第84話 子どもって容赦無い

「みてみてレコ! 要らない端材でベッド作ったよー!」

「君達、あいかわらずサバイバビリティ高いね……」


 反皇国組織デュラレンツに合流してから二日目。

 僕達は兵器格納庫の端の一画に居住スペースをもらい、ここでの新たな生活を始めていた。


 ただ組織も物資に限りがあるので、日用品を無償提供してくれる訳ではない。

 それにこの間の皇国軍強襲の際に寝具や小物などが焼けてしまったので、ちょっと不便な日々を送っている状態だ。


 それでもティル達はめげず、こうやってベッドまで造って来てくれた。

 しかも子ども達みんなで一緒に眠れるくらいに大きな物をね。


 あとはふかふかの布団もあればいいのだけど、これはちょっと子ども達でも調達に難儀しそう。


 なら僕が働いて稼がなきゃ。

 こうなったら皇国軍の遠征部隊でも見つけて殲滅だ!


 ――なーんて思っていたのだけど。


「レコは今日も、おしごとないの?」

「うん。特にできる事がまだ無いみたいだ。だから皆の手伝いでもしようかなって」

「ならワラでお布団、一緒につくろ!」


 ヴァルフェルの僕がやれる事は限られている。

 人間の仕事の大半は僕にはできないので、基本的には荷物運びとかしかない。

 だけどその辺りも既に役割が決まっているらしく、人手は間に合っているそうだ。


 なので今の僕はただのごく潰し――もとい、置物。

 今もティル達の作業台として両手を差し出しているだけだ。

 これもこれで悪くないけど、心境は複雑です。


「ユニリースも手伝えよー」

「あたしはいそがしいの!」

「もーユニリースったらー! 自分はおねーちゃんって言ってたくせに怠けてばっかり!」


 その一方、ユニリースは部屋の隅でコンソールをいじっている。

 直ってからというもののずーっとこの調子だ。

 本当なら皆と一緒に遊んだりして協調性を学んでほしいのだけど。


「よし、できたー!」

「それじゃあ据え付けは僕がやっておくから、皆は遊んでおいで」

「おっけー! じゃあ秘密基地を探検して来ようぜー!」

「「おーっ!」」


 でも本人が望まないのなら強要しても仕方がない。

 そこはティル達もしっかりわかっているようで、三人でどこかへ行ってしまった。

 でもいつかそこにユニリースも加わって四人で走り回ってくれると僕も嬉しいな。


「あたしはやることが終わってから。あそぶのはそのあとー」

「そっか。じゃあ気長に待つ事にするよ」


 それにしてもコンソールで何をしているんだか。

 僕に使わせるための変な機能でもまた作っているのかな。


 そう心配しつつ、出来立てのワラ布団をベッドに添えてみる。


 ――あれ、このベッド、子どもが作った割にかなり頑丈だぞ。

 木製なのに僕が指でちょっと押しただけじゃビクともしないんだけど?


 そんな事実に気付いてからはついベッドそのものが気になって見回していて。

 そうやって構造を分析していたら、部屋の前になんか誰かがやってきた。


「あ、みつけたー! 新入りだ!」

「見ろよ、うわさの肌黒女がいるぜー」

「すげーっ、ほんものだーっ!」


 それは三人の子ども達。

 見た目的にはチェッタと同年齢くらいだから一〇歳かそこらだろうか。

 どうやらユニリースの話を聞いて探していたようだ。


 けどその口ぶりは気に食わない。

 子どもの言う事だから気にしても仕方がないのだけど。


 大人達は本当にちゃんと周知徹底してくれたのだろうか。

 教育上、子ども達にもこういう事はキチンと伝えておくべきなのでは?


「なーお前、名前なんていうんだー?」


 しかも僕の事なんか無視して、勝手に居住スペースに入ってきた。

 それもまるでユニリースを囲うように並んでいて。


「……ユニリース」

「うわっ、ひまわりユニリースだってよ、だっせー!」

「「だっせー!」」

「ださくないもん!」


 しかも理不尽にも、いきなりユニリースを馬鹿にし始めるとか!

