第115話 奇蹟の代償

「……トルトリオンをつかうことはかわらない。けど、魔力の抽出方法をかえるの」

「抽出、方法……?」


 クジラさんが参戦した事で僕達にはまだ少しだけ猶予ができた。

 しかし劣勢である事には変わらないからこそ、僕はユニリースに願ったのだ。


 この最悪の状況を覆せる奇跡――その設定方法を。


「いままではたくさんの魔導機をきょうめいさせて一瞬だけ爆発的な魔力にするよていだった。けど次にやる方法は、レコの魔力を全魔導機にリンクさせてあつめるしゅだん」

「僕の魔力を、全魔導機に……? でもそれは僕の魔力では――」

「ううん、あたしのかんがえる方法をおこなえば、レコはいまよりずっと魔力をたかめられる」

「えっ!?」


 するとユニリースはこう説明しつつ、小型コンソールを手元に寄せる。

 それも注目させるかのように指を差しながらに。


「このなかにはあたしたちアテリアのしる知識がすべてデータ化してしまってあるの。これをレコの偽魂とダイレクトリンクさせる」

「アテリアの、知識!? じゃあそれってまさか……!?」

「そう。そうすればレコはアテリアとおなじほどの魔力をひきだすことができるようになるよ。いまの数倍以上もね」


 まさかあのコンソールがそんなにすごい物だったなんて思いもしなかった。

 てっきり一種のコミュニケーションツールみたいなものかと思っていたのに。


 けど論理は僕でも理解できるぞ。


 あの小型コンソールはいわば星の記憶なんだ。

 それをアテリア達が密かに知識を詰め込ませた宝箱のようなもの。


 そして魔力の根源は知識が呼ぶ生命波動。

 その知識たる星の記憶を僕の魂と直結すれば、それは事実上のアテリアと同じなんだ。

 アテリアも同じ仕組みで構成されているようなものだからね。

 僕が機械だから簡単に付けられるってだけで。


「よしなら今すぐ――」

「けどねレコ、星の記憶は普通の魂が許容できる小さなものではないの」

「――えっ?」

「だからもし星の記憶とつながれば、そくざに多大な記憶がながれこみ、魂の記憶がおしながされてしまう。まるで浜辺にかいた文字がさざ波にけされてしまうように」


 ただ、現実はそう単純にはいかないらしい。

 物理的には簡単でも、肝心の魂の方がどうしようもないのだと。


 それは僕が元々ただの人であり、アテリアではないからこそ。


「だからねレコ、直結したら最後……レコの記憶は、きえてしまうの」

「記憶が、消える……!?」


 いや、もしかしたら人以下だからかもしれないね。

 記憶容量が限られた偽魂のヴァルフェルだから。


 だからユニリースは「かも」とか「たぶん」とは言わないんだ。

 おそらく、ほぼ確実に近い確率で僕の記憶はかき消されてしまうから。

 そこに偽りはないってハッキリわかるよ。


 それで言い出せなかったんだってね。


「でもそれで皆が救えるんだね?」

「そのあとに、あたしがちゃんとやれれば……」

「わかった。ならその操縦桿をしっかりと握っていておくんだよ? もし僕がただの機械になってしまった時はユニリースが僕を動かす事になるんだろうからね」

「うん……」

 

 正直言えば、こんなあっさりとお別れになるのは寂しい。

 ティル達とも別れの挨拶を交わしていなかったし。


 だけど不思議と、僕は今の状況を受け入れてしまっているんだ。


 なんでだろうか、達成感があるからかな?

 ツィグさんも説得できたし、獣魔も滅ぼせるから。

 もしかしたらヴァルフェルだから、なのかもしれないね。


 一つ悔いがあるとすれば、ユニリースの頭を撫でられない事かな。

 それも空の上じゃ到底叶いそうもないけれど。

 せめて最後のお別れくらいは対面しながら交わしたかったよ。


 でももういい。いいんだ。

 僕がそう交わさなくても、皆が生きていくれればきっと代わりに伝えてくれるだろうから。


「……だからユニリース、やってくれ」

「わかった。ばいばい、レコ」


 ゆえにこうして、僕からコンソールの接続を促す。

 するとユニリースは震えた声でこう応え、きゅっと口を噛み締めながらコンソールを操縦桿へと取り付けて操作し始めた。


 それで震えて止まった指が降りた時、僕の視界が突如とした変化を起こす事となる。




 ――僕の意識が突然、景色の先に引っ張られた。

 視界の映像そのままに、僕だけが引き抜かれるかのようにして。


 そうして拡大されていく映像の中を、僕は転がるように回りながら

 そういう感覚を覚えさせられていたのだ。


 するとモザイクのように乱雑となった景色の先から別の物が見えてくる。

 それも幾つも流れるようにして、僕へと向かってやってくるのだ。

 いずれも僕の知らない、知りようも無い景色ばかりが。


 見える、見えるぞ。

 あれが星の記憶なのか!

 それも気付けばもうたくさんの景色が控えている!


 しかもいずれもまだ遥か先の映像なのに、もう視界一杯だ。

 それほどまでの量の映像が僕に迫ってきているなんて。


 こう驚く中で遂に一つ、また一つと景色が僕と重なっていく。

 その度に記憶が僕の中に投射されたのだ。


 このエンベンタリアが産まれた、そのきっかけからのすべてが!




 ――かつて宇宙が産まれた


 岩石が打ち合い、幾多の星となって銀河を創った


 星の一つに生命が産まれた


 生命が進化し、意思を持つようになった


 文明を興す生物が産まれた


 文明は進化し、発展し、栄えた


 その生物は自ら殺し合った


 それでも発展し、星をも生かさせた


 別の星がぶつかり、その生物の大半が死滅した


 一部の生き残りが死に掛けた星を蘇らせた


 その生き残りも結局絶滅したが、新しい種は蒔かれた


 別の星の恩恵は元の星の在り方をも変えていた


 星はより強い意思を持つようになった


 新しい種〝ヒト〟はそんな星を大事にする事を決めた


 星はヒトに魔力という不思議な力を与えた


 ヒトは星に感謝し生命の息吹を捧げた


 星はヒトの想いに感謝し、記憶を分け与えた


 ヒトは星の想いに感謝し、記憶を大事にした


 星はヒトを守る守護神を創った


 ヒトは守護神に頼りきらぬよう英雄を創った


 ヒトは星の想いを忘れた


 ヒトは星の記憶を奪い合った


 ヒトは英雄同士で殺し合った


 ヒトはヒトと殺し合った


 ヒトはヒトではなくなった


 星の知るヒトはいなくなった


 そして、かえってきた!




「――こ、こレが、コれガ星ノ記憶! ダメだ、コレHA、こNO量は! うわアあAああAーーーーーーッッッ!!!!!」

「レ、レコーーーッ!!!」


 あまりにもすさまじい情報量だった。

 淡々とながされる膨大なえいぞうは、僕がいしきを挟むことさえかなわない。


 だから僕は もういしきさえ 保つことが できなくなってきた


 だけどどうか ゆにりーす わすれないで


 ぼくはしなない て


 そう ぼくは ねいがいの 


 ヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ


 ―――

 ――

 ―




 この記憶は容量不足により消去されました。 

 ...command? ///end_

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る