第83話 知らしめなければならない事
「まもなくアジトに着くようだ。この前に君が訪れた所と同じ場所だよ」
「あの頃がもう懐かしいですね」
結果的に反乱軍デュラレンツからの協力要請を受ける事となった僕。
ユニリース達を守れるならそれでも構わないとして。
幸い、シャーリヤさんはユニリースにまだ気付いていない。
おそらくはラーゼルトからの情報が歯抜けだからだろう。
ユニリースの存在は凱龍王の言いつけで最重要機密扱いだからね。
けどこれからも隠し通すのはおそらく不可能に近い。
アジトは閉鎖空間だし、共同生活を送る上では隠れきれないだろうから。
ならば早々に手を打たなければ。
そう思考を巡らせつつ、機内の状態にも気を配る。
どうやらアジトの中に着陸したようで、ガタガタとした振動が伝わって来た。
そんな中でもユニリースは落ち着いたもので、僕をまた見上げていて。
彼女の丸くつぶらな瞳が何を訴えているのか、今だけはよくわかる気がする。
〝あたし達はただ逃げ続けても仕方ないんだ〟ってね。
「無事に着いたが、まず今までの情報を本体にフィードバックさせてくる。それまで少し待っていてほしい」
「わかりました。あとできれば他の代表達も連れて来てくれるとたすかります」
「それはおそらく心配いらないだろう。皆、君の事に興味津々だったから」
なので僕はその意思を汲んでこんなお願いをした。
もちろん、ただ自己紹介を済ます為じゃないけれども。
そこで僕は降りていくシャーリヤさんに続いて機外へと踏み出す。
子ども達には少し機内で待っていて欲しいと制止しながら。
すると輸送機の陰からさっそく本体のシャーリヤさんが現れた。
「よくやったな分身。本当にあのレコ殿を連れて帰るとは」
「しかし色々と言伝を受けている。詳しくは記憶フィードバックで知って欲しい」
「了解だ。誰か、転魂装置を持ってきてくれ」
それで本人同士でそう交わし、さっそくと運ばれてきた転魂装置に互いを繋ぐ。
ヴァルフェルが持ち込んだ記憶を本体へと戻すためにと。
こうする事で本体がヴァルフェル側の記憶や体験を得る事ができるのだ。
おまけにより簡単に偽魂も消去できるので一石二鳥という訳さ。
ただ腕を吹き飛ばされた影響からか、本体が少し苦しそうだけども。
うっかり千切っちゃってすみません……。
――という訳で数分後、本体のシャーリヤさんが苦悶の表情を浮かべつつも装置から離れ、僕へと近づいて来る。
やはり片腕を失くすという体験は相当にきつかったようで、額がもう汗だくだ。
「随分と派手にやってくれた。まさか君が魔法を使っているとは思いもしなかったよ。常識外れな存在だとは聞いていたが、ここまで規格外だと本当にヴァルフェルなのか怪しく思えてならないな。実は中に本体がいるんじゃないか?」
「だからって解体とかされるのはごめんこうむりたい所ですね」
「わかっている。そんなのでも私達の協力者である事に変わりはないのだからな」
他にも色々と本体だからこそ理解できた事も多いみたいだ。
だからかちょっと驚きと憤りも混じっているようで、少し当たりがきつい。
『そんなの』なんて言われてちょっと僕もイラっとしちゃったけれど。
けどそんな些末な言葉で彼等の好意を無駄にするつもりは無いよ。
今も他の代表者らしい人達が集まって来ているし、失礼は避けないとね。
「だが君の戦闘能力はきっと私達にとってこれ以上に無い希望となるだろう。ならば私達は君に対して最大の敬意をもって歓迎するべきだろう。改めて、ようこそデュラレンツのアジトへ。協力要請を受けてくれて本当にありがとう」
「いえ。それで、約束の事なのですが……」
「わかっている。子ども達の保護の約束だろう? それならなんて事は無い。ここには非戦闘民やその家族、子どもだっている。きっと有意義に過ごせることだろうさ」
「それならいいのですが、それでも敢えて言わせてほしい事があるのです」
「なんだね?」「特別待遇はできんぞ?」
ただし、僕達の権利も行使させてもらうけれど。
そこで僕はシャーリヤさんの前で大きく立ち、皆の注目を集める。
今ならここにいる全員にだって言いたい事が伝わるだろう。
「皆さんの前なのでもう一度言いますが、子ども達は僕の大切な家族です。そんな家族をあえて危険に晒したり、卑下したり、不当な扱いを行わないと約束してください」
「当然だ。我々は人の権利を守る者として――」
「手厚いお言葉をどうもありがとうございます。じゃあユニリース、こっちへ来て」
「うんっ!」
僕達はここにいる全員に示さなければならない。
彼等が一体何を相手にそう誓ったのか、誓うべきなのかと。
それは決して口約束だけでなく、言葉だけでも無く。
心の底から「誓わなければならない」と思い知らなければならないんだ。
ゆえに今、ユニリースが己を覆うフードとマスクを取り払う。
そして誰もが気付き、困惑し、驚愕の声を上げるのだ。
アテリアという希少的存在を目の当たりにした事によって。
「今いただいた言葉はここにいる皆さんの総意として受け取りました。その上でもし彼女、ユニリースの存在を蔑ろにした場合、僕はこの組織さえも害悪とみなすでしょう」
「「「えっ……?」」」
「その末にもし救いの無い組織だと判断した場合、僕がデュラレンツを滅ぼします」
「「「――ッ!?」」」
例え反乱軍でも、アテリアを利用しようと考える者はそう少なくないだろう。
反乱軍から抜け、他国へ彼女を売って楽に生きようとする者だっていてもおかしくはないのだから。
だけどそうさせる訳にはいかない。
そうしてはいけない、と思わせなければならないのだ。
何人たりとも、どんな事があっても。
「そうなった時は誰一人として逃がすつもりなんてありません。僕は全力をもってユニリース達を救い出し、確固たる報復を行うでしょう。海艦国家ギーングルツを一人で制圧したように」
「なッ!? あのギーングルツを一人でだと!?」
「馬鹿な、小規模とはいえあそこは皇国並みの――」
「その事を肝に銘じて、僕の家族をどうか『人並み』に扱ってください。それ以上の願いはありませんから」
「わ、わかった。わかったからどうか落ち着いて話そう!」
どうやらこの脅しが彼等には程よく伝わったらしい。
ギーングルツでの実績もあるからね、僕にできない事は無いと伝えられたよ。
おかげであのシャーリヤさんもが驚愕を隠せないらしい。
でもこれでユニリースはおそらく平気だろう。
例え離反者が出たとしても、彼等自身が彼女を守ってくれるはず。
もしそうできないのであれば、宣言通り僕がここを殲滅するだけさ。
例えそれが機械的思考だと言われようとも関係無い。
子ども一人守れないような反乱軍ならどの先不要なのだから。
いっそ僕一人で皇国と戦った方がいいんだってね。
こんな脅し文句があったおかげで後の対応はとても丁寧だった。
ユニリースの扱いに関しては特に、全員へ周知徹底するとも伝えてくれたし。
おまけに僕達に一つの専用居住スペースまで用意してくれる事になったんだ。
さすがにここまでは望んでいなかったけれど、子ども達を守るためにもと念を押されたので甘んじて好意を受ける事にしたよ。
これからこの場所に住む以上、居場所があるのは助かるからね。
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