第85話 ユニリースちゃんは怒らせると怖い

「そいつらがまた来たらオイラがブン殴ってやる!」

「暴力はいけないよティル。穏便に行こう」

「でもユニリースさんが叩かれでもしたらぼくもゆるせないとおもう」

「よし、その時は精霊機銃で撃ち抜くとしようか」

「レコの方が物騒じゃない!」


 先日の悪ガキ達の襲来にはとても困らされた。

 それで戻ってきたティル達にも話をしたらこんな感じさ。


 でも半端な暴力はいけないよね。

 やるなら痛みも感じさせない方が優しいと思うんだ。


「レコ、それはちょっとやさしいとちがう」

「むむ、そうかな? うーん、ヴァルフェルになって長いから、ちょっと価値観がズレてしまったのかもしれない」

「あんまり私達を守ることに固執し過ぎないほうがいいとおもうよ? 自分でだってもう身を守れるんだから」

「チェッタ、なんかおとなみたい。いいね」

「ふふっ、ユニちゃんに褒められちゃった」


 しかしそれは考え過ぎだったようだ。

 チェッタの言う通り、僕はこだわり過ぎていたのかもしれない。

 ただ守ろうとして過保護になっていて、心配し過ぎてしまっていた。


 もうこれじゃあどっちが大人で子どもだかわからないね。

 僕もまだまだ彼等からも学ばないといけなさそうだ。


 ……と、こんな話でこの日は終わり、四人は新しい布団の上ですぐ眠りについた。

 その寝顔はとても安らかで、さっきまでの憤りなんてとても感じない。

 これなら悩む必要なんてなかったのかもしれないね。




 ――だなんて思っていたのだけど。

 その翌日、僕達の所へ嵐が再び舞い込む事となる。




「ユニリースを馬鹿にする奴はオイラが許さねぇぞ!」

「なんだよ新入り? やんのかぁ?」


 あの悪ガキ三人組がまた僕達の下にやってきたのだ。

 しかも年上のティルを前にしてもまったく狼狽えやしない。

 頼りのメルミッテさんもまだ来ないし、これじゃ衝突は避けられそうにないぞ。


「さてはおまえ、あの肌黒女のことがすきなんだろー!」

「バッ、バカ、ちげぇよ! そ、そんなんじゃねーって!」

「すーき! すーき!」

「ちゅーしちゃったの~!?」


 だが多勢に無勢だ。

 確かに体格はティルの方が上だが、性悪攻撃耐性は明らかに低いし。

 純真な子どもの国出身者ではこの悪ガキどもに対してあまりに不利過ぎる!


 クッ、こうなったらやはり精霊機銃の出番か……!


「ふっ、ふふふっ、ハーッハッハ!!」

「な、なんだこいつ、いきなりわらいはじめたぞ!?」


 けどそう思った時、突如ティルが高笑いを始めた。

 その背の高さゆえに悪ガキどもを見下すようにして。


「はぁ~これだからお子ちゃまは遅れてるんだって。違うんだなぁ、好きとか嫌いとかじゃないんだよぉ」

「「「な、なにぃ!?」」」

「なぜならよぉ、オイラはユニリースからパンツを貰ったくらいなんだぜぇ……ッ!」

「「「な、なんだってぇーーーッ!!?」」」


 それで何を言うかと思えば、とてもしょうもない自慢を始めた。

 違うでしょティル君。あれはあげたんじゃなくて只の攻撃手段だからね?


 ただその真偽はともかく、悪ガキどもには効果てきめんだったらしい。

 揃って身を震わせていて、とても驚愕を隠せないようだ。


「パンツを貰ったって事はよぉ、オイラはユニリースの――」

「ティル」

「え、なにユニリウッ」


 けどその時、そんなティルの背後にいつの間にかユニリースが立っていて。

 で、ティルが振り向いた途端、言葉を濁したままその場に崩れ落ちていく。

 しかもなぜか股間を抑えたままに。


「レコ、バーナー」

「点ければいいの?」


 そんなユニリースの手にはいつの間にやら黒い塊が。

 それを僕の手元へと投げ付け、バーナーの火により一瞬で灰と化させる。


 そして何を思ったのか、今度はユニリース自身が三人組の前に立ち塞がった。


「こいつ、やんのか!?」

「へっ、女なんてこわくねーぜ!」

「やっちまえー!」


 しかし子どもの世界は常に非情。

 歳の差など彼等の喧嘩にはまったく関係無いのだ。

 だからまだ五歳くらいでしかないユニリースに、倍の歳ほどの子どもが三人がかりで襲い掛かる!


 だが一人目の拳をユニリースは軽く屈んでかわしていて。

 それどころか即座に懐へ詰め寄り、股間へ鋭い膝蹴りを見舞った。


「きゅッ!!!?」


 悶絶して倒れる悪ガキ一号。

 でもその背後から二号が襲い掛かる!


 そう思った時だった。

 既にユニリースはそれすらも察知し、隙を突いて横へ回り込んでいたのだ。


 それに気付いた時には既に遅し。

 悪ガキ二号の股間へ、回し蹴りトゥーキックが炸裂する!


「ぃお"ッ!!!?」


 堪らず転がり落ちる悪ガキ二号。

 リーダー格の悪ガキが狼狽えるも、即座に咆え散らかしていて。


「こいつぅー! 泣かしてやるぅぅぅ!!」


 そのまま容赦なくユニリースへと蹴り上げた――のだが。

 この時、ユニリースはもうその場にはいなかった。


 なんと悪ガキの頭上を、身体をひねらせながら跳ね飛んでいたのである。


 そうして着地アンド回転。

 その勢いのまま悪ガキの股間へ、突き上げバックヒールキックがねじ込まれた!

 まさしく馬のそれを彷彿とさせるほどの鋭さで!


「あぴゅんッ!!!!!」


 痛い、これはとっても痛ぁい!


 この脅威の破壊力は受けた者だけでなく、見ていた者にさえダメージを与える。

 メオやたまたま通りかかったおっさん、そして僕もがなぜか股をキュッとさせてしまうほどに。


「ユニリースってこんな強かったんだね……」

「こりないやつはきらい! ふんす!」


 驚くべき事に、ユニリースは悪ガキ三人組を実力でねじ伏せてみせたのだ。

 ついでにティル君も。こっちは自業自得だけど。


 もしかしたら最初から心配なんていらなかったのかもしれない。

 ユニリースには物理的にも精神的にも退ける手段があったからこそ。


 だったらもう少し静観してみるのもいいのかもしれないね。




 ――だなんて安心していたのだけど。

 気付けば、事態はより一層複雑となってしまったようです。




 どうやらユニリースはこの時点でもうやるべき事を済ませていたらしい。

 なので悪ガキ三人組を制したのち、すぐに次の行動に移していたのだ。

 今の理不尽な子ども社会に活を入れる為にと。


 そしてそれから一週間後。


「姉御! さぁこちらへ!」

「「「ユニリース様! 我々の背にお乗りください!」」」

「「「きゃーっ! ユニリース様よぉ!! かわいいーっ!」」」

「「「ぼくらのユニリース様ばんざーい!!」」」


 ユニリースはデュラレンツ子どもグループの女帝に君臨していた。

 男子全員がその身で作る玉座に座り、女子達の黄色い声援を受ける中で。

 ティルもなんか姉御よばわりしてて、まるでキャラが変わっているんだけど?


 聞くとなんでも、障害となった悪ガキ四天王をすべて制したらしいです。

 一体なんなのさ悪ガキ四天王って。


 まぁ確かにユニリースはすごい子ですけどね。

 でも、これはいくらなんでもやり過ぎじゃない?

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