 これにはさすがの僕も名付け親として看過しきれそうにない!


 けど当のユニリースは一度怒鳴り返した後、またコンソールをいじり始めていて。


「おこさまとかかわってるひまはユニにはないの」

「なんだコイツ?」

「変人だぜーきっと」


 確かに口元が「への字」にはなっているけれど、いつもみたいにキレはしない。

 なんだかまるで大人のように我慢強いんだ。

 意外だな、いつもみたいにブチギレて暴れると思っていたのに。


 もしかしてそれだけ旅の中で成長したんじゃ……!


 そう思うとなんか泣けてくるなぁ。

 今なら水魔法を操って涙も流せるけど内部が錆るのでやめておこうと思う。


「コイツつっまんねーの!」

「もう行こうぜ。じゃあなーダサダサひまわりちゃ~ん!」

「君達、いい加減にしなさーい!」

「やべ、魔法ロボがキレたぞ、逃げろーっ!」

 

 しかしこの子ども達のしつこい仕打ちに、僕がもう我慢できなくなってしまった。

 なので半ば追い立てるようにして彼等を追い出す。

 こっちから手が出せないのがとても歯がゆい!


 くっ、これだけでもうデュラレンツを滅ぼしてしまいたいくらいだ。

 子どものしつけさえできない団体なんて僕は認めたくないぞ?


 ――なんてそう悩んでいた時だった。

 まるであの子ども達と入れ違うように、また一人来客がやってくる。


「あ、あの! ここに子どもが三人ほど来られませんでしたかぁ!?」


 今度は大人の女性だ。

 小さくカールした茶髪のワンサイドテールを下げる、丸眼鏡をかけた人。

 さっきの子ども達と違い、とても真面目そうで少し気弱そうな感じの。


「来ましたけど、ウチのユニリースをやたら罵倒していったんですけど?」

「え、ええーーーっ!!?」

「なんだか僕もうデュラレンツ滅ぼしたい気分なんですけど、どうします?」

「ままま待ってくださぁい! ホンット許してくださぁい!! この通りですからぁ!」


 そんな人にちょっと脅しをかけたらすぐにドゥギャザーだかをしてくれた。

 しかも地面に何度も頭を叩き付けるくらいにもう全力で。


「すいません、僕も言い過ぎました。自慢のカールがクシャクシャになっちゃってますからもういいですよ」

「本当に申し訳ありませぇん……あの子達、小さい頃から親御さんを皇国兵に殺されてしまって、そのトラウマで保護者がいる子にやたらつっかかるんですよぅ……」

「ここにいるって事は訳ありなんですね……それなら仕方ないですよ」

「本当は優しい子達だと思うんです。だけど言う事聞いてくれなくてぇ」


 誠意もすごい見せてくれたし、事情もあるみたい。

 なのでここは大人しく引き下がろうと思う。

 この人も苦労しているみたいだし。


「あ、私、ここで子ども達の養育係を任されているメルミッテと言います」

「僕はレコ、レコ=ミルーイです。これからウチの子もお世話になると思いますので、よろしくお願いしますね」

「もももちろんですっ! 良かったぁ、いい人――いいヴァルフェルさんで」


 そう自己紹介し合うと、メルミッテさんは手を振りながら場を後にした。

 きっとあの子ども達を捕まえる為に必死なんだろうなぁ、大変そうだ。


 でもあの人はとても優しそうだし、雰囲気が僕と似ているから好感が持てる。

 ああいう人とうまく付き合えるといいなぁ。




 こうしてまるで嵐のように悪い事と良い事が過ぎ去った。

 だけど僕達はまだ来たばかりだからきっと別のハプニングも待っている事だろう。


 ――なんて思っていたら案の定、やっぱり事件が起きました。

 どうやら世間は僕達を静かに暮らさせるつもりなんてないらしい。

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