなのかなって気がするよ。
それじゃ弟じゃなくて妹だよね。
龍に性別があるかどうかは知らないけれど。
「私があの黒き獣達を倒せていればこんな事にならなくて済んだのに。とても悔しい限りですね」
「仕方ないですよ、戦いで疲弊して――ってあれ? という事は、その前に万全で戦ったのではないんですか?」
「いいえ。私はここ数十年間、本来の力を失ったままなのです。ずっと食事を摂る事がままなりませんでしたので」
「ああ~、お腹空いているなら確かに力も出ませんよね」
そもそも生物なのかどうかさえわからない。
数十年も食事抜きで生きられる生物なんてまったく知らないし。
でもなぜ食べないのだろうか?
よほどの偏食主義なのかな?
なんたって伝説級の存在だしね、もしかしたら相当な食通なのかもしれない。
引き抜いて五分経つ前の大根しか食べれないとか。
高級食材じゃないと喉を通らないとか。
そう悩んでいると、今度はレクサルさんが立ち上がって答えてくれた。
「凱龍王は普通の生物と異なり、その力を維持するために特殊な食事が必要なのだ。それを数十年おきに用意し、力を維持させるのもまた我等ラーゼルトの民の役目でね。なのだが……」
「何か問題でも?」
「うむ。まぁ……色々と事情が込み入っていてな。おかげで食事も用意できず、凱龍王を衰えさせてしまった。そこにタイミング悪く獣魔どもが現れ、我が国は窮地に立たされてしまったという訳だ」
「そこできっと皇国にもつけこまれたんでしょうね」
「おそらくはな。国併合後での相応な地位を約束でもされたのだろう」
ひとまず謝罪も済んだからか、他の皆も立ち上がる。
けどどこか申し訳なさそうで、僕や凱龍王を直視できないでいて。
ロロッカさんに至っては振り返っていて表情さえ読めない。
きっと皆、何か思う所があるのだろう。
それだけその食事を用意する事が難しいなどで。
「にしても、力を取り戻せたらどれくらい強くなるのだろうか。エイゼム級を倒せたりするくらいなのかな」
「楽に、とは言いませんが、倒す事ができる領域にまでは確実に達するでしょう」
「皇国が造ったエイゼムバスターカノンは、実は凱龍王が誇る『エクスターブレス』の威力を基に開発されたのだ。エイゼム級を一度退けた際に使用したのでな。弱体化していようともそれだけの威力はあった、という訳だ」
「それは初耳だったなぁ。まぁ僕自身、エイゼムバスターカノンの事をまったく知らないんですけども」
もしその食事ができていたなら歴史は大きく変わっていたかもしれない。
凱龍王さんがエイゼム級を倒し、セブンズフォールズは起きなかったかも。
あるいは無理をして凱龍王さんが喰われて、世界が滅んでいたか。
ヴァルフェルが生まれない可能性もあったと思うと、なんだか興味深くもある。
でもやっぱり一番気になるのは食事メニューだよね。
もし今食べる事ができるなら、凱龍王とヴァルフェルの二大共演が叶うから。
そんな好奇心が湧いて、僕はふと聞いてみる事にした。
「じゃあ凱龍王さんは一体何を食べれば力を取り戻すんです? それが用意できるなら僕も協力しますよ」
「そ、それは頼もしい限りだが……」
「叶うのならばぜひともお願いしたいところですね。私が食べられるものとは――」
しかしこの時、誰かが答える前に皆の口が止まったんだ。
まるで唖然とするかのように、眼をも見開かせながら。
そうして静かになった時に初めて気付く。
僕の背後で静かに金属の擦れる音が鳴っていた事に。
そう、背中のコンテナが開いていたのである。
しかもなぜかユニリースが惜しげもなく立ち上がっていて。
そんな彼女を前に、凱龍王は首を持ち上げてこう答えたのだ。
「――それは、その娘です」
ゆえにこの時、僕は聴覚センサーを疑ってしまっていた。
凱龍王が一体何を言っているのか、理解したくもなかったからこそ。
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