第86話 デュラレンツから知らされし真実

「今日は遊びに行かないのユニリース?」

「じょてーごっこ、あきた」

「あいかわらず飽きるの早いね君」


 ユニリースが施設の子ども達を制してから三日後。

 もう女帝扱いにされるのも飽きたようで、またコンソールいじりを始めてしまった。

 まぁあれは遊ぶというより遊ばれていると言った方が正しいし、仕方ないか。


「おうレコさんよぉ、司令部から連絡が来たぜ? 二番格納庫の奥でちょいと打ち合わせがあるらしい」

「あ、わかりました。今行きます」


 とはいえユニリースはもう放っておいても平気だろう。

 なら僕は僕のやる事をやるべきだ。


 そこで僕は先日『股間キュッ友』となったおじさんにこう伝えられたので、さっそく足を運ぶ事にした。


 僕がヴァルフェルだという事もあって、人間の居住区施設には狭くて赴けない。

 そこでデュラレンツ側が格納庫の一画に仮設の会議室を設けたらしい。

 この施設の格納庫空間はなんだかやたらと広いからね。

 僕達の居住スペースのすぐ近くだから個人的にも助かるよ。


 それで赴いてみれば、もう六人ほどの要人が集まっていて。


「レコ殿、来てくれたか」

「これも約束ですからね。それで僕は何をすれば?」

「なに、今回は今後の方向性を定めるための話だから聞いてくれているだけで構わないよ」


 でもどうやら戦いに向けた作戦会議という訳では無さそう。

 僕がまだ新入りだから現状を知らせるため、なのかもしれない。


 すると僕に続いてキュッ友のおじさんも入って来た。

 この人はなんでも、この格納庫を取り仕切る工房長らしいので。

 濃いめの肌にシワだらけのスキンヘッドがとても男らしい方です。


「これで集まったか。ではさっそく話を始めるとしよう」


 話を取り仕切るのはやはりシャーリヤさん。

 このデュラレンツのまとめ役なだけあって、話し方が板についている。


「まず今後の動きに関してだが、今が静観せざるを得ない状況に変わりはない」

「現状の戦力はどうだ?」

「現状はレコ殿一、新型が七、旧式および改造機が三四機といった所だ」

「あれだけ駆けまわってそれだけか……」

「各所の別組織とも連携を取っても、皇国と表立って戦うには戦力不足は否めないだろう」


 ただ内容はとても慎重的だ。

 戦力的には中隊クラスが揃っているみたいだけども。


 でもやはり機体性能や転魂者の技能の差もあるのだろうね。

 相手はおそらくもう最新型のディクオールで戦力を固めているだろうし。

 生産能力が確か月一〇〇機という話だったし、各地にももう配備されていそう。


 それでもこうやって静観できるのはおそらく、転魂者が少ないから。

 機体が多くても扱える人の絶対数が少ないので、機体数が絶対的な戦力にならないんだ。

 なので僕が知るだけでも、皇国の戦力はおよそ五〇〇機分。

 ここからいきなり増える事はまず無いと言っていいだろう。


 それだけがこのデュラレンツにとっての救いかな。


「ただ、我々には最も必要な力が欠けている。それはカリスマ的存在だ」

「それ、シャーリヤさんじゃダメなんですか?」

「ああ。私は参謀的役割の方が得意なんだ。我々が必要としているのはあくまで前線に立って皆を率いられる強い象徴性。その力を持つ者がどうしても必要なのさ」


 だけどどうやらデュラレンツ側にも悩みが多いらしい。

 確かに、引っ張ってくれる人がいるだけでもかなり士気が違うよね。

 獣魔との最終決戦でも、僕はアールデュー隊長がいたから張り切れた訳だし。


「そこで私はレコ殿にその素質があるのではと思い勧誘したのだが……」

「僕にそんな力は無いですよ」

「わかっている。……と本人が言うように、残念ながら彼からはそれらしいカリスマ性を感じる取る事ができなかった」

「ぬぅ、そうか……」


 どちらかと言えば僕は一人で戦う方が性に合っているのかもしれない。

 逆に集団戦となると周囲に気を配らないといけなくなるから、どうなる事か。

 魔法も一人の方が存分に奮えるだろうしね。


 じゃあどうするのだろう?

 指導者がいないとなると、例え戦力が整っても戦いようがない。


「そこで私は、現在皇国城に囚われているアールデュー=ヴェリオの救出作戦を提案したいと思う」

「「「ッ!?」」」

「アールデュー隊長を救出……!?」


 だがこの時、シャーリヤさんがとんでもない事を言いだした。

 思っても見なかった人の名前が出てきたもので、僕もつい驚いてしまったよ。


「ま、待ってください! 貴方達が知り合いなのはわかりますが、あの人は元皇国軍騎士なんですよ!? なのにどうして助けてすぐ指導者になれるっていうんです!?」

「そうか、君はまだ知らないのだな」

「え、何を……?」

「アールデューは元々デュラレンツのメンバーだったんだよ。それも我々の象徴の一人としてね」

「え……ええええーーーーーーっっ!!!?」

「やはり知らなかったか。なら少しだけ昔話をするとしよう」


 そしてさらに驚くべき事実を知らされ、思わず首を引かせて叫んでしまった。


 まさかアールデュー隊長が元反乱軍だったなんて。

 じゃあ一体どういう経緯で反乱していた皇国側に付いたのさ!?

 なんだかもうまったく状況が読めないよ!


「昔は我が父でもあるヴィスカール将軍とアールデューが前線に立ってよく暴れていたものさ。獣魔が攻めて来るまではの話だが」

「ヴィスカール将軍! その名前は僕でも知っているぞ! 皇国を幾度となく守って来たあの英雄将軍じゃないか!」


 しかもどんどんと事実が浮き彫りになって、僕の思考回路をめちゃくちゃにしてくれるかのようだ。


 ヴィスカール将軍と言えば教科書にも出てきた人物。

 二〇年前には対ラーゼルトとの国境戦線にて、自慢の防衛戦術を駆使して倍の戦力相手に耐えきったという。

 他には西諸国の侵略にも抗い、それどころか巻き返して逆に侵攻支配したという戦果はもはや伝説的に近い。


 でも待てよ?

 確か教科書によれば、ヴィスカール将軍は一五年ほど前に戦死したはずだ。


「そう。あの人も皇国の非道なやり方に異を唱え、しびれを切らして離反したのだ。しかし皇国は影響力を考え、彼の離反を『戦死した』と偽ったがね。でも実はそれからずっと裏で敵として戦っていたのさ」

「じゃあヴィスカールさんが象徴として戦えばいいのでは――」

「……父は八年ほど前に本当に死んでしまったのだよ」

「えっ……」

「獣魔が攻めてきた時、我々もさすがに皇国と戦ってはいられなかった。そこで皇国軍からの緊急救援をキャッチし、獣魔撃滅へと向かったのだ。だが、獣魔を撃退したその直後、父はあろう事か皇国兵から背中を撃たれ、その怪我が元で命を失ってしまったのさ」

「なんて事を……っ!」


 死んでしまったのは確かに本当だった。

 しかしその原因がまさか皇国の裏切りによるものだったなんて。

 助けてくれた相手を殺すなんて、そこまで皇国は腐っていたのか……!


 歴史まで偽って、利用するだけ利用して殺す。

 そんな理不尽な事、あっていい訳が無い!


「しかしそこで気付いたのだ。『ただ抵抗するだけでは皇国は変わらない』と。だから私達は獣魔の侵攻に便乗し、皇国を内部から改革するための計画を発動した」

「ちょっと待ってくださいよ、いくら力のある反乱軍だってあの皇国を内部から変えるなんて無理があるんじゃ!?」

「それがね、できるのだよ。私達の仲間にはそれができる人物がいたからね」

「えっ……?」


 きっと皇国に対するこの憤りはシャーリヤさん達も一緒だったのだろう。

 だけどそんな彼女達が取ったのは、ただ戦う事じゃなかったんだ。


 それは彼女達もまた皇国の人民であり、正しい国であって欲しいと願ったから。




「その名はディクオス=ゼ=ロイ=ユガンティア。君の本体が殺したとされる前皇帝だよ」




 そしてその名を知らされた時、僕はもう絶句するしかなかったのだ。

 まさかあの皇帝陛下が反乱軍の一員だったなんて誰が予想できるものかと。


 もしかして僕、そろそろ思考システム回路にガタがきていませんかね?

